12 付与職人
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うん、割れてる。
割れてるね。
掌に走った衝撃に、恐る恐る、合わせた掌の中をそーっと覗き見ると、感じた通り、そこには二つに割れた素材が鎮座していた。
どうしようかと悩んでいると、魔道師さんに「どうされましたか?」と聞かれる。
「えーっと、割れちゃったみたいなんですけど」
黙っていても仕方がないので、これまた恐る恐る事実を告げ、割れた素材を見せると「えっ!?」と驚いた顔をされる。
その声に、周りにいた魔道師さん達も一斉にこっちを見る。
えっ、何それ、怖い。
こっちみんな。
所長を含め、周りが固まる中、私の掌を見て「割れてますね」と呆然と呟く魔道師さん。
そして、呟いたまま、同じく固まる魔道師さん。
いや、誰でもいいから、この状態をどうにかして欲しい。
「付与しようとしたのは、属性魔法の軽減だったか?」
そこへ、後ろからかけられた天の声に振り向くと、さらさらとした銀の髪に、どこかで見たことがある様なブルーグレーの瞳のインテリ眼鏡様がいた。
思わず「様」を付けてしまったのは、彼が纏うクールな雰囲気と、今まさに状況を動かしてくれた天の声のせいだろう。
インテリ眼鏡様は私の視線など軽く無視し、掌の上の素材をつまむと、しげしげとそれを眺めた。
「本当に属性魔法の軽減だけか?」
「あ、いえ……」
ちらりとこちらに寄越された無温の視線に、自然と背筋が伸びる。
気分は先生と生徒だ。
「何を付与しようとした?」
「あの、えっと……、魔法抵抗を上げれば属性関係なくいけるかなって思いまして、それを……」
「それだと、この素材では力不足だな」
そう言うと、インテリ眼鏡様は机の上に置かれた素材箱から別の素材を選んだ。
選んだのは直径6.5ミリの大きさの黒い石だった。
さっきの倍くらいあるけど、こんな大きさの素材使ってもいいの?
この大きさは流石にお値段も素敵なんじゃない?
思わず魔道師さんをみると、彼も驚いていた。
ついでに所長も。
「いいんですか?」
素材とインテリ眼鏡様の顔を見比べながら問うと、頷かれ、目の前に素材が差し出された。
それを受け取り、先程と同じ様に両手で包んで、魔法抵抗が上がるように祈りながら、魔力を照射する。
素材が一瞬、仄かに熱を帯びるが、それはすぐに収まる。
上手くいったのだろうか?
恐る恐る、合わせていた掌を開くと、今度は割れずに、先程のままの素材がそこにあった。
あまりにも代わり映えがないため、本当に成功したのか疑わしい。
じっと素材を見てると、インテリ眼鏡様が、やはり先程と同じ様に、掌の上の素材をつまみ上げた。
「『鑑定』」
彼が静かに唱えた魔法は使える人が少ないと言われている鑑定魔法。
ここ、宮廷魔道師団にも数人、使える人がいるとは聞いていたけど、インテリ眼鏡様もそのお一人なんですね。
流石です。
じっと見ていると、天の声から後、能面の様に無表情だったインテリ眼鏡様の口元がほんの少し持ち上がる。
微かな笑みはすぐに消えてしまい、元の能面に戻った後、「成功だ」と言った。
それを聞いて、周りの魔道師さんたちのおーっという歓声が広がった。
良かった、今度は成功してた。
ほっとしている私の目の前に、すっと別の素材が差し出される。
その手を辿ると、やっぱりインテリ眼鏡様で、何だろうと首を傾げると、「次は……」と口を開いた。
え、次があるんですか?
とりあえず受け取った素材は、最初に使った素材と同じくらいの大きさだった。
「毒軽減の効果」
「はい」
有無を言わせない声に、思わず素直に頷いてしまった。
今回はちゃんと言われた通りの効果を、そのまま付与する。
インテリ眼鏡様の見立ては正しく、こちらも割れることなく付与が終わった。
付与が終わり、掌を開くと、インテリ眼鏡さまが出来上がった核をつまみ上げ鑑定魔法をかける。
無事に言われた通りの効果が付与されていたのだろう、満足気に頷くと、次の素材を目の前に差し出してくる。
それを私が受け取ると、付与する効果が端的に述べられる。
大人しく言われた通りの効果を付与すると、それに気を良くされたのか、インテリ眼鏡様は同様に次々に素材を渡してくる。
そして私も、端的に述べられる効果を次々と素材に付与していく。
彼は魔法付与された核に鑑定魔法をかけ、そのどれもに正しく効果が付与されているのを確認する。
ずっとこのルーチンワーク。
いや、魔法を付与するのはたいした手間じゃないけどさ。
こんなに沢山作ってどうするんだろう?
指示も、最初は毒軽減や属性魔法軽減等、軽減系だったものが、いつの間にか毒無効や麻痺無効等の無効系のものが混じりだし、仕舞いには軽減系のみとは言え、二つの効果を付けろとか言い出す始末。
途中、付与に使うMPが流石に足りなくなったんだけど、気付いたらさり気なく中級MPポーションが置いてあった。
どうやら一連の行動を見守ってくれていた魔道師さんが差し出してくれたみたい。
五本ほど……。
結構いい量なんだけど、全部飲んだよ。
休憩がてら。
まぁ、ポーションって何故かお腹に溜まらないから、何本でも気にせず飲めるんだけどね。
それでもいい量だったわ。
えぇ。
飲んでる最中に、隣で素材持って待ってる人がいましたからね。
「これ、いつまで続ければいいんですか?」
何個目かの付与が終わり、そろそろ研究所に戻ろうかなと思ったところでインテリ眼鏡様に声をかけた。
ベルトコンベアの如く運ばれた魔法付与済みの核達は、彼の目の前に綺麗に並んでいる。
その数を見て、ふむと頷かれたインテリ眼鏡様は移動し、壁際にある鍵付きの棚の中から一際大きな素材を持って来た。
大きさが1センチ越えの透明な石。
ダイヤモンドじゃないよね?
差し出された素材の大きさに、周りの魔道師さん達の中にも、ごくりと喉を鳴らす人がちらほら。
所長、口開いてますよ?
「これで最後だ。状態異常無効、魔法攻撃無効、物理攻撃無効」
え、三つ?
しかも全部無効系?
言われた私も驚いたけど、周りの魔道師さん達も皆驚いている。
そんなに大きく目を見開いたら、目の玉落ちますよ?と言いたい。
とりあえず、言われた通りできるか考えるけど、魔法攻撃無効と物理攻撃無効が両立できそうにない。
うーん、魔法抵抗上昇と物理防御上昇なら三ついっぺんにいけそうなんだけどな。
「魔法攻撃無効と物理攻撃無効の両立はできそうにありません。魔法抵抗上昇と物理防御上昇だったらいけそうですけど」
「そうか。ではそちらで」
提案した内容で良いって言われたので、状態異常無効、魔法抵抗上昇、物理防御上昇で魔法を付与する。
掌に感じる熱が今までより高く、時間も長く掛かったけど、付与することはできたみたい。
出来上がった核をインテリ眼鏡様に渡すと、彼はそれに鑑定魔法をかけ、魔法付与がされていることを確認した。
口元がほんの少し上がったことから、ちゃんと言われた通りの効果は付与されていたみたい。
途端に、固唾を呑んで見守っていた魔道師さん達がざわざわと騒ぎ出す。
ほっと一息つくと、「お疲れ様」と所長に声をかけられた。
うん、なんか微妙な緊張感があって、いつもよりちょっと疲れたわ。
早く研究所に戻ってお茶の一杯でも飲みたいかな。
「今日の駄賃だ」
所長と二人、ざわめく宮廷魔道師団の隊舎を後にしようとすると、インテリ眼鏡様から黒い石が差し出された。
最初に作った魔法抵抗が上がる石だ。
駄賃って……、これも買ったらそれなりのお値段するんですよね?
いいのかしら?
「よろしいのですか?」
「構わん。それくらいの働きはしてもらった」
「そうですか」
いいと言われたので、ありがたく受け取る。
掌の石がキラリと光った気がした。
本話の裏タイトルは「インテリ眼鏡様」です。
サブタイトルにしようか悩んだんですけど、止めておきました。