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20 準備

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更新、お待たせいたしました。


いよいよ書籍が明日発売となります!

皆様の応援のお陰です。

本当にありがとうございます!


 宮廷魔道師団での鑑定から二日後、王宮より使者が来た。

 王宮から使いが来ることは、これまでにも何度かあったけど、今回はいつもとは違って格式ばったものだった。

 所長が研究所の玄関で出迎えるくらいにね。

 所長に呼ばれて、私も一緒に出迎えた。

 玄関で所長と使者さんの堅苦しい遣り取りが終わった後は、彼らと共に所長室に移動した。


 どうしてこんな仰々しい使者さんが来たかというと、彼が持って来たのが私宛ての、国王陛下からの手紙だったからだ。

 手紙に書いてあったことを要約すると、こうだ。

 明日、王宮にてお会いしたい。

 えーっと、これって謁見という奴じゃない?



「所長」

「どうした?」

「陛下とお会いするのに着ていく服がありません」



 手紙を見て、思い当たったのは、最初に陛下とお会いした時に話した内容だ。

 あの時、公式な謝罪がどうこう言っていたから、それなのかなと。

 いや、そんな大げさな謝罪はいらないって、断ったような気がするのだけど、断りきれてなかった?

 この国の簡単なマナーはリズに少しばかり習ったけど、国王陛下の謁見に耐えられるほどは習っていない。

 なので、服を理由に断ろうとしたのだけど、それは失敗に終わった。



「セイ様が何かを準備される必要はございません。全て王宮にて準備させていただきます」



 これである。

 仕方がないので、マナーに不安があるのでと正直に話して断っても、問題ないので是非にと言われる始末。

 使者さんの恭しい態度に一抹の不安を覚えながらも、これ以上渋るのも問題かなと思い、了承した。

 断っても良かったのかもしれないけど、そうするともっと大変なことになりそうな気がしたのよ。

 図書室で陛下にお会いしたときも、領土とか爵位とか、色々なものを渡してこようとしてたし。

 今回の話を断って、まだ私が怒っていると認識されて、それらを用意されたら非常に困る。

 手に負えないもの。


 後は、あんまり断っていると所長に迷惑がかかるかなと心配したのもある。

 研究所からしてみれば、陛下は上位組織の長にあたるしね。

 異世界から喚び出された私はともかく、元からこの国の人間だった所長には何かしらのお咎めがあるかもしれない。

 お咎めはなくとも、私と上司の板挟みにあって、苦労はしそうよね。

 中間管理職の辛いところだ。

 所長には色々とよくしてもらっているから、こんなことで迷惑はかけたくない。

 まぁ、こんな心配をしていると所長に伝えても、「心配するな」の一言で済まされそうだけど。






 使者さんが来た翌日。

 早朝から私は王宮に移動し、謁見の準備に取り掛かった。

 国王陛下に会うともなると、色々と準備が必要らしい。

 そんな朝早くから準備する必要ないのではないかという私の意見は、使者さんによってあっさりと却下された。


 王宮に用意されていたのは、ホテルのスイートルームのように寝室とリビングが続き部屋となっている広い部屋だった。

 部屋に入るなり、待機していた侍女さん達に集られる。

 部屋付きの浴室に移動させられ、あっという間に服を脱がされ、まずは湯浴みとなった。

 研究所で毎日お風呂には入ってるので、今また朝から入らなくてもいいんじゃないかと思うのだけど、そこは譲れないらしい。

 侍女さんの手で頭の先からつま先まで、隅々まで洗われる。

 恥ずかしいことこの上ないのだけど、これは既に経験済みだったりする。

 召喚された直後、しばらく王宮に住んでいたときに同様の経験をしたのよ。

 慣れって怖いわ。

 今回部屋にいた侍女さん達は、召喚直後に私の部屋付きだった人達だったので、恥ずかしさに耐えられたのかもしれない。


 お風呂から上がった後は、これまた侍女さん達の手で、念入りに全身をマッサージされる。

 ゼラニウムやベルガモットなどの精油の入ったボディーオイルを使っているから、いい匂いが部屋中に広がる。

 侍女さん達のマッサージも熟練の腕という感じで、とても気持ちいい。

 朝が早かったこともあって、うたた寝してしまうのは仕方ないよね。

 そうして、マッサージの後、私がぼんやりしている間に、化粧なんかもさくっと終わった。

 セイ様と呼ばれる声で我に返って、鏡を見ると「これ誰?」って言いたくなるくらい、磨かれた私がいた。

 髪もいつもどおり下ろしているだけなのだけど、香油をつけた後に丁寧に梳られ、天使の輪ができている。

 侍女さん達も、やり遂げたという感じで、その出来栄えに満足そうだ。


 全身の準備が整ったら、後は着替えるだけ。

 侍女さんの手によって広げられた衣装は、予想していたドレスではなく、光沢のある白い布地に金糸で優雅な刺繍が施されたローブだった。

 ここまで、どこの高位貴族のご令嬢よと突っ込みたくなるくらい、準備を行っていたので、ちょっと驚いた。

 てっきり、ウエストを絞った、あのドレスを着せられると思ってたのよ。

 ローブは宮廷魔道師団の人達が着ていたのと似ていて、更に豪華。

 見ていると、これって……と思わなくもない。

 何だか物凄く聖女っぽい。

 思わず頬が引きつる。


 鑑定の時に【聖女】だと確定付けるような行動をした覚えはない。

 けれど、あの時のことを思い返し、かなり黒よりのグレーな行動を取っていたなと思い直した。

 結局ステータスは書かなかったし、疚しいところがあるようには見えたよね。

 実際あるし。

 私の態度から色々と推測され、王宮ではもう【聖女】として扱われているのかもしれない。

 そんなことを考えながら、侍女さんによって着替えは着々と進んだ。


 全ての準備が整い、全身が映る鏡を見ると、そこには【聖女】がいた。

 うん。

 何を言ってるのかって?

 自分でもびっくりだよ。

 後光が差してるんじゃないかというくらい、清廉で、【聖女】っぽく見えるんだもの。

 誰だこれって突っ込みたい。



「お美しいですわ」

「ありがとうございます」



 侍女さん達の中でもリーダーだと思われる人に褒められた。

 彼女達の腕が良かったからこそだと思うので、そこは素直にお礼を言う。

 こちらに来てから肌とか大分綺麗になったと自画自賛してたけど、本職の手で磨き上げられると、更に凄いことになるのね。

 一段と肌が明るくなっていて、それが嬉しくて、ちょっとだけテンションが上がる。

 すごいわーと思いながら鏡に顔を近づけてまじまじと見ていると、来客があると伝えられた。

 既に人前に出ても恥ずかしくない格好をしているので問題はない。

 部屋に入ってもらうよう伝える。

 今いるのは寝室だったので、もう一度、鏡で全身を確認してから、リビングの方に移動した。



「ホーク様?」



 リビングに入ると、団長さんがソファーに座っていた。

 え?何で?

 目を丸くしていると、団長さんが立ち上がり、こちらに向かってくる。



「おはよう、セイ」

「おはようございます。あの……、どうされたんですか?」



 微妙な聞き方をしてしまったせいで、団長さんは一瞬首を傾げたけど、すぐに私が何を聞きたかったのかを推定してくれた。

 今日これから陛下にお会いする訳だけど、その陛下がいる部屋までの護衛をするために来たのだそうだ。

 護衛!?

 いや、王宮の中を移動するだけなのに必要ないですよね?

 びっくりしていると、困ったように笑われる。



「一人じゃ心細いかと思ったんだが、余計だったか?」

「あ、いえっ!? そんなことはありません!」

「よかった」

「あの、ありがとうございます」



 慌てて首を横に振ると、団長さんはほっとしたような表情(かお)をした。

 初めての謁見というのは、この国の人でも緊張するものらしい。

 そういうときに知り合いが近くにいれば少しでも心強いだろうからと、態々来てくれたんだそうだ。

 謁見の話は所長からも聞いていて、所長も心配していたと団長さんは言った。

 二人の優しさに心が温まる。

 ありがとうございます。

 心の中で感謝していると、団長さんがじっと私を見ているのに気付いた。



「何か?」

「いや……。いつもとは違うが、今日も綺麗だと……」



 疑問に思って尋ねると、団長さんは一瞬言葉に詰まった後、柔らかな笑顔と共に爆弾を落とした。

 最近、所長の攻撃に少し慣れてきたとはいえ、団長さんは団長さんでまた攻撃力が高い。

 ほんのりと頬を染めて、少し抑え目の声でそんなことを言われた日には、もうっ!

 瞬間、ぼんっと音を立てたんじゃないかという勢いで自分の顔が赤くなったのが分かった。

 だから、私は褒め言葉には慣れていないんですっ!

 叫び出したい気持ちを抑えて、顔を隠すために俯いた。

 団長さんの顔を見ていられないというのもある。



「セイ……」



 一歩、団長さんが私との距離を縮めた。

 視界の端に団長さんの手が上がるのが見える。

 団長さんの手が私の頬に触れそうになり、きゅっと目をつぶった。



「じ、侍女さん達が頑張ってくれたので……」



 そこでまで言って、侍女さん達がいたことをはたと思い出した。

 わ、私ったら人前で何て変な雰囲気を出してるのっ!?

 慌てて周りを見回すと、壁の側で控えている侍女さん達がこっちをチラ見していた。

 目が合うと、彼女達はそっと視線を逸らす。

 見られてた……。

 嗚呼、穴があったら入りたい……。

 頭を抱えて、その場にしゃがみ込みたい気持ちになっていると、部屋のドアがノックされた。

 途端に部屋の中の何ともいえない空気は霧散し、応対のため侍女さんが動き出す。

 団長さんの手が下ろされるのを見て、ほっとしたような、残念なような、複雑な気持ちになった。


 ノックの主は文官さんで、謁見の準備ができたと呼びに来たようだった。

 侍女さん達に見送られ、文官さんを先頭に玉座の間まで歩く。

 部屋からはそれなりの距離があるみたいで、長い廊下をただ黙々と進んだ。

 一人だったら、この間にどんどん緊張が増していったんだろうな。

 幸い、すぐ後ろに団長さんがいてくれるお陰で、比較的心は落ち着いている。

 玉座の間の扉の前に着くと、文官さんから、部屋に入ってからの段取りを聞いた。

 深呼吸を一つしたところで、部屋の前に立っていた衛兵さんが扉を開いた。


書籍の感想欄を活動報告に設けました。

感想&誤字報告などは、そちらにお願いいたします。


特典についてですが、アニメイト様、とらのあな様では先着順で特典SSを配布しております。

直前での報告となってしまい、大変申し訳ありません。

どちらもオンラインショップで購入できるようです。

アニメイト様の方は取り寄せとなっているので、お近くに店舗がある方は、そちらで購入された方が早く入手できるかと思います。

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