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舞台裏03-01 暗雲(前編)

ブクマ&評価&感想ありがとうございます!


祝 40,000pt突破!

ここまで続けてこれたのも、いつも読んでくださる皆様のお陰です。

ありがとうございます!


今回、長くなったのと、今日中に書き終わりそうにないので二話に分けました。

後半は短くなるかもしれませんが……orz


また、今話に伴い、本編03話の愛良ちゃんの回復魔法レベルを3→4に、本編12話の付与効果を毒抵抗→毒軽減に変更しました。

「こちらでございます」



 王宮の奥深く、国王の執務室で、宮廷魔道師団、副師団長であるエアハルト・ホークは国王の目の前に黒いビロードが張られたトレーを差し出した。トレーに置かれているのは、1センチを超える大きさのダイヤモンド。過日、セイが状態異常無効、魔法抵抗上昇、物理防御上昇の効果を付与したものだ。目の前に置かれた魔法付与された核に、国王の隣に立つ、いつもは感情を表に出さない宰相の喉がごくりと鳴る。


 権謀術数に長ける宰相が、己の本心をうっかり表に出してしまったのも無理は無い。セイが作り出した核は、本来であれば古代の遺跡の奥深くからの出土か、魔物の討伐によってでしか手に入らない代物である。魔物の討伐では、魔物を倒した後に稀に魔法付与がされた道具が魔物から出てくることがあり、魔物の強さに比例して良い物が出てくる。そして、セイの作った核と同様の効果を持つ物だと、一匹の討伐に全騎士団が必要となるレベルの魔物からでないと出てこない。正に、伝説級の代物である。実際、似たような効果のある物は数点、国宝にもなっている。もちろん、この数十年で集められた物ではなく、数百年という年月をかけて集められた物であり、それだけの年月をかけても数点しか見つからなかった代物でもある。国王と宰相の目の前に置かれた核は、その様な代物で、宝物庫に厳重に保管されている物以外で目にするのは、お互い初めてであった。



「なるほど。お前達が人払いを申し出たのも頷ける」



 暫しの沈黙の後、国王は溜息と共に吐き出した。


 エアハルトと、薬用植物研究所の所長であるヨハンから内密に報告したいことがあるという連絡を受け、用意された場には、当事者のエアハルトとヨハン以外には国王と宰相しかいない。既に宮廷魔道師団で大っぴらに魔法付与を行った後であるため、緘口令を敷いたとはいえ、魔道師達から話が漏れるという可能性は否定できないが、それでもしないよりはマシだということで人払いがされていた。二人から伝えられた内容は、セイが伝説級の魔法付与道具を作り出すことができるという、人払いをしたのも頷ける内容であり、国の頂点に立つ二人が呆然とするのも仕方の無い話であった。伝説級という言葉通り、セイが作り出した核は軍事的に非常に有用で、もし売るとするならば天文学的な価格が付いてもおかしくなく、これらの道具を生み出す彼女は正しく金の卵を産むガチョウであった。この話が公になった場合、セイを狙って暗躍する輩がでるのは間違いないだろう。


 今回、セイが魔法に関して興味を示したということで、ヨハンから連絡を受けたエアハルトは、この機会に彼女の魔法に関する能力を調べることを国王に奏上した。人物のステータスが鑑定できる唯一の人間、宮廷魔道師団の師団長が【聖女召喚の儀】以降、眠ったままであるため、儀式で召喚されたセイとアイラについて、聖女であるかどうかは未だ分かっていない。しかし、既に儀式から半年以上が経ち、師団長の目覚めがいつになるか分からないということもあり、少しでもセイ達の能力を調べようという話が大臣達の間でも上がっていた。アイラについては王立学園(アカデミー)に通っていることもあり、授業に紛れさせて、彼女の持つ能力について多面的に調査が行われていた。一方、セイについては薬用植物研究所に籍を置き、一般の研究員達と同じ様な作業を行っているため、その能力についての調査は遅々として進んでいなかった。そんな中、召喚直後の件もあり、セイに対して強く出れない王宮側としては、今回の彼女の自発的な申し出は渡りに船であった。国王はエアハルトの奏上を受け入れ、数日後に宮廷魔道師団で魔法付与を行う際に、セイの魔法に関する能力を調べることとなった。


 今回の調査で、セイの驚くべき能力が明らかとなった。


 宮廷魔道師団では、その日、どのようにセイの調査を行うか、事前にある程度の計画が立てられていた。魔法付与では効果に応じて、必要となる作業者の魔法スキルの属性、レベル、また照射する魔力の量が異なり、高い効果を付与しようとした場合は、必要となる魔法スキルのレベルと魔力も比例して高くなる。効果と、必要となる魔法スキルのレベルや魔力の量との関係については、今まで積み上げられた実績から、ある程度は明らかになっている。それを利用して、セイの保持する魔法スキルの属性を調べ、段階的に付与する効果の難易度を上げていくことで、彼女が持つ魔法スキルのレベルがどの程度のものかを測ろうとしていた。可能であれば、魔力切れまで付与を行ってもらい、その後に使用するMPポーションの量からMP最大値の計測までを行おうとしていた。もちろん、セイは【聖女召喚の儀】で召喚されたことから、聖属性魔法のスキルを保持している可能性が高かったため、最初は聖属性魔法を前提とする支援系の付与を行うよう誘導することとなった。途中、予想外のハプニングにより、セイへの対応をエアハルトが行うこととなったが、計画は予定通り進めることができた。


 魔法付与の効果は、軽減、抵抗、無効化の順で難易度が高くなる。魔法スキルのレベルは一般的には10レベルが最高とされているが、そこに至った者は歴史上でも1人か2人、宮廷魔道師団に籍を置く者でも3レベルの者が多かった。軽減の効果は最低聖属性魔法スキルがあれば付与できるが、抵抗の効果は最低3レベル、無効化の効果に至っては最低5レベルが必要とされている。セイが当初付与しようとしていた効果は、最高難易度の無効化であったため、対応した魔道師は一番簡単な軽減の効果を付与することを勧めた。直前でセイが付与する効果を変更したため、最初の一回目は失敗し、素材が割れるというハプニングが起こったが、二回目には魔法抵抗上昇の効果を付与することに成功した。抵抗や防御上昇の効果は抵抗系の付与に相当するため、この時点でセイの魔法スキルのレベルが3レベル以上あることが確定した。もう片方の候補であるアイラも、召喚から半年が過ぎた今でこそ、聖属性魔法のレベルが宮廷魔道師を越える4レベルとなっていたが、王立学園で魔法を習い始めた当初は1レベルの聖属性魔法を扱うのがやっとであった。一度も魔法の講義を受けたことが無いはずのセイが、いきなり3レベルであることに、どれほど魔道師達が驚いたかは想像に難くない。


 更に調査を進めるため、エアハルトは色々な効果を付与するよう、セイに指示した。エアハルトの非常に事務的な指示に対し、何時セイが機嫌を損ねるかと周りは冷や冷やしていたのだが、幸いなことに彼女は気分を害すことも無く粛々と指示の通りに付与を行っていった。軽減系の効果に必要な魔法スキルのレベルは最低1レベルであるが、内容によっては同じ軽減系であっても、それ以上のレベルが必要とされることもある。例えば、毒軽減の効果であれば1レベルから付与できるが、麻痺軽減の効果であれば2レベル以上でないと付与できないといった感じだ。それを利用し、エアハルトはセイの詳細な魔法スキルのレベルを調べようとした。順番に様々な効果の付与を行い、難易度を徐々に上げていったが、結局セイは5レベル以上を必要とする無効系の付与もあっさりと成功させてしまう。


 そこでエアハルトは魔法の研究者として少し欲が出た。続いて指示したのは、これまで歴史上の人物しか成功させたことが無いという、1つの素材に対し2つ以上の効果を付与するというものだった。流石にこれは無理だろうという気持ちと、もしかしたらという気持ちが半々ではあったが、一番簡単な軽減系の効果だったとはいえ、これまたあっさりとセイは成功させてしまった。こうなってくると、セイがどこまで成功させるのか、周りも非常に注目していた。こっそりと成り行きを見守っていたはずの魔道師達は、その時には皆、セイの作業を集中して見ている有様だった。丁度、一休憩を入れたところで、セイからいつまで続けるのかという問いが出たため、エアハルトは最後の指示を出した。それは成功など有り得ない指示だった。状態異常無効、魔法攻撃無効、物理攻撃無効。最高難易度の無効系を、2つどころか3つも付与しろという、誰も成し得た事が無いどころか、この世に存在出来るかすら怪しい代物を作れという指示だった。案の定、セイを以ってしても無理だったが、その代わりにできそうだと提示されたのは状態異常無効、魔法抵抗上昇、物理防御上昇という、伝説級の代物。そして、宣言通り、セイは付与を成功させた。


 こうして、セイの聖属性魔法スキルのレベルは恐らく最高の10レベルだろうということになった。実際にはそんなレベルではないのだが、それをエアハルトたち王宮の人間が知るのは、もっと後になってからだった。


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