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舞台裏01 聖女召喚の儀

ブクマ&評価&感想ありがとうございます!


月間ランキングでも5位に入れました!!!

いつもありがとうございます!


背景描画が足りないというご意見をいただいたので、舞台裏として用意してみました。

男性陣から見た主人公についても、この舞台裏で用意してみようかと思います。

 時は少し(さかのぼ)る。



 スランタニア王国、王宮内の一室には、重苦しい雰囲気に包まれていた。



「それでは報告を聞こうか」



 難しい顔をして口を開いたのは、宰相であるドミニク・ゴルツだ。


 左右に八人ずつ座れる会議テーブルには、この国の軍務大臣、内務大臣等の大臣達と、各騎士団の団長達、宮廷魔道師団の師団長が座り、それとは別に、一番奥の端には国王が座っていた。次に口を開いたのは軍務大臣のヨーゼフ・ホークだった。低く、重みのある声が響く。



「状況は変わらず、思わしくない。各騎士団で順番に討伐を行い、何とか持ちこたえているが、このままでは近い将来、森から魔物が溢れるだろう」



 魔物と言うものは一定以上の濃さの瘴気が集まると生まれ、瘴気が濃くなるほど強い魔物が生まれる。瘴気は割りと身近に発生し、何故発生するかの仕組みは未だ解明されていない。そして、瘴気は、特に森や洞窟など、人が住んでいない、暗い所に溜まり易い。溜まり易いだけであれば問題は無いが、その瘴気から魔物が生まれ、その魔物が村や街などの近くに移動して人的被害を齎す。この様な瘴気であるが、魔物を倒すことにより周囲の瘴気を薄くすることが可能であり、魔物を倒し続けることによって、瘴気が濃くなることを防げる。


 平時であれば、各騎士団の定期討伐で、村や街周辺の瘴気が溜まり易い場所から魔物が溢れるといったことは十分に防げている。しかし、この国には、数世代毎に魔物を倒す速度を遥かに超える速度で瘴気が濃くなる時代があった。現在がまさにそれだ。各騎士団は討伐に出る頻度を上げることにより、対応してきた。だが、年々増える瘴気に討伐の回数は増すばかりであり、持ち堪えられて後一、二年というのが軍務大臣と騎士団長達の総意だった。持ち堪えられなくなれば、瘴気が溜まり易い場所から、討伐し切れなかった魔物が溢れ、周辺の村や街が襲われるだろう。


 軍務大臣に続き、内務大臣のアルフォンス・フンメルが口を開く。



「各地の貴族達からも徐々に対処が難しくなっていると報告が上がっております」



 王都周辺の森などについては各騎士団により討伐が行われているが、地方の貴族の領内は各貴族が領内の者に命じて討伐を行っている。この領内の者というのは農民などではなく、各地にいる傭兵達のことだ。各地にいる傭兵は其々に傭兵団として纏まり、その傭兵団に対して領主が報酬と引き換えに魔物の討伐を依頼する。そうやって地方の安全を維持してきたが、このところの魔物の量に、領主も報酬として渡す財貨が追い付かず、対処が難しくなってきていた。傭兵達も命を懸けているのだ。例え自分達が住む場所であったとしても、あまりに低い報酬では傭兵団としては動けない。諸々の理由で傭兵団が動けない、または傭兵団だけでは足りない場合、通常であれば、王宮の騎士団が手を貸すこともある。しかし、今は王都周辺の対応に手一杯であり、とても地方まで手が回せる状況ではなかった。


 軍務、内務、各大臣の答えに眉間の皺を更に深くした宰相は、次に特務師団の師団長、ミヒャエル・フーバーに問いかけた。



「聖女様の捜索はどうなっている?」

「……残念ながら、未だ見つかっておりません」



 フーバーの声もまた暗く、重たい物だった。


 瘴気が濃くなる時代が来ると、必ず聖女と呼ばれる乙女が国のどこかに現れた。聖女が使う、瘴気を祓う術は強力で、それにより魔物を次々に屠ることも可能だった。そうして聖女が現れることにより、溢れる瘴気を抑え、時代を乗り切ることができてきた。


 連綿と続くその歴史から、今回もどこかに聖女が現れているはずだと予想し、特務師団が各地で捜索を行っていた。すぐに見つかると思われた聖女だったが、予想に反し、探し出し始めて三年が経った今でもまだ見つかっていなかった。着々と近付く破滅の時を前にして、特務師団も懸命に国の隅々まで捜索を行っていた。見つからない度に、まだ生まれていないのかもしれないと考え、何度も同じ場所に足を運んでもいた。それでも聖女は見つかっていない。


 室内に重苦しい沈黙が落ちた。



「伝説にでも縋りますか」



 ぽつりと零したのは宮廷魔道師団の師団長、ユーリ・ドレヴェスだった。静かな部屋に思いのほか響いたその囁きに、テーブルに着く者の視線がドレヴェスに集中する。ドレヴェスは周りを一瞥すると、おもむろに目の前に置いていた書類を持ち上げた。



「【聖女召喚の儀】という儀式があります」

「それは……。確かにその話は有名な話だが、御伽噺では?」

「いえ、実話です。ここに儀式の内容が書いてあります」

「何ですとっ?」

「禁書庫に収められていた本の中に、儀式が行われた当時の魔道書がありましてね。その中に記録されていました」

「その内容、信頼できるものですかな?」

「わかりません。やり方は載っていましたが、手順がかなり複雑です。儀式を行うのに魔道師の数も必要になりますしね。成功するか失敗するかは五分五分かと」

「そんな……」

「ですが、何もしないまま魔物が溢れる時を待つよりかは試してみる方が良いかと思います」



 【聖女召喚の儀】とは、今と同じ様に、どれだけ瘴気が濃くなろうとも聖女が現れなかった古の時代に構築された儀式である。時の賢者達のありとあらゆる知識を用いて作り出されたこの儀式は、遥か彼方より聖女となる乙女を召喚する。聞く限りでは、まさに今必要とされている儀式であるように聞こえる。しかし、この儀式は作り出されたその当時、ただ一度だけ行われた儀式であり、今日に至るまで行われず、眠っていたものだ。それ故、手順通りに行ったとしても成功するかは不確実な儀式でもあった。儀式に必要とされる道具や魔道師の数も多く、儀式を行うだけでもそれなりのコストがかかる。平時に行うには割に合わない儀式だったが、既に期限が迫っている今、その様な些事は問題とならなかった。


 黙って話を聞いていた国王が口を開いた。



「【聖女召喚の儀】を行う。魔道師団は、直ちにその準備を。それ以外の者は引き続き任務に当たれ」



 こうして、スランタニア王国で数百年ぶりの【聖女召喚の儀】が行われることとなった。






 【聖女召喚の儀】は成功した。






 【聖女召喚の儀】により、異世界から乙女は召喚された。だが、ここで問題が発生した。召喚された乙女が二人(・・)だったのである。記録によれば、今まで国内に現れたときも、かつて召喚されたときも聖女はただ一人だった。召喚された二人のうち片方だけが聖女なのか、それとも両方とも聖女なのか、はたまた両方とも聖女ではないのか。それを唯一判断できそうな宮廷魔道師団の団長は【聖女召喚の儀】の反動により、儀式を行った直後に倒れてしまい、現在もなお眠ったままであった。


 更に問題は続く。


 国の重鎮達が聖女候補(・・)が二人いることを知ったのは、【聖女召喚の儀】を行った翌日のことだった。儀式が成功したことは、本人たっての希望により儀式の統括を行っていた第一王子から、すぐに国王へ報告が上がった。第一王子からの報告は無事に聖女が召喚されたというものであり、人数については言及されていなかった。これで漸く少しは落ち着けると重鎮達が思ったのも束の間、翌日になって入ってきた知らせに重鎮達は揃って頭を抱えた。その知らせとは、第一王子が何故か片方の聖女候補にしか声をかけず、もう片方の聖女候補をその場に置き去りにしたというものであった。しかも、第一王子が無視をした形となったもう片方の聖女候補は、その対応に怒り、城を出て行こうとしたらしい。幸い、その場にいた騎士達の行動により、何とか直ぐに城を出ることは思い留まってくれたようだったが、彼女のこの国への心象が限りなく悪くなっただろう事は想像に難くなかった。



「あいつは何をしているんだ……」



 国王の疲れたような、事実どっと疲れたのであろう、声がその場に響いた。

先週はちょっと忙しくて月曜日以降更新ができませんでした。

心配をおかけして申し訳ないです。

来週も似たような感じなのですが、運がよければ水曜日辺りに更新できるかもしれません。


⇒できませんでした。

 大変申し訳ないです。

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