15 最初の一歩
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いつもお読みいただき、ありがとうございます。
最近、お待たせしてばかりで申し訳ありません。
少し遅めのお盆休みに入りました。
長期休暇スケジュールで更新したいものです。
頑張ります。
先日、第三騎士団で聞いた話を思い返す。
そう、私と一緒に召喚されたもう一人の女の子のことを。
第一王子に連れて行かれた彼女は、現在は王立
年齢的にもまだ学生だろうなと思っていたから、それ自体は問題ない。
私が気になったのは、入学当時に同級生より基礎レベルが低かったという話。
騎士さん達と別れ、研究所に戻ってからジュードに確認したところ、学園の一年生であれば今頃は大体7~8レベル位の者が多いんじゃないかという話だった。
王子と同じ三年生では12~16レベル位が多く、優秀な生徒である王子達は15レベルは超えているだろうと騎士さん達は言っていた。
同級生に追い付いたという話もあったことから、愛良ちゃんは高くても王子達と同じ15レベル位なのかなと予想している。
翻って自分の基礎レベルを思い出す。
というか、ついさっきも確認したが、レベル上げも何もしていない私の基礎レベルは召喚当時から全く上がっていない。
55レベルのままだ。
そう、55レベル。
今現在で比較しても、愛良ちゃんは15レベルで、私は55レベル……。
愛良ちゃんが15レベル以上だったとしても、恐らく私よりは低いだろう。
何となく気になって聞いてみたジュードは20レベル、騎士さん達ですら30台のレベルの人が多かったのよ。
彼女のレベルが彼等より高いとは思えない。
このレベル差は一体何なんだろう?
非常に嫌な心当たりはあるが、それはあまり考えたくない。
年の差のせいだとも考えたくないが、私だけが聖女で、愛良ちゃんはそうではないとか、もっと嫌だ。
そんなことになったら、きっと私は平和な一般人として生活できなくなる。
愛良ちゃん自身も嫌だろう。
【聖女召喚の儀】で喚ばれたのに、聖女じゃないとか……。
「おいおい、随分気合入れて作ってるな」
声をかけられて振り向くと、呆れた表情の所長がいた。
どうも考え事をしながら黙々とポーションを作っていたら、予定以上の量ができてしまっていたようだった。
最近は第三騎士団に卸すようになったこともあり、効率化を図って一度に沢山のポーションを作るようになったため、今混ぜている釜の横の机の上には一般的な薬師さんが作る量の1.5倍の量のポーションが既に並んでいる。
「すみません、考え事をしてたら作り過ぎちゃいました」
「まだまだ余裕そうだな。今日だけでこの倍はいけるか?」
苦笑しながら言う所長に「そうですね。それ位ならまだ余裕ですね」と言うと引き攣られた。
研究所に来た当初、大量の下級HPポーションを作っているところを見られたときにはMPが枯渇しないか心配されていたと言うのに、最近ではそんな心配はしてくれない。
むしろ、日に日に少なくなっていく薬草園の薬草を心配されるようになった。
上級HPポーションの材料にいたっては、これ以上は減らせないとかで、現在使用禁止となっている。
製薬スキルのレベルもこれ以上は上がらなさそうなので、最近は、上級HPポーションについては第三騎士団に卸すためだけに商店から薬草を仕入れ、細々と作っているくらいだった。
この所行っていた東と南の森程度の討伐では上級HPポーションは、効果もお値段も高過ぎて、余程の事がないと使うことがないということもあり、沢山作っても貯まる一方だったしね。
ただ、今回は久しぶりに西の森に討伐に行くということもあり、普段は使うことが無い上級HPポーションもそれなりの量があった方が良いだろうということで、少しだけ増産することになった。
一般人として、私が表立って出来ることと言えばポーション作成くらいなので張り切って作っていたのだが、所長の顔を見る限り、少し作り過ぎたようだ。
うっかりと一日で済ませる予定だった仕事を午前中だけで終えてしまったので、王宮の図書室に来た。
上級HPポーションより効果のあるポーションを作れそうな薬草を調べるためというのを建前に。
薬草については随分前から調べてはいたのだけど、今のところまだ見つかっていない。
以前、リズに聞いたところ、禁書庫に置いてある本であれば載っている物があるかもしれないという話しだったが、流石に一般人は禁書庫には入れない。
仕方が無いので、片っ端から薬草に関係しそうな本を読んでいるんだけどね。
まだまだ先は長そう。
今も、ある意味時間つぶしに、関係しそうな本を探していたのだけど、ふと気になった本があったので手に取った。
タイトルに「聖属性魔法」と入っている本だ。
基礎レベルもそうだけど、私のステータスの中で一番おかしいのは聖属性魔法のレベルだと思っている。
∞(無限大)って何よ。
数値ですら表されていないレベルは、もしかしなくても【聖女】と関係あるのだろう。
偶々話題に上ったから基礎レベルについては聞くことができたけど、属性魔法のレベルについては聞いていないため、平均的な属性魔法のレベルと言うものが、どの程度であるかは分からない。
あまり根掘り葉掘り聞くと、こちらのことも突っ込まれそうで、聞くに聞けなかったのよね。
基礎レベルの話も恐る恐る聞いたのだけど、ありがたいことに私のレベルについては聞かれなかった。
閑話休題。
その聖属性魔法だけど、レベルがレベルなので多分これ以上上がらないだろうなと思っていたこともあって、特に勉強することもなかった。
それよりも製薬や料理の方がレベルが上がるのもあって面白かったというのもあるけど。
でもここに来て、愛良ちゃんの話を聞いて、少し思い直した。
時同じくして召喚された彼女だけど、基礎レベルは私より低かった。
このことから、恐らく聖属性魔法のスキルレベルも低い可能性が高いと思うのよ。
もちろん、同じレベルだったらいいな、というか是非同じレベルであって欲しいとは思うんだけどね。
それなら私はずっと一般人でいられるし。
だって、聖女になんてなってしまったら、あの王子と一緒にいなければいけない機会が増えそうじゃない。
それは非常に避けたい。
あぁ、話がまた逸れた。
その愛良ちゃんの話と今回の西の森での討伐の話で、私も少し魔法の勉強をした方がいいのかなと思ったのよ。
今回の討伐は、あのサラマンダーが現れた森で行われる。
騎士さん達から、最近は魔物の湧きが減ってきたと言う話も聞いてはいたけど、やはり少し心配だ。
もしかしたら、あの時の様に大勢が怪我をし、ポーションだけでなく魔法が必要となることがあるかもしれない。
あの時もポーションでは治せないけど、魔法ならって誰かが話していたのを小耳に挟んだ記憶がある。
もし、そうなったとき、事前知識も無く一発勝負で魔法を使うより、多少なりとも勉強をしておいた方がいいような気がしたのよね。
そういう訳で、聖属性魔法について書かれている本が気になったの。
「魔法に興味があるのかい?」
不意に声を掛けられ振り向くと、すぐ近くに男の人が立っていて驚いた。
手に取った本は、確かに聖属性魔法について書かれている物だったけど、非常に内容が難しかった。
ともすれば、左から右に目が滑りそうになるので、かなり集中して読んでいたせいか、声を掛けられるまで近付かれたことに全く気付かなかったくらいだ。
「その本は非常に内容が難しかったと思うが……」
「そう、ですね。できれば、もう少し簡単な物が良かったなと思っていたところです」
「なら、こちらの方が良いだろう」
今向かっている本棚の対面にある本棚から、一冊の本を取り出し手渡された。
ぱらぱらとページを捲ると、今まで読んでいた本より遥かに内容が簡単な物だった。
これなら魔法初心者の私でも簡単に理解ができそうだ。
「ありがとうございます」
「いや」
そこまで話して、彼はじっと私を見た。
うん、何ていうか居心地が悪い。
何故なら、彼は非常に
年齢は私よりも上だろうか、
背は私よりもかなり高いけど、恐らく団長さんよりは低い。
少し見上げる位置にある髪の毛は鮮やかな赤金色をしている。
緩やかに細められた瞳や、すっと通った鼻筋に瞳と同じく弧を描く唇は、とてもバランスよく配置されており、あの
似て非なるものではあるが、彼もまた非常に顔面偏差値が高いと言えるだろう。
年齢が上な分、私にはあの
何と言うか、色気が段違いなのよ。
「名乗るのが遅くなった。私はジークフリート・スランタニアだ」
きっと私は訝しげな表情でもしていたのだろう。
彼は微笑んでいた表情を真面目なものに変えると名乗り、綺麗なお辞儀をした。
その洗練された優美な動作と名前から、間違いなく彼はこの国の王族の一人なのだろう。
というか、王族だよね?
「貴女の名はセイで良かったかな?」
「え、えぇ」
しまった、私から挨拶するべきだった。
色々と驚きすぎて呆然としていて名乗るのが遅れたせいか、向こうから名乗られて、しかも確認までされた。
今更だけど、挨拶し返しておいた方がいいわよね?
「セイと申します」
貴族女性のようにスカートを摘み、膝を曲げてお辞儀をする。
所謂、カーテシーね。
いや、相手は王族っぽいしね、礼儀は大切だと思うの。
郷に入れば郷に従え。
王宮にいるから、色々と事情を知らない貴族に会うこともあるかもしれないと、リズにちょこっとだけ習っておいて良かったわ。
「そんなに畏まらなくていい。礼を尽くさなければならないのは、こちらなのだから」
ジークフリート様は慌てたように私の腕に手を沿え、立ち上がらせた。
そう言われても、彼に礼を尽くされるようなことはしていないと思うのだけど。
不思議に思って首を傾げると、彼は改めて真面目な表情を作り、頭を下げた。
「貴女には息子が大変な失礼を働いたと聞いている。愚息のしたこと、大変申し訳ない」
「息子さんですか?」
「あぁ」
「えーっと、確か、カイル……、殿下のことでしょうか?」
「そうだ」
目の前の彼に息子と言われて、思い浮かぶのは第一王子だ。
確かカイルって名前だったよねと確かめると、当たっていたようだ。
アレが息子ってことは、ジークフリート様って……王様っ!?
「あ、頭を上げてくださいっ!」
「しかし……」
「気にしてませんからっ」
気にしてないって言うのは嘘だけど、流石に王様に頭を下げさせるのは問題だと思う。
止めて欲しい、本当に心臓に悪いから。
「本来であれば、もっと早く、ちゃんとした場所で謝罪しなければいけなかったのだが……。この様な場所で重ね重ね申し訳ない」
「いやっ、気にしないでくださいっ。むしろここでの方がありがたいです」
王様曰く、政治的に色々と問題があるらしく、公式な場での謝罪はもっと後になってしまうそうだ。
しかし、流石にそこまで何もしないというのも問題があると思い、私がよく図書室に一人で来るという話を聞いたことから、この所私に会いにちょくちょく図書室に来ていたらしい。
どうやらすれ違っていたようで、中々会えなかったんだけどね。
でもまぁ、公式とか非公式とか、そんな大げさな謝罪はいりません。
そこのところを丁寧に、オブラートに包んで伝えたのだが……。
「謝罪もだが、この国に来てから貴女は色々な功績を挙げている。何か恩賞でもと思うのだが、欲しい物はないのか?領土とか爵位とか……」
「いいえ、結構ですっ」
「そうか、ならば王都に屋敷でも……」
「それも結構です。管理できませんから」
「使用人もこちらで用意するが?」
「使用人っ!?」
この後も色々と褒美の品というものをあげられたのだが、どれもこれも私の手には余りそうなものばかりで、只管断った。
ドレスやアクセサリーと言う話もでたんだけどね。
興味はあるけど、それもまた管理できないと言うことで丁重にお断りした。
そうしたら「ヨハンが言う通りだな」と苦笑された。
話を聞くと、私に対する恩賞については話が上がっていたらしいのだが、どうも所長が止めていたらしい。
多分私が断るって。
グッジョブです、所長。
「仕方ない、今は諦めよう。何か欲しい物を思いついたら教えて欲しい。できる限り用意するから」
色気たっぷりの苦笑付きで王様がそこまで話すと、戻らなければいけない時間が来たようで、突然の謁見は終了となった。
うん、色々と心臓に悪かった。