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22 魔力操作

今日で連載を始めて一年が経ちました。

この一年色々ありましたが、続けてこれたのは偏に応援してくださった皆様のお陰です。

ありがとうございます!


 謁見から数日後、文官さんから連絡があり、恩賞について色々と打ち合わせをした。

 そうしてゲットしたのは、禁書庫の閲覧許可証。

 これがあれば、禁書庫内にあるほぼ(・・)全ての本が閲覧できる。

 本当にごくごく一部、それこそ国王陛下と宰相様くらいしか見れないような記録もあるらしく、そういうものは見れないらしい。

 私が読みたい本は、今のところ薬草に関してだけなので、それについて特に問題はない。


 それから、講義。

 こちらの恩賞については内容が増えた。

 話してる最中に、文官さんが「他にも学びたいことがあれば遠慮なくおっしゃってください」なんていうから、つい調子に乗って色々と聞いてしまった。

 思いつくままに、これは学べるか、あれは学べるかと確認した結果、学んでみたいなと思っていたもの全てが学べることが分かった。

 全部承諾してもらえるなんて、驚いたわ……。


 増えたのは、スランタニア王国の歴史や周辺地域の情勢、経済、後はマナーなど、結構多岐に渡っている。

 もしも将来王宮を出るならば、知らないより知っておいた方がいいだろうと思うこと、思いつくままに言った結果だ。

 聞くところによると、私の選んだ講義は王立学園(アカデミー)でも学べるものばかりらしい。

 そのため、思っていたよりも敷居が低かったのかもしれない。


 うっかり、欲張り過ぎて増えてしまった講義だけど、途中で問題に気付いた。

 これだけの講義を全て受けるのに、一日何時間必要なんだろうかと。

 研究所での仕事もあるし、一日が三十六時間ないと無理よね。

 この世界でも一日は二十四時間しかないというのに。


 選んだ講義の中から更に取捨選択するかと残念に思っていたら、問題はあっさりと解決した。

 私が講義を選んでいる様子を見ていた所長から、講義に専念しても良いとお許しが出たのよ。

 仕事は空いている時間にでもすればいいって。

 えっ? そんなんでいいの?

 疑問に思ったのが顔に出ていたのか、所長が理由を教えてくれた。

 私が行っている研究は丁度行き詰っているんだけど、新しく学んだことが研究にヒントを与えてくれるかもしれないから、どんどん学べという話だった。

 確かに、そういうこともあるわよね。

 所長のありがたいお言葉に甘えることにした。


 そうして諸々のことを調整して、王宮で講義を受ける生活が始まった。






「おはようございます」

「おはようございます。今日は昨日に引き続き、魔力操作について学びましょうか」



 謁見でお願いした魔法についての講義は、なんと宮廷魔道師団の師団長様が担当してくれることになった。

 師団長ともなると忙しいのではないかと思って確認してみたけど、問題はないらしい。

 問題はないと言われても、こちらとしては申し訳ない気持ちで一杯だったりする。

 魔法については完全に素人の私に対しての講義なんて、初歩も初歩の内容で、とても師団長様に教えてもらうような内容ではない。

 最初は学園(アカデミー)の一年生が習う内容らしいし。

 例えるならば、中学生の授業で大学教授が教えるようなイメージかな。

 だから、講師は忙しいであろう師団長様ではなくても、もう少し時間のある、普通の宮廷魔道師さんで十分だと思う。

 師団長様に正直に思ったことを伝えると、どうして彼が担当してくれることになったのかを教えてくれた。


 まず、例の私の魔力がこの世界の人と異なる件について、本格的に宮廷魔道師団で調査させてほしいとお願いされた。

 宮廷魔道師団では魔物の討伐以外に魔法の研究も行っていて、師団長様も魔法の研究に携わっているそうだ。

 師団長様から見て、私の魔力というのは非常に興味深いものなんだとか。

 私の作ったポーションなどの効果が、他の人が作った物と比較して高いという話は、師団長様の耳にも入っていて、彼もこの現象に魔力が関係してそうだと考えたらしい。

 そこで、実際に魔力が関係しているのか、それ以外にも変わった点はないかを調べたいと言われた。

 魔力の影響については、私も知りたいと思っていたことで、専門家が調べてくれるのは歓迎だったりする。


 調査だけであれば、師団長様以外の人でも可能だと思う。

 ただ、ここに師団長様でなければいけない理由があった。

 師団長様の話では、【聖女】の能力に関する事柄はどれも国家機密となるそうで、過去の聖女達についても、詳細な記録は殆ど残されていないらしい。

 記録が残っていない理由も不明。

 理由まで不明だなんて、かなり厳重に情報統制が敷かれていたみたいね。

 私の魔力についても同様で、今回この調査を行うに当たって、結果を知る人間は少なければ少ないほどいいだろうと上層部が判断したそうだ。

 そういった理由で、調査も師団長様が行うことになったんだとか。

 それ以外にも、師団長様自身が、この国で最も魔法に精通している人だから丁度いいよねという判断もあったそうだ。


 調査に当たっては何か特別なことをする必要は殆どなく、この講義の間に魔力を使用するところを観察するくらいらしい。

 そのくらいなら構わないかと思い、了承すると、師団長様に物凄くいい笑顔でお礼を言われた。

 そうして講義は始まった。


 最初の数日は、魔法の基礎に関する講義で、魔力とはどのようなものか、魔法を使用した際に体内の魔力がどのように使われるのかなどを教えてもらった。

 こうして講義を受けてみると、師団長様の講義は非常にわかりやすい。

 宮廷魔道師団にいる誰よりも魔法に精通していて詳しいというのは伊達ではないらしい。

 もっとも、知識があるのもだけど、元々頭が良かったんじゃないかなとも思う。

 だって、教え方上手なんだもの。



「何か分からないところはありますか?」

「いえ、大丈夫です」



 一通りの説明が済み、質問があるかと聞かれたけど、特にはない。

 分かった気になっているだけだったりするのかもしれないけど、それはこの後確認できる。

 この後の実技でね。

 講義は、前半に座学があって、後半が実技となっている。

 もちろん実技も師団長様が担当だ。

 実技は宮廷魔道師団の隊舎にある演習場で行っている。

 講義を受けている部屋からは少し距離があるのだけど、師団長様と話しながら歩いているので、それほど距離は気にならない。

 一人だったら、多分挫折している。

 理由は、演習場までの距離だけではない。

 実技も師団長様が担当してくれるなんて贅沢だな、なんて最初は思っていたけど、そんな気持ちは数日で消え去った。

 その柔らかい物腰とは裏腹に、師団長様の指導はスパルタだった。



「はじめましょう。進め方は前回と同じで」

「はい」



 演習場に到着し、少しの休憩を挟んだ後、実技が始まる。

 前回と今回の講義で教わったのは、魔力操作について。

 これを極めると、魔法の発動までに掛かる時間が短縮できるみたい。

 魔法を使うときには、掌なんかに魔力を集中させる必要があって、この集中に掛かる時間を短くできるんだとか。


 ちなみに、魔力操作の実技だけなら、演習場まで来る必要はなかったりする。

 体内にある魔力を集中させる場所を、腕とか足等の任意の場所に順番に移動させるだけでも訓練になるらしいからね。

 ところが、魔力操作だけできても意味がないという師団長様の方針の下、魔力操作をしながら魔法をすばやく発動させるという実習が課せられた。

 聖属性魔法だけなら、別に講義を受けた場所で魔法を発動させても問題ないと思うんだけど、ここにはもう一人魔法を扱う人がいる。

 私の隣で、煽るように他の属性魔法をポンポンと発動させる人が。

 誰あろう、師団長様だけど。


 宮廷魔道師団を纏めているだけあって、師団長様の能力は高いのだろう。

 隣で発動している属性魔法も一種類じゃなくて、三種類くらいの属性を交互に発動させているし。

 魔力操作もスムーズなんだろうね。

 私が魔力を溜めるよりも更に速い速度で溜めるからか、私が一回発動させる間に、師団長様は二回は発動させている。

 師団長様と同じ速さで発動できるようになれって話なんだけど、要求が高過ぎない?

 魔法について勉強を始めたばかりの私にこの要求って、中々にスパルタだと思う。

 速度を重視すると、途端に魔力操作が疎かになるのか、発動しなかったりするし。

 これを同時にって……。



「もう少し速くできませんか?」

「これ以上はちょっと。……いきなり師団長様と同じ速度というのは、難しいです」

「これでもまだ手加減はしてるんですけどね」



 笑いながら、そう言う師団長様は、まだまだ余裕そう。

 こちらは一杯一杯だっていうのに。

 座学で学んだとおりの理論で魔力操作を行えば、師団長様と同じ速度で魔法を使えるって言うけど、いざ実践となると難しいのよね。

 ポーションを作るのにも繊細な魔力操作が必要とされているみたいだから、それなりのランクのポーションが作れる私はそれなりに魔力操作もできると思っていたんだけど、その予想は外れたようね。

 魔法を使う方が繊細な魔力操作を必要とするみたい。

 まだまだ師団長様の要求するレベルには追いつけなくて、何だか悔しい。

 こうなったら、只管練習あるのみね。

 そう思って、ただ無心に魔法を発動し続けた。


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