19 ステータス
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「55です」
正直に伝えたところ、三人三様の反応が返って来た。
師団長様は笑顔のまま固まり、インテリ眼鏡様は目を見開き、所長はあんぐりと口を開けている。
所長、顔が大変なことになってますよ?
「55……、ですか……」
最初に再起動したのは師団長様で、確認するように呟いた。
それに首是で返すと、師団長様はハハッと笑う。
「確かに、そのレベルでは弾かれてしまいますね」
「お前、そんなに基礎レベル高かったのか……」
何故か嬉しそうに笑う師団長様と、呆れた目で私を見る所長。
そんな目で見られても困ります。
元からだし。
「そうですか。それは困りましたね」
そう言いながらも、師団長様は全く困った風じゃない。
首を傾げると、師団長様の眉が少しだけ困ったように八の字になる。
「『鑑定』ができないとなると、後は古典的な方法で確認するしかないのですが……」
「古典的な方法ですか?」
「えぇ」
それを聞いたインテリ眼鏡様が、すっとソファーから立ち上がる。
そうして私の目の前に、師団長様の机から取ってきたペンと紙を置いた。
それらを見つめていると、師団長様から説明があった。
人物への鑑定魔法を使える魔術師がいない場合、ステータスの確認は自己申告によって行われていたそうだ。
もちろん、現在でも全ての人を師団長様が確認する訳ではなく、大半はこうした方法で確認するんだとか。
基本的に王宮で働いている人は全員、事前に申告しているらしい。
持っているスキルの種類やレベルなんかは、その後の昇進にも関わってくるため、中には過大申告する人もいる。
そういう怪しい人については抜き打ちで試験なんかが行われて、申告したステータスが正しいかどうかチェックするそうだ。
チェック方法は、魔法スキルであれば、申告したレベルから使えるようになる属性魔法を、数人の試験官の前で実際に使わせるんだって。
今の師団長様になってからは試験を行うまでもなく、彼が鑑定魔法を使って終わりらしいけど。
「ステータスって、皆さん公開されているものなんですか?」
「いいえ。基本的には機密情報扱いですね」
少し気になったので聞いてみた。
日本だと個人情報に当たりそうだけど、ジュードや騎士さん達の様子からして、あまり秘匿されてなさそうだったのよね。
師団長様の話では、申告されたステータスは機密情報として取り扱われるらしい。
もっとも、有益なスキルを保持していると昇進しやすくなるため、王宮では自分から言いふらす人も少なくないんだとか。
「そうですか」
返事を一つして、再び紙に目をやる。
んー、どうしようかなぁ。
書いた方がいいのかもしれないけど……。
私が動かずにじっと紙を見ているからか、他の三人も一言も話さない。
会話が途切れた部屋は、しんとしている。
ここに来るまでに、今後のことを色々と所長と話したけど、未だ心は揺れている。
今ステータスを書いてしまったら、もう【聖女】として行動するしかなくなりそう。
では、嘘を書く?
ジュード達にある程度ステータスのことを聞いたことがあるとはいえ、この国の平均的なステータスというものを知らない。
下手なことを書くと、ぼろが出そうなのよね。
「気が進みませんか?」
悩んでいると、師団長様に声をかけられた。
顔を上げて、師団長様を見ると、穏やかに微笑んでいる。
「書かなくてもいいですよ」
その一言に、師団長様の隣に座っていたインテリ眼鏡様が、ぎょっとしたように目を見開いた。
隣を見ると、所長も同様だ。
「いいんですか?」
「構いませんよ」
「師団長」
インテリ眼鏡様が慌てたように声をかけたけど、師団長様が前言を撤回することはなかった。
彼曰く、無理に申告してもらったところで、それが正しいかどうかなんて、こちらには確認しようがないと。
確かにそうだけど、それでいいのかしら?
インテリ眼鏡様と所長の様子を見るに、良くはなさそうなんだけど。
魔法スキルであれば、ある程度調べることは可能だと思うけど、それもいいの?
口には出さないが、怪訝な顔で師団長様を見ると、彼は少し笑みを深くした。
「その代わり、魔法を使っているところを見せてもらってもいいですか?」
あ、魔法スキルの確認はあるのね。
既に病院で魔法を使っているところは多数の人に目撃されているし、それくらいならいいだろう。
頷くと、「それでは……」と手順を説明してくれた。
今回使うのは、病院でも使用した『ヒール』。
この場に怪我人はいないのだけど、健康な人にかけても問題はないらしい。
しかし、『ヒール』でいいの?
この魔法、聖属性魔法の中で一番最初に覚える初歩の魔法なのよね。
聖属性魔法のレベルが上がれば威力は増すけどさ。
健康な人にかけた場合は、数値と現象のどちらでも効果が判別しにくいから、ステータスに表示されるレベルの確認は難しいと思う。
「『ヒール』で聖属性魔法のレベルを確認するんですか?」
「いえ、確認したいのは別のことですね」
不思議に思って聞いてみたら、確認したいのはレベルではないらしい。
異世界から召喚された人が魔法を使った場合と、この世界の人が使った場合とで違いがあるのかを見たいんだとか。
違いなんてあるのだろうか?
ジュードが魔法を使うところを見たことがあるけど、水属性魔法と聖属性魔法とでは、見た目が大きく違い過ぎるのよね。
生憎、誰かが聖属性魔法を使っているところを見たことはない。
先に、この国の人が使うところを見たいって言いたいけど、それって心当たりがあるって自分から言うようなものよね。
それでなくても、ステータスを書くのを渋ってしまったし。
色々考えたけど、答えは出ない。
まぁ、最悪、顕著に違いがあったところで、異世界から来たからとか、基礎レベルが高いからとか、適当に言い訳すれば何とかなるかな。
そう思って、大人しく魔法を使うことにした。
魔法を唱えるために集中する。
特に指定されなかったので、対象は自分にした。
そうして、『ヒール』を発動させると、私の全身は薄らと白く光る靄に覆われた。
相変わらず、白い靄の中に金色のラメが煌いていて綺麗。
「これが……」
小さな呟きが聞こえて視線をやると、インテリ眼鏡様が目を見開き、驚いた顔をしていた。
やはり、何か違いがあったのだろうか?
他の二人を見ると、師団長様は目を輝かせて見ているし、所長は……いつも通りね。
特に気になることもなかったのか、師団長様とインテリ眼鏡様の反応を不思議そうに見ていた。
「違いがありました?」
「えぇ」
問うと、少し興奮したように師団長様は頷いた。
「見ていてください」
そう言って、師団長様が『ヒール』を唱えた。
私と同じく、彼自身を対象にかけたらしく、彼の体が白く光る。
光が消えてから「分かりました?」と聞かれたけど、どこが違うのかよく分からない。
首を振ると、もう一度『ヒール』を唱えてくれた。
先程と同じく師団長様の体が白く光るのだけど……、あれ?
ふと気になることがあり、私も自分に『ヒール』をかけた。
同じように白く光るのだけど、私の場合、その中に金色の光も混ざっている。
「気付きました?」
「はい」
師団長様の話では、私が治療した第二、第三騎士団の面々から、魔法が発動したときの様子が普段とは違ったような気がするという話が上がってきていたそうだ。
他の魔道師さん達が唱えた場合は師団長様と同じく、ただ白く光るだけで、私のようにラメが混ざることはないのだとか。
属性魔法の魔力は、魔法の発動によって見えるようになることがあるらしい。
この白い光は聖属性の魔力で、他の属性の魔力も別の色の光で見えることがあるそうだ。
普段は、魔力なんて魔力感知の訓練でもしないと見えないらしいけどね。
原因が異世界から来たからなのか、それとも別の原因があるのかは不明だと師団長様は言っていた。
話を聞く限り、愛良ちゃんのステータス確認はまだなのかな?
そう思って聞いてみると、「まだですね」と返された。
そっちの結果を教えてもらえないかなと思ったけど、ステータスの詳細は一応機密情報だから教えられないとのこと。
ただし、ラメの原因については、私自身に関することだから判明次第教えてくれることになった。
今回の件で、私の魔力がこの国の人と異なることが分かった。
何となく、喚び出されてからの、あれやこれ。
特に、五割り増しの呪いの原因が分かった気がする。
考えてみれば、呪いの対象は魔力に関係する物が多かったことに気付き、内心溜息を吐いた。
活動報告の方で、キャラクターデザインを公開しております。
前回、うっかり書き忘れました。
大変申し訳ありません。
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