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17 本領発揮

ブクマ&評価&感想ありがとうございます!


大変お待たせいたしました。

予想外に引越しからの復帰が上手くいかず、間が空いてしまいました。

大変申し訳ありません。


『かむ』さんにファンアートをいただきました!

まさか拙作でファンアートをいただける日が来るとは思いませんでした。

かむさん、ありがとうございます!

詳細は後書きにて。


本編16話の続きが気になるとのお声が多かったので、今回はその続きになります。


「『ヒール』」



 魔法を唱えると、白く淡い光が騎士さんの体を薄らと覆った。

 無くなった左腕の部分には白く濃い靄の様な物が集まり、徐々に腕の形をかたどる。

 その靄もぼんやりと白く発光していて、濃淡が違うだけで体を覆っている光と同じ物の様だった。

 白い靄には金色の粒子がラメの様に混ざっていて、キラキラと煌いている。

 そうやって騎士さんが光っていたのは、ほんの数秒で、光がおさまると、そこにはちゃんと左腕があった。

 騎士さんは呆然とした表情で暫く左腕を見つめた後、徐に掌を握ったり開いたりした。



「何か違和感とかありますか?」

「…………ない」


 あまりにも握ったり開いたりを繰り返すので、少し心配になり問いかけてみたけれど、問題は無かったらしい。

 良かった、ちゃんと成功した。

 何となく嬉しくなって、口角が上がる。

 騎士さんは掌を握るのは止めたけど、相変わらずぼんやりと掌を見つめている。



「セイ」

「どうしました?」



 静かな声で呼ばれたので、どうしたのだろうかと首を傾げると、膝の上に置いていた両手をがばっと握られた。

 急なことに、思わず「うわっ」と声を上げてしまったけど、騎士さんが手を離すことは無かった。



「……ありがとう」



 普段の軽い調子は鳴りを潜め、眉間に皺を寄せて泣き出しそうな表情(かお)で、彼はお礼を言った。



「えっと、どういたしまして?」

「何で、そこで疑問形なんだよ」

「や、何となく……」



 お礼を言われるのが少し気恥ずかしくて、うっかり疑問形で返すと、騎士さんはがっくりと肩を落とし、いつもの調子に戻った。

 ちょっと、ほっとした。

 何か、こう、いつもと違う調子で接せられると緊張するよね。

 それがまた普段は軽い感じの人が、シリアスな感じで接してくると余計に。

 それは騎士さんも同じ様で、お互いに何となく苦笑し合うと、ふと視線を感じた。

 気になって周りを見渡すと、同じ部屋にいる患者さん達が皆こっちを見ていた。

 その視線は驚愕に満ちたものだったり、どこか期待に満ちたものだったり。

 あー、うん、そうだよね。

 いきなり腕生やしちゃったものね。



 最初に入った病室でも感じたけど、ここは同じ様な症状の人が同じ部屋に集められている様で、この部屋には腕だったり足だったり、どこかを欠損した人が集められていた。

 欠損した場所にもよるのだろうけど、この部屋にいる人は概ね退院した後は騎士団を去ることになるだろう人達で占められている。

 そんな人達の真ん中で一人を治しちゃったら、自分もって思うわよね。

 こうなったら、もう乗りかかった船だし、ついでだから全員治しますか。

 ふぅっと一息だけ吐いて、騎士さんに研究所からランク問わずMPポーションを持って来てもらうようお願いする。

 怪我をしているのも腕だけっぽかったし、お使いをお願いしても平気よね?

 私のMPが多いとはいえ、皆を治してたら、途中で尽きちゃうかもしれないしね。

 お使いは快く引き受けてもらえ、それじゃあいってらっしゃいと見送ったら、騎士さんがベッドから降りて数歩歩いたところで「あ?」と声を上げた。



「どうしました?」



 何か不具合でもあったのだろうかと声をかけると、騎士さんはそれには答えず、その場で何故か足踏みをしたり、屈伸をしたりした。

 そうして一頻り、何かを確かめた後、ギギギと軋む音がするような感じで、ゆっくりとこちらを振り返った。



「古傷まで治ってる」

「はい?」



 騎士さんが言うには、以前痛めたはずの膝まで回復しているとのこと。

 今まであった違和感が綺麗さっぱり無くなってたんだって。

 古傷まで治しちゃうなんて魔法ってすごいんですねと言ったら、普通は古傷まで治るなんてことはないそうだ。

 え?ここでもまさかの五割り増しの呪いとか?

 それとも魔力込め過ぎたかしら?

 でも中途半端に魔力を込めて治りませんでしたっていう方が嫌だから、ここは深く考えずに込めるしかないわよね。

 とりあえず、古傷まで治ってしまった件については後で考えるとして、今は治療のことに専念することにした。



 その病室にいた人、一人一人と向き合って治療する。

 小さな傷や大きな傷、外側や内側も関係なく、魔法は全てを治してくれる。

 こうして見ると、本当に魔法って便利ね。

 治療された人達は皆一様に彼方此方が治ったことに驚き、それから涙を流さんばかりに感謝してくれた。

 いや、実際泣き出した人もいる。

 大人の男の人が泣くところなんて初めて見たから、かなり焦ったわ。

 そして病室にいた全員を治し終わって、帰ろうと振り返ったら、病室の入り口には人だかりができていた。



 一通り治療が終わったことに気付いたからか、入り口にいた人達のうち何人かが中に入ってきて、この病室にいた人達に話を聞いていた。

 そのうちの一人に声をかけ、話を聞くと、騒いでいる声が聞こえたから様子を見に来たらしい。

 そうね、治った人の中には喜びのあまり大声で叫んでいる人もいたものね。

 中に入ってきた人達はこの部屋にいた人達の知り合いらしく、もちろん彼等が受けた傷が重かったことも知っていた。

 まぁ、今ここに入院している人達は殆ど、この間の討伐で負傷した人達ばかりだから、皆同僚なのよね。

 仲間が治って嬉しいのは皆同じ様で、あちらこちらで歓声が上がっている。

 中には治療された人と一緒になって、私にお礼を言ってくれる人もいたり。



 いやー、いいことしたわーと一人満足し、そろそろ研究所に帰るかと病室を出たところで、MPポーションを抱えた騎士さんと遭遇した。

 そう言えば、途中でMP足りなくなるかもと思って頼んでたんだった。

 意外にも、あの病室にいた全員を治す分にはMPが足りたのよね。

 欠損治すのに結構魔力を込めたつもりだったんだけど、『ヒール』に使うMPって、それ程多くないのかもしれないわね。

 しかし、せっかく取って来てもらったのに使わないって言うのも申し訳ないのよね。

 うーん、練習兼ねて他の人たちも治して行こうかしら?

 うん、そうしよう。

 どうせもう一般人だと言い張れないレベルでやらかしている気がするし。

 ここは開き直って、他の病室の患者さん達も治療することにした。



 持って来て貰ったMPポーションを自分で運ぼうとしたんだけど、持って来てくれた騎士さんや他の人達に固辞され、私の代わりに運んでくれた。

 そうして隣の病室に向かうと、私とMPポーションを持った騎士さんの後ろに、野次馬をしに来た人達が続いた。

 何ていうか、気分は某ドラマの総回診。

 注目を浴びてて非常に恥ずかしいのだけど、どうしようもないので諦めた。

 そして再び、MPポーションを飲みつつ、一人一人と向き合って治療していたのだけど、流石に病院全体となると人数が多い。

 いい加減、単体で『ヒール』をかけるのも飽きてきたところで、以前読んだ魔法の本に範囲回復の魔法が載っていたのを思い出した。

 物は試しで、挑戦することにした。

 欠損の様な重症患者は既に全員治療済みだし、残るのは比較的軽症の患者ばかり。

 失敗して中途半端に治ったり、魔法が発動しなかったとしても、また一人一人『ヒール』で治せば良いからね。

 次に入った病室で、部屋の真ん中まで歩いていって立ち止まると、今までは掌に集中していた魔力を、自分を中心に部屋に満たすような感じで放出させる。

 放出させるといっても、魔力を体全体から放出させたことはないので、何となく放出しろーっと体の中にある魔力を外に押し出すようなイメージで精神を集中する。



「『エリアヒール』」



 魔法を唱えた途端に、体からごっそりと魔力が抜ける感じがして、私を中心に魔法陣のような物が床一面に描かれた。

 魔法陣は白い光の線で描かれ、魔法陣で囲まれた範囲には『ヒール』を唱えた時と同じ様な金色のラメ入りの白い靄が薄くかかる。

 とても幻想的で、いかにもファンタジーだなと思う光景は数秒で収まった。

 上手くいったかなと周りを見渡すと、魔法陣に入っていた人達は皆回復したようだった。

 皆、しきりに自分の怪我の具合を確認していて、ちゃんと治っていたのだろう、彼等の口元に笑みが浮かんだ。

 よしっと内心ガッツポーズを決めていると、後ろから声がかかった。



「今のは……、範囲回復か?」



 聞き覚えのある声に振り向くと、所長と団長さんがいた。



「ええ、そうですけど。所長はどうしてここに?」

「どうしたもこうしたも、帰りは遅いし、第三騎士団の奴がMPポーションを取りにくるしで、気になったから見に来たんだ」

「すみません……」



 呆れた様に言われたけれど、ちょっとだけバツが悪くて謝ると苦笑された。



「それにしても、派手にやったようだな」

「いや、それほどでも……」

「あぁ、さっき会ったが、腕や足を無くした者達が皆治っていたからな。驚いた」



 所長に続き、畳み掛けるように団長さんまで同意する。

 うん、少しやり過ぎたかなとは自分でも思うのだけど、だってしょうがないじゃない!

 期待されてしまったんですもの。

 期待には応えないと。

 ………………。

 …………。

 ……。

 ごめんなさい。

 ちょっと魔法を使ってみたかったのもあります。



「まぁ、でも、よくやったな」



 ちょっとだけ俯いて反省していたら、所長はそう言って、労う様に所長と団長さんに肩をポンと叩かれた。


かむさんからファンアートをいただきました!

メッセージをいただいた時にはPCの前で小躍りしました。

その後、素敵なイラストを拝見してニヤニヤが止まりませんでした。

それでは素敵イラストをご覧ください。!



挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)



最初にご連絡頂いたのは8月の終わりだったのですが、私の更新が遅れたせいで公開が遅くなりました。

掲載のため「みてみん」に登録していただいたり、イラストを修正していただいたりでお手数をおかけしたのに、大変申し訳ないです。

かむさん、ごめんなさい。


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