<< 前へ次へ >>  更新
23/130

舞台裏04-02 Another Side(後編)

ブクマ&評価&感想ありがとうございます!


『港瀬つかさ』さんにレビューをいただきました!

これからもご期待に沿えるよう頑張りますね。

ありがとうございます!


お陰様で、この度、書籍化が決まりました!

読んでくださる皆様のお陰です。

ありがとうございます!!!

詳しくは後書き、または活動報告をご覧ください。


 第一王子のカイルに勧められ、愛良が王立学園(アカデミー)に通うようになって三ヶ月。


 愛良は順調にその能力を伸ばしていた。勉強は好きという程でもないが、嫌いでもないといった感じで、日本でも授業は真面目に受け、成績は優秀な方だった。それは学園でも変わらず、スランタニア王国の歴史や、魔法について等、様々なことを学んでいった。年度途中からの転入ではあったが、授業以外でも先生による特別補講や、カイル達に教わることにより、何とか授業についていけていた。算術、自然学等の日本でも学んでいた科目については、元いた世界の方が進んでいたこともあり、周りの生徒よりも愛良の方が成績が優秀だったくらいだ。



「レベルが上がりました」

「おめでとう。じゃあ、次からはこの魔法を使ってみて」



 放課後の演習場。愛良はカイルの側近の一人であるマルク・ヤーンと共に魔法の練習を行っていた。マルクは伯爵家の長男で、カイルの代では最も魔法に才ある生徒であり、将来は宮廷魔道師団を率いることになるだろうと期待されている者だ。


 学園に入学する前に確認したところ、愛良は聖と同じく、聖属性魔法のスキルを持っていた。聖属性魔法は過去の【聖女】が必ず持っていたスキルであり、愛良にその適性があることを聞いたカイルは当然だと言うように満足気に頷いた。そして、カイルの指示で、入学後は毎日必ず放課後にカイル達と共に魔法の練習を行うようになった。


 カイルの側近の中でも、マルクと共に練習を行うことが多かったが、これはマルクが魔法が得意であったことが関係している。マルク自身は聖属性魔法に適性がなかったが、風属性以外に雷属性魔法の適性を持っており、適性外の属性魔法についても、よく学び、詳しかったからだ。


 授業と放課後の練習で、かなりの速度で愛良の聖属性魔法スキルのレベルは上がっていた。これについて、カイルの支援によって、高級品であるMP回復ポーションをふんだんに使いながら練習を行っているせいだろうと周りは考えていた。魔法スキルのレベルは、スキルを使用することによって上げることができ、ポーションを使うことによって、MPの枯渇を心配することなく使用回数を増やすことができるからだ。


 実際は、愛良が異世界から召喚された人間であり、この世界の人間と比較すると、基礎レベルもスキルレベルも上がり易いという理由の方が大きい。同様に、聖もレベルが上がり易く、そのため彼女の生産スキルのレベルもかなりの速さで上がっているのだが、それに気付いている者はいなかった。偏に、聖が通常では考えられない量のポーションを作成しているせいである。



「今日のところは、ここまでにしようか」

「はい」



 マルクの言葉に、愛良は頷き、手を止めた。その日に用意されていたMPポーションを使い切り、時刻もいつも練習を終えるくらいとなっていた。マルクと共に演習場を後にし、廊下を歩く。この後は王宮に戻るのだが、学園の出入り口でいつもと違う様子にマルクは眉を顰めた。



「馬車が来ていないな」



 いつもであれば、王宮からの馬車が迎えに来ており、この時間には既に待機しているはずだった。しかし、今日はまだその姿はない。カイルからの指示により、愛良の身の安全のため、いつも側近の誰かが愛良の側にいるようにしているのだが、今はマルクしかいない。そのため、マルクがここを離れて、馬車を呼びに行くという選択肢はなく、自然と二人で馬車を待つことになった。


 そのうち、ただ黙って待つことにも飽きてきて、ぽつりぽつりとお互いに他愛もない話をするようになった。普段は愛良が練習している聖属性魔法に関することしか話さないマルクだったが、そのときは他の属性魔法についても話してくれた。他の人間からすると、専門的で難しい内容も含まれていたが、日本で自然科学を学んでいた愛良にとっては、何となく理解できる話もあり、とても面白かった。そうして、思いのほか楽しい時間を過ごすことができたのだが、二人揃って笑いながら話す様子を影から見ている者がいることには気付かなかった。







「ちょっと、よろしいかしら?」



 愛良が学園に大分慣れてきた頃、いつものように演習場に向かっていると、後ろから声を掛けられた。振り返ると、どこか冷たい印象がする美少女が立っていた。その少女に声を掛けられたのは初めてだったが、このように女生徒に声を掛けられるのは初めてではなかった。


 愛良が学園に通い出した最初の頃は、カイル達の誰かしらが常に愛良の側にいたのだが、最近は愛良自身が学園に慣れてきたこともあり、極稀に一人になるときがあった。そうしたとき、まるでタイミングを狙っていたかのごとく、女生徒が声を掛けてきた。


 声をかけてくる女生徒は何人かいたが、愛良に対して言う内容は大体同じだった。曰く、王族や高位貴族の子弟であるカイル殿下達に付き纏うのはお止めなさいだとか、人の婚約者に手を出さないでとか。愛良からしてみれば、言われることは、どれもこれも反応に困る内容だった。


 そもそも愛良にはカイル達に付き纏っているつもりもなければ、手を出した覚えもない。確かにカイルはとてもよくしてくれるし、カイルの側近達も、(あるじ)に指示されていることを抜きにしても愛良に好意的ではあったが、あくまで愛良を喚び出した責任を感じるが故に良くしてくれているのだと思っていた。また、女生徒たちはカイル達と離れるように言うが、カイル達以外に頼る者のいない愛良にとって、それは酷く気の乗らないことだった。



(わたくし)はエリザベス・アシュレイ。カイル殿下の婚約者ですわ」



 婚約者という言葉に、自然と愛良は眉を寄せた。エリザベスもまた、他の女生徒と同じようなことを言うのだろうと思って。カイルの婚約者については愛良も聞いた覚えがあり、侯爵家の御令嬢だったはずだと思った。



「他の方からもお伝えしたことがあるとは思いますけど、婚約者のいる殿方と親しくなさるのは、よろしくありませんわ」



 やはり、以前声を掛けてきた女生徒達が言ったことと同じような内容に、愛良は溜息を吐きたくなった。



「もし、貴女がよろしければ「何をしている!!!」」



 エリザベスの言葉にかぶせるように、怒声が聞こえた。声のした方を向くと、険しい顔をしたカイルと側近達がやって来るところだった。



「エリザベス、アイラに一体何の用だ?」



 カイルの怒声を気にもしていないように、エリザベスはスカートを摘み、優雅にお辞儀をした。カイルは大股で愛良の元まで歩いてくると、愛良を庇うように、エリザベスとの間に立った。



「少々、お話をさせていただいただけですわ」

「話?」

「えぇ」



 変わらず険しい声で質問するカイルに、エリザベスは涼しい顔で答える。



「アイラ様はいつも放課後は殿下達とお勉強されているようでしたから、よろしければ私もお手伝いできないかと思いまして」



 エリザベスの言葉に、愛良は驚いた。そんな話はしていなかったが、もしかしたらカイルが遮る前に言いかけていた内容なのだろうかと思った。



「必要ない。アイラのことは私が面倒を見る」

「ですが殿下……」

「【聖女】については私に一任されている。話はそれだけか?」

「……」



 冷ややかな表情で、取り付く島もないカイルにエリザベスが黙ると、カイルは話は終わったとばかりに愛良の背中に手を回し、その場を立ち去ろうとした。そのとき、また別の方向から声がかけられた。



「ああ、こちらにいらしたんですね」



 一同が声のした方を向くと、鮮やかな赤金色の髪の、カイルによく似た少年が歩いてきた。スランタニア王国の第二王子、レイン・スランタニアだった。柔らかな雰囲気を纏い、カイルの側まで来ると、穏やかに微笑む。そんなレインの様子に、剣呑だった場の空気も少しだけ和らいだ。



「探しましたよ、兄上」

「どうした?」

「ヘルツォーク先生が探していましたよ」

「先生が?」

「来週の東の森への遠征について、お話があるとか」

「そうか」



 カイル達は愛良の基礎レベルを上げるため、翌週に東の森へ魔物を倒しに行く予定だった。ただ、カイル達の基礎レベルでは、既に東の森の魔物は力不足で、以前から護衛役の騎士団や先生達から、そろそろ南の森に移動した方がいいのではという提案を受けていた。しかし、愛良にもしものことがあってはいけないと、カイルは南の森への遠征に反対していた。故に、ヘルツォークが探していると聞いて再びカイルの機嫌は下降した。恐らくまた、南の森への移動を勧められるのだろうと予想して。そして、根は真面目なカイルはうんざりしながらも、愛良や側近達と共にヘルツォークのいる部屋に向かうのだった。


 後に残されたレインとエリザベスは、互いに顔を見合わせ、苦笑する。



「タイミングが悪かったね」

「そうですわね」



 カイルと同様、第二王子であるレインと侯爵家の令嬢であるエリザベスもまた幼い頃からの付き合いであり、短い言葉であってもお互いの言いたいことを理解できた。タイミングが悪いとは、愛良と話している最中にカイルが来てしまったことを指していた。


 レインは愛良がカイルに囲い込まれている現状を良く思っておらず、また生徒間の噂も知っていたため、どうにか改善できないか、エリザベスに相談していた。エリザベスの方も、カイルの側近の婚約者達から、カイル達を侍らせている愛良をどうにかして欲しいとお願いされていた。そこで互いに相談した結果、学園ではカイル達の代わりにエリザベスが愛良を補佐するのはどうだろうかという話になったのだ。そして丁度、愛良が一人になったところにエリザベスが遭遇したため、話しかけたのだが、肝心の内容を話す前にカイルが来てしまい、結局話をすることができなかった。


 カイルは愛良を【聖女】として扱っているが、召喚されたのは彼女だけではない。もう一人の聖女候補は【聖女】特有の能力を使ったという報告こそないが、様々な実績を上げているという話はレインの元にも入ってきている。最近では、もう一人の女性こそが【聖女】ではないかという噂も少ないながら立ってきている始末だ。愛良一人を偏重する兄に危うさを覚え、レインからも色々と提案するのだが、意固地になっているのか、愛良に関することだけはカイルに受け入れてもらえない。折を見て、どうにか愛良に接触するしかないかと思いながら、レインとエリザベスも学園を後にした。







 学園から王宮にある自室に戻ってきた愛良は、部屋付きの侍女を下がらせ、一人ベッドの上に倒れた。肉体的より精神的な疲れの方が多い。ベッドに寝転がりながら、今日一日のことを思い返す。


 最近は女生徒に声を掛けられるのを避けるため、なるべくカイル達といるようにしていたのだが、偶々一人になってしまった。案の定、エリザベスに声を掛けられてしまったのだが、今日声を掛けてきた彼女はいつもの女生徒達とは違ったなと愛良は思った。話の途中でカイルが来たため、きちんと話を聞けなかったが、カイル達と同様にエリザベスも勉強を教えてくれるつもりのようだった。その様な提案を受けたのは初めてだ。


 こちらの世界に来てからというもの、周りにいるのは常にカイル達ばかりで、愛良には女性の友人と呼べる者がいなかった。あのまま、カイルが来ず、エリザベスと話ができたのならば、友人になれたのだろうか?カイルに反対されたとしても、エリザベスの提案を受けた方が良かったのではないか?


 思い悩んだが、やはり愛良は現状を変えることを選ばなかった。他の女生徒から色々と言われるのは憂鬱だが、それは自分で気を付けていれば避けられる話だったからだ。カイル達と一緒にいる間は彼女達は声を掛けてこないのだから。エリザベスの提案を受けたところで、彼女が言葉通りに実行してくれるか分からなかったせいもある。今までの女生徒達の態度を思い出すと、エリザベスの言葉を無条件に信用するのは少し怖かった。


 だから愛良は現状が維持されることを望んだ。エリザベスの手を取るか、取らないか。それが第二の分岐点だったのだが……。


 次に愛良は今日聞いたヘルツォークの話を思い出した。カイルと共に行ったヘルツォークのところでは、カイルの予想通り、そろそろ南の森でレベルを上げた方が良いという話をされた。愛良のレベルがまだカイル達に追いついていないことを理由に東の森でのレベル上げをカイルが強弁したため、南の森でのレベル上げはなくなったのだが、ヘルツォークの話では愛良のレベルであってもカイル達がいるならば問題ないという話だった。


 正直なところ、レベル上げの場所について、カイルが愛良のレベルの低さを理由にする度に、カイル達の足を引っ張っている気分になり、少し居心地が悪い。それが解消できるのであれば南の森でのレベル上げに挑戦してみても良いのではないかと思ったが、頑なに東の森でのレベル上げを主張するカイルを見て、そのことを口に出すことはできなかった。



「『ステータス』」



 教えられた生活魔法の一つを唱えると、愛良の目の前に半透明のウィンドウが現れる。そこに表示されているレベルを見て、愛良は溜息を吐いた。今まで聞いた話では、南の森の適正基礎レベルは12~20レベルという話だった。愛良の基礎レベルも既にそこに到達している。


 愛良自身、最近レベルが上がり難くなったと感じてもいる。一度カイルに南の森に行ってみたいと言うべきだろうか?少し悩んだが、すぐにカイルに任せようと考えた。彼ならば悪いようにはしない。そう考えて、愛良はベッドから起き上がり、目の前のウィンドウを消した。



--------------------------------------------------

 御園(みその) 愛良(あいら)   Lv.15/魔道師


 HP: 691/ 691

 MP:1,846/1,846


 戦闘スキル:

  水属性魔法:Lv.1

  風属性魔法:Lv.1

  聖属性魔法:Lv.4

--------------------------------------------------


今年の五月から連載を開始し、早七ヶ月。

あっという間に年末ですね。

どうにか今年最後に更新ができ、ほっとしました。


前書きにも書きましたが、簡単にご報告を。

この度、カドカワBOOKS様より書籍化することになりました。

まさか妄想が現実になるとは……。

こうして書籍化のお話がいただけたのも、読んでくださり、応援してくださる皆様のお陰だと感謝しています。

ありがとうございます。


既にAmazon様や楽天様等、色々なオンライン書店さんで予約が開始されているようです。

内容はWeb版から20%くらい増量しています。

特典SSのお話なんかもいただいているのですが、詳細は活動報告の方でご連絡したいと思います。

ご興味のある方は是非、お手に取っていただけると幸いです。


書籍化に伴い、ペンネームも新しくなりました。

書籍の方は「橘由華」となっています。

暫くは今までのものと一緒に併記しますね。


本年もお読みいただきありがとうございました。

また新年もどうぞよろしくお願いいたします。

皆様、良いお年を!

<< 前へ次へ >>目次  更新