18 鑑定
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ちょっと、ほっとしました(笑
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宮廷魔道師団へ向かう馬車の中、ぼんやりと外の景色を眺めながら、何度目になるか分からない溜息を吐いた。
それに気付いた所長が苦笑交じりに声をかけてくる。
「随分と嫌そうだな。まぁ、分からないでもないが」
「そうですね……」
こちらも苦笑交じりで返すと、所長は肩をすくめた。
再び外の景色に視線を戻し、昨日のことを思い返す。
昨日の終業時間になるかならないかの時間に、宮廷魔道師団から連絡が来たのだ。
明日、つまり今日、鑑定を行うから宮廷魔道師団に来て欲しいってね。
何をって?
私を鑑定するらしいわ。
先日の病院での一件で、最近では彼方此方で私が【聖女】だと言われているらしいのよね。
そんな中、【聖女召喚の儀】から昏睡状態に陥っていた宮廷魔道師団の師団長様が、一週間くらい前に意識を回復したんだとか。
この師団長様、国内で唯一、人物に対して鑑定を行える人なんだって。
この人が昏睡状態だったからこそ、今まで私の鑑定が行われなかったみたい。
師団長様は、まだまだ本調子ではないらしいのだけど、【聖女】の確定は国の最重要事項だから、体調不良を押して鑑定をすることになったそうだ。
病院でのことを思い返すと、仕方ないかなとも思う。
あれだけ派手に回復魔法を使えば、周りから【聖女】じゃないのかって噂されるだろうなとは思ってた。
だから、ある程度は覚悟してたんだけど……。
やっぱり、気が重い。
鑑定ではステータスを確認されるらしいけど、そうされたら一発アウトよね。
ステータスにはしっかり【聖女】って表示されてるし。
「そんなに嫌か?」
考え込んでいたら、自然と難しい顔をしていたんだろう。
所長の方を向いたら、心配そうな顔をしていた。
「そうですね。気は重いです」
「言いたくはないが、あれだけ派手に暴れたらなぁ」
「暴れたって、人聞きが悪い。ちょっと治療しただけじゃないですか」
「ちょっとじゃないだろう、ちょっとじゃ」
所長の言葉に、口を尖らせると、呆れたように返された。
そして、お互い顔を見合わせて苦笑する。
所長は随分と私のことを気にかけてくれている。
それこそ、研究所に異動してからずっと。
こちらに気付かれないように、さり気なくって言うのが多いのだけど、偶にそういうのに気付くことがある。
部下だからだろうけど、今はそれが凄くありがたい。
こうして話すだけでも、沈みがちな気持ちが、少し浮上するから。
「鑑定が済んだからって、すぐにどうこうということはないとは思うが……」
ふと真面目な表情になった所長が、ぽつりぽつりと話す。
【聖女召喚の儀】以降、徐々にではあるけど、魔物の数が減ってきたことから間違いなく【聖女】が召喚されたと王宮では確実視されている。
ただ、魔物が減っているのは王都周辺だけで、王都から離れたところでは、まだまだ多いそうだ。
古の【聖女】達は騎士団と共に魔物が溢れている場所に赴き、聖女にしか使えない術を用いて魔物を殲滅し、その場所を浄化していったそうだ。
今回も、王宮は【聖女】にそうしてもらうことを期待しているという。
「魔物の殲滅……、戦闘に混ざるんですか?」
「あぁ。だが魔道師は騎士の後方で術を発動するから、騎士ほど危険な目には遭いにくい」
「でも魔物が魔法とか使ってきたら?飛んでくることもありますよね?」
「そうだな。危険な目にまったく遭わないとは言えないな」
「私も一緒に召喚された子も、戦闘行為はしたことないんですけど」
世界全体で見れば戦争を行っていたところはある。
でも日本は平和だった。
私も、おそらく一緒に召喚された愛良ちゃんも、命の遣り取りなんてしたことないだろう。
そんな人間がいきなり討伐に連れられていっても、役に立つとは思えない。
ゲームの中では魔物なんて、いくらでも倒したことあるけどね。
「恐らく何かしら訓練をしてからだろうな。一緒に召喚された、アイラだったか?彼女も
「そうなんですか?」
「学園では訓練で東の森に討伐に行ったりするからな。彼女も既に行ったことがあるはずだ」
愛良ちゃんは経験済みと。
そう聞いて少し驚いた。
大丈夫だったのかなと心配になったけど、そういえば護衛で騎士団が借り出されてたことを思い出した。
彼女が怪我をしたとか、そういう話は聞いたことがないから多分大丈夫だったんだろう。
行っていたのも、弱い魔物が多い東の森だったはずだし。
「もし……、もしも今日の鑑定で私が【聖女】じゃないと分かったらどうなるんですか?」
ふと、そう思ったので聞いてみた。
所長は少し目を丸くして、その後、苦笑した。
「【聖女】の仕事はアイラがやることになるだろう。だが……」
「だが?」
「……おそらく、お前には支援要請がくると思う」
「支援要請ですか?」
「主に回復魔法を使って欲しいというな」
なるほど。
確かに病院では周りが驚いたくらい、自重せずに治したしね。
それはあるかもしれない。
「その要請、受けたら宮廷魔道師団に異動とかになるんでしょうか?」
「どうだろうな」
「できれば異動はしたくないです」
研究所は非常に居心地がいい職場だ。
支援要請を受けるのはいいのだけど、職場が異動するのは、ちょっと嫌。
そういう気持ちを所長に伝えると、善処はしてくれるらしい。
想定される今後を所長と話していると、宮廷魔道師団の隊舎に到着した。
出迎えてくれたのは宮廷魔道師さんで、彼の後ろについて隊舎内を歩く。
隊舎内を歩きながら、横を通り過ぎる魔道師さん達からちらちらと、こちらを窺うような視線を向けられる。
この手の視線は、最近王宮内を歩いているときにも向けられるのよね。
まぁ、第二騎士団の人達が向けるような目で見られるよりはマシかな。
病院で私が治療した騎士さん達の中には、第三騎士団と一緒に討伐に行った第二騎士団の騎士さんもいた。
あれ以来、第二騎士団の人達にはえらく崇拝されてしまったみたいなのよ。
そのせいか、セイ様なんて呼ばれたり、図書室の帰りに誰かしら第二騎士団の人が本を一緒に運んでくれるようになったり。
本を運んでもらえるのはとても助かるのだけど、様付けで呼ばれるのは正直面映ゆい。
でも、様付けを止めてって伝えても、一向に改善される気配はないので、もう半ば諦めてたりする。
「薬用植物研究所のヴァルデック所長とセイ様をお連れいたしました」
師団長室と思われる部屋のドアを魔道師さんがノックし、用件を伝えると、すぐに中に通すよう返事が来た。
魔道師さんに促されて中に入ると、インテリ眼鏡様ともう一人、濃紺色の髪と瞳の、ひどく整った顔の青年が立って迎えてくれた。
あまりにも整い過ぎた顔は人工物のように感じてしまうくらい。
何だろう。
この部屋、美形率が高過ぎない!?
物凄く、場違い感が半端ないんだけどっ!
魔道師さん?
魔道師さんなら、私達を案内した後、すぐに出て行ったわよ。
今この部屋にいるのは私と所長、そしてインテリ眼鏡様と青年の四人だけ。
「ようこそ、宮廷魔道師団へ。私は宮廷魔道師団師団長のユーリ・ドレヴェスです」
「セイと申します」
青年は穏やかに微笑みながら、私に向かって名乗ってくれた。
美形に圧倒され、引きつりつつも、私もなんとか挨拶を返す。
彼が師団長様?
隣に立つインテリ眼鏡様より、師団長様の方が若く見える。
師団長様の整い過ぎた顔や、優しげな雰囲気のせいかもしれないけど。
もしかしたらジュードと同じ位の年齢じゃないかしら。
失礼に当たるだろうから顔には出さないようにして、そんなことを考えていると、ソファーに座るよう勧められた。
「あっ、と、彼は副師団長のエアハルト・ホーク。以前、会ったことあるみたいだし、知ってますよね?」
「え、えぇ」
ソファーに座った途端に、師団長様は隣に座るインテリ眼鏡様のことを思い出したように紹介した。
すみません。
自己紹介したことも、されたこともなかったと思うので、お名前は存じ上げませんでした。
前々から、周りの魔道師さん達の態度を見て、インテリ眼鏡様は偉い人なんだろうなとは思っていたけど、副師団長様だったのね。
そこは納得。
それよりも、苗字の方が気になる。
ホークってことは、団長さんのご兄弟の方なんだろうか?
疑問に思ったのが顔に出たのか、私の隣に座る所長が「アルの兄だ」と、こっそり教えてくれた。
「さて、既にお伝えしていたとおり、今日は貴女の鑑定をしたいと思います」
「はい」
紹介の後は、さっそく本日の本題である鑑定の話になった。
遂に来た。
鑑定魔法について、前にジュードにも聞いた内容と同じような内容を説明される。
鑑定魔法は人に対して使うこともできるけど、その場合は相手の承諾がないと弾かれる場合があるとか、鑑定される人の方が基礎レベルが高いとほぼ確実に弾かれるとかね。
なので、「気持ちを楽にしてくださいね」と師団長様に微笑まれながら言われた。
なるべく努力します……。
「それじゃあ、いきますね」
「はい」
「『鑑定』」
気は進まないけど、なるべく弾かないようにと思いながら、大人しく鑑定魔法を受けた。
受けたんだけど、そんな私の思いを嘲笑うかのように、魔法は弾かれた。
実際、私自身何かを弾いたような感覚があったから、そうなんだと思う。
それは周りにも分かったのか、一斉に三人が驚いたり、怪訝だったりする視線を私に送ってきた。
待って、私はちゃんと弾かないように気をつけたわよ!
「セイ……」
「拒否していませんし、ちゃんと拒否しないように気をつけましたよ」
所長が呆れたようにこっちを見るけど、私は拒否していないので、じっとりとした視線を返した。
そんな私達のやり取りを見た師団長様が、驚いた表情を取り繕うかのように、にっこりと微笑みながら聞いてきた。
「拒否はされてないんですよね?」
「はい」
頷くと、師団長様は顎に手をやり、俯いた。
そうして、少しばかり思案した後、こちらに向き直る。
「拒否していないとなると、後は貴女のレベルが私より高いということが考えられます」
「はい」
「失礼ですが、基礎レベルを伺っても?」
そういう結論に至りますよね。
わかります。
私が拒否していない以上、魔法が弾かれた理由はもう一つの方だって話になるわよね。
そして、恐らくそれは正しい。
多分、師団長様より私の方が基礎レベルが高いと思うのよ。
第三騎士団の騎士さん達の多くも私より基礎レベルが低い人ばかりで、大体30台のレベルの人が多かったし。
それを考えると団長さんや師団長様クラスだと40台くらいなのかな?
だとしたら、私の基礎レベルが55だから、少なくとも6レベル差はあるかもしれない。
しかし、基礎レベルか。
以前、ジュードや騎士さん達に聞いたときは普通に教えてくれた。
これくらいなら、伝えても問題ないかな?
そう思って、私は口を開いた。
友人に唆されてTwitterをはじめました。
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