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舞台裏05 思惑

※本編の18話~21話に大幅な修正が入っております。

※お手数をおかけしますが、18話から読み直していただければと思います。


ブクマ&評価&感想ありがとうございます!


祝 70,000pt突破!

色々とドタバタしている間に、ここまでポイントが上がっていました。

偏に、読んでくださる皆様のお陰です。

ありがとうございます!


 王の執務室にノックの音が響く。

 部屋の中にいた侍従が取り次ぎ、恭しく部屋の主に来客を伝えた。



「宮廷魔道師団・師団長、ドレヴェス様がおいでになりました」

「わかった。通せ」



 主の言葉に、侍従は恭しく礼をすると、再び入り口へと向かう。

 暫くして、彫刻のように整った顔に微笑を貼り付けた男が現れた。

 男もまた恭しく主に礼をする。



「ご報告があり参上いたしました」

「そうか」



 言葉少なめに告げられ、その報告の内容を察した国王は、人払いをした。

 部屋の中には国王と、丁度部屋に来ていた宰相、そして師団長のみが残った。



「報告とは、【聖女】の件か」

「はい」



 宰相の問いに、師団長は頷きをもって返す。

 そして、聖女候補である二人に鑑定魔法を施した結果を伝えた。

 結果を聞いた国王と宰相の二人は唸り、押し黙った。


 師団長の報告では、アイラへの鑑定は問題なく終わり、その結果判明した彼女のステータスを書き写した物が報告書と共に提出された。

 問題は、もう一人の候補であるセイの方である。

 師団長の鑑定魔法が弾かれ、ステータスの確認ができなかったのだ。

 これには二人とも驚いた。

 何故ならば、宮廷魔道師団の師団長といえば、この国で最も基礎レベルが高く、最も魔法に秀でた者として、その名を国中に轟かせていたからだ。


 鑑定魔法を人に対して使用する場合、相手の承諾がないと弾かれる場合がある。

 ただそれは、魔法を使う者と受ける者との基礎レベルが同じ場合だ。

 魔法を使う者の基礎レベルの方が高い場合、例え相手が拒否したとしても強引に確認することが可能であった。

 故に、王宮の人間は、師団長が鑑定魔法を成功させることに疑問を持たなかった。



「弾かれたということは、彼女の方が基礎レベルが高かったということか?」

「そのようです」

「ちなみに、彼女のレベルは?」

「55だと聞いています」

「55……」



 鑑定魔法はまた、魔法を使うものより受ける者の方が基礎レベルが高い場合は、ほぼ弾かれる。

 このことから師団長よりセイの方が基礎レベルが高いという推測はすぐに導き出された。

 その推測は正しく、更に師団長から聞いた話では、セイの基礎レベルは55レベル。

 この国で最も基礎レベルが高いといわれている師団長よりも10レベルも高かった。

 このレベル差では、弾かれるのも無理はない。

 この部屋にいる誰もが、そう思った。



「それでは、彼女達のどちらが【聖女】かは未だに分からないということか」



 宰相が険しい顔で呟いたが、それに対し「いいえ」と師団長は答えた。

 はっとした顔で二人の視線が師団長に集中する。

 視線を受けた師団長は、作り物のような微笑を浮かべたまま黙する。



「どちらだ?」

「……、恐らくセイ様かと」



 国王の短い問いかけに、師団長は一呼吸置いて返した。

 答えを聞いた国王は息を呑み、その後、深く息を吐いた。


「間違いないのか?」

「推測になりますが、十中八九」

「そうか」

「何故そう思った?」



 表情を変えずに答える師団長に、宰相が根拠を尋ねる。

 問いかけられた師団長は、立て板に水を流すように説明を続けた。

 病院でセイが聖属性魔法を使ったこと。

 それを見た騎士から、普段と様子が違ったという報告が上がったこと。

 セイとアイラの二人に聖属性魔法を使ってもらった結果、それぞれ様子が違ったこと。

 その結果をもって、セイが【聖女】であると判断したことを。


 最初は金色の粒子が混ざる現象は、異世界から召喚された人間特有のものかと師団長は考えていた。

 しかし、アイラが魔法を使った際には、この世界の人間が使った場合と様子が同じだった。

 聖属性の魔力は、ただ白く光るだけで、セイのように金色の粒子が混ざっているというようなことはなかった。

 これによってセイが魔法を使った際の現象が、異世界人特有のものではなく、彼女特有のものである可能性が高いと、師団長は結論付けた。



「金色の魔力は、恐らく【聖女】特有のものだと思われます。また、魔力が関係する事象に対してのセイ様の能力は常人よりも優れており、こちらに関してもアイラ殿とは異なります」

「なるほど」



 説明を聞いた国王は頷き、何かを考えるように視線を机の上に落とした。



「ご苦労だった。下がってよい」

「はい。失礼いたします」



 師団長が部屋を辞したのを確認し、宰相が口を開いた。



「さて、困ったことになりましたな」

「そうだな。アレは相変わらずか?」

「息子の話では、そのようでございますな」



 宰相の言葉に、国王は重い溜息を吐いた。

 アレとは第一王子のことである。


 【聖女召喚の儀】の統括を行った第一王子は、そのまま儀式で喚び出されたアイラの後見人に納まっている。

 後見人となった第一王子は、精力的にアイラの保護に努めているが、盲目的に邁進した結果、最近では周りの者との間に軋轢が生じていた。

 そのことは、周りの者からの報告で国王の耳にも届いており、彼の頭を悩ませていた。

 無論、国王から何度かその件に関して第一王子に忠言はあった。

 だが、その場で話を聞きはするものの、第一王子の態度が改められることはなかった。


 いっそ、第一王子とアイラ、二人を強制的に離すべきかという話も上がっている。

 しかしそれもまた、王位継承問題が絡むことで難しくなっていた。

 他に重要な案件でもあれば、そちらに取り掛からせるという名目で引き離すことも可能だったが、生憎喫緊の案件がなかった。

 理由もなく無理に二人を離すことは、現状では第一王子の瑕疵になり、第二王子を推す勢力を勢い付かせる結果となる。

 そうなれば、今までは落ち着いていた継承問題が表面化するかもしれない。

 上層部がそう考えた結果、この件に関しては膠着状態に陥っていた。


 もう一つ、第一王子に関しては問題があった。

 何の因果があってか、第一王子は儀式当時、同時に喚び出されたセイには気付かず、その場に放置した。

 その結果、セイの怒りを買い、その後周りの者が対応に苦慮したという経緯がある。

 今回の師団長の報告により、セイが【聖女】であることがほぼ確定した。

 こうなると、彼女の怒りが国に向かっているのは非常に問題となってくる。

 そして、それを引き起こした第一王子に対しても、より厳しい目が向けられるだろう。



「そろそろ、腹を括らなければならないか……」



 ぽつりと独り言のように、国王は零し、宰相はただ静かに、その様子を見ていた。


 ここに至るまでに、セイが【聖女】であるかないかに関わらず、国にとって非常に有益な人間であることは判明している。

 そのため、これまでの貢献に対する恩賞や、第一王子の非礼に対する謝罪が必要だろうという話も上がっていた。

 今回セイが【聖女】だとほぼ確定したことにより、その声は更に大きくなるだろうことが予想された。



「正式に謝罪が必要となるな。準備はどうなっている?」

「大よそ整っておりますが、今回の件を受け、多少修正が必要かと」

「そうか。既に召喚から結構な期間をおいている。なるべく早く整えるように」

「かしこまりました」



 国王の言葉に、宰相は恭しく頭を下げ、答えた。

 暫く沈黙が落ちた後、国王は徐に「セイ殿についてだが……」と口を開いた。



「今後は【聖女】として待遇する必要はあるが、あまり派手にはしない方がいいだろう」

「左様ですか?」

「あぁ、以前少し話をする機会があったのだが、派手なことは苦手としている風だった。恩賞についても貴族が欲しがるような物を挙げてみたが、全て断られた」

「それはまた……、難しいですな。できれば、爵位や領地を受けてもらい、この国に留まっていただきたいのですが」

「それも断られている。報告を聞く限り、彼女達はかなり高度な教育を受けているようだ。こちらのそうした思惑も案外見透かしているのかもな」



 国王は自嘲気味に笑うが、宰相はその話を聞いて頭が痛いという風に、額に手を当て、頭を小さく横に振った。

 それから、謝罪のための謁見について、細かいことを打ち合わせた。

 例えば、どれくらいの規模にするのかや、出席者を誰にするのかなどだ。

 その内容は、今後セイをどう遇するのかということを踏まえてのものとなる。

 最終的に、会場は国外からの使者と会う謁見の間ではなく、それよりも小規模な玉座の間となり、謁見には国王と宰相の他、各大臣や各騎士団の団長等、上層部のみが出席することとなった。

 セイに最大限配慮し、また国王達の思惑を多分に含んだ結果だった。






「ただいまー」



 そういいながら、宮廷魔道師団の師団長室に入ってきたのは、部屋の主であるユーリだった。

 師団長室にはユーリの執務机の他に、副師団長のエアハルトの机もある。

 エアハルトの机がそこにあるのは、本来師団長が行うはずの作業の殆どを彼が行っているからだ。


 ユーリは子供の頃にその才能を前宮廷魔道師団長様に見出され、後に養子となった。

 そして、元からの才能と前師団長の英才教育により、立派な魔法研究家に育った。

 それこそ、魔法のこととなると目の色を変えてしまう程度に。

 学園を卒業した後は、そのまま宮廷魔道師団に配属となり、嬉々として魔法の研究に没頭した。

 彼が王国一の基礎レベルであるのも、研究のためだ。

 魔法の研究を進めるために、魔法スキルのレベルを上げる必要があり、その過程で基礎レベルが上がっただけである。

 研究のためなら、一人で討伐に行くことも厭わず、付いたあだ名は戦闘狂など、あまり魔道師には似つかわしくないものばかり。

 気付けば、宮廷魔道師団の中でも他の追随を許さないほど、魔法に精通していた。


 名誉ある宮廷魔道師団の師団長という役は、実際にはユーリを王宮に留めておくための首輪だ。

 師団長であれば、好きなように魔法の研究ができる。

 ただそれだけのために、ユーリは師団長となった。

 そのせいか、魔法の研究は行えど、師団長としての業務は必要最低限しか行わない。

 自分の興味を引くこと以外には割りと無頓着であった。

 そして、その補佐に駆り出されたのがエアハルトである。



「報告してきたよ」

「ステータスについて追求されなかったか?」

「特にされなかったね。基礎レベルは聞かれたから伝えたけど」

「そうか」

「セイが【聖女】だと思うって伝えたから、そっちに気を取られたからかもね」



 国王の執務室のときとは違い、無邪気な笑顔を浮かべるユーリとは対照的にエアハルトの表情は厳しい。

 それに気付いていないのか、ユーリはそのまま話を続ける。



「これからセイと接触できる機会も増えるかな?あの魔力に興味あるんだよねー」

「…………」



 自分達とは異なるセイの魔力に、ユーリは興味を掻き立てられていた。

 あの魔力を近くで観察したい。

 自分達とはどう違うのかを研究したいと。

 セイが【聖女】であれば、今後討伐などで接触する機会が増え、魔力を観察する機会も増えるだろう。

 そう思っての発言だった。

 そこまで言って、エアハルトの表情が厳しいことに気付いた。

 ユーリはくすりと笑う。



「そんなに睨まないでよ。大丈夫、ちょっと魔力を見せてもらうだけだって」

「…………」

「相当、彼女のこと気に入ってるんだね」

「そういう訳ではない。貴様が何かやらかさないかを心配してるんだ」

「えー、それだけ?エアも珍しく普通に接してたって聞いたから、気に入ってるんだと思ってたよ。そういえば、エアの弟君も相当彼女のこと、気に入ってるんだってね」



 弁明をしてもエアハルトの表情が変わらないことに、ユーリは苦笑する。

 あのエアハルトが、こんなに女性のことを気にかけるなど珍しい。

 やはり噂は本当だったのかなと思いながら。


 【聖女召喚の儀】の直後から、ユーリは昏睡状態に陥っていた。

 ただ、自身が眠っている間の聖女候補達に関する話は、他の人間から聞いて大体把握している。

 【聖女】が使うという魔法や、異世界から召喚された人間が使う魔法といったものに興味があったからだが、その過程でホーク家の兄弟がセイと懇意にしているという話を聞いた。

 ホーク家の兄弟が女性を苦手としている話は社交界では有名な話だ。

 社交界には興味がないユーリが知っている程度には、王宮でも有名である。

 実際、貴族のご令嬢達に冷たく対応するエアハルトの姿を何度か見かけてもいた。

 その彼が、以前セイが宮廷魔道師団に来たときに普通に接していたと聞いて、魔力の話を抜きにしても、少し彼女に興味を持ったのだ。

 エアハルトの態度に驚いたのはユーリだけではない。

 目撃した魔道師達もであり、副師団長に春が来たのかと宮廷魔道師団で一時噂になっていたくらいだ。

 もっとも、弟であるアルベルトの噂の方が信憑性が高かったため、すぐに掻き消されてしまったが。


 ユーリも魔法に関すること以外は興味が薄い。

 同じ宮廷魔道師団の人間についても、興味がなく、殆ど知らない。

 ユーリは全属性の魔法が使えるため、本来であれば誰か他の人間に頼らなければいけない実験でも、自分だけで行えてしまうことが多く、絡むことが極端に少なかったせいもある。

 しかし、エアハルトは師団長の業務をユーリの代わりに行っており、関わることが多いからか、ユーリの中では親しいと思える人間だった。

 そう思っているのは、ユーリだけかもしれないが。

 数少ない友人の一人である彼の不興を買うのは、ユーリとしても避けたい。



「彼女には危害を加えないよ。加えたら、君達兄弟や、薬用植物研究所の所長さんとか、色々な人から怨まれそうだしね」



 ユーリは笑いながら告げたが、エアハルトの方はいまいち信用しきれなかった。

 研究のこととなると、とかく夢中になるユーリのことだ。

 事実、以前それが原因で問題を起こしたこともある。

 表面上は納得をしたように取り繕ったが、今後ユーリがやり過ぎないよう目を光らせなければならなくなったことを憂い、エアハルトは内心溜息を吐いた。


舞台裏では色々と補足したかったのですが、思った以上に筆が進まなかったので、省いています。

色々と足りない部分があるとは思いますが、ご容赦いただけると助かります。


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