第十七話
「紹介します。こちらは私の婚約者のルティア・アルディス。そして、隣にいるのが」
「シェリア・アルディスです。初めまして~」
「ルティアです。本日はお招きいただいてありがとうございます」
ルーメリア王国の辺境の地にある教会にて、リュオン殿下は私たち姉妹をローウェル様とエリナさんに紹介されました。
ローウェル様は黒髪で体格も良く、頼り甲斐がありそうな方だという印象です。
エリナさんは病気がちな方だとお聞きしていましたが、見た感じは顔色もよく元気そうに見えるのですが。
「リュオン殿下、わざわざ私共の式に出向いてもらって申し訳ありません。両国の関係維持のために、寛大な対応をしていただき、辺境伯として殿下の懐の深さには感謝します」
「ローウェルさん、頭を上げてください。私は単純に友としてお祝いに駆けつけたのです。国とか堅苦しい話はなしにしましょう」
ローウェル様はリュオン殿下にすぐに謝罪の言葉を述べましたが、殿下はその話は良いとしました。
せっかくのお祝いの席ですし、暗い話はしないようにされたいのでしょう。
私もそう思いますし、ローウェル様もその言葉で救われたみたいです。
「エリナさん、お久しぶりです。レナの同級生のシェリアですわ。……ところでマルサス様がプロポーズに来たときの話を」
「シェリア! あなた、いきなりエリナさんに失礼でしょう!」
「ルティアさん、良いんですよ。……申し訳ありません。私が知らないうちにマルサス様を勘違いさせてしまったみたいで」
挨拶が済むなり、シェリアは無神経にもマルサス様の話をエリナさんに聞こうとしました。
マルサス様を異性として興味があるわけではないみたいですが、見境がなさすぎます。
私がシェリアを咎めるとエリナさんが申し訳なさそうな顔をしました。
「そ、そんなことありません。エリナさんは何も悪くないのですから、そのような顔をなさらないでください」
「そうですわ。むしろ、あのマルサス様と結婚しないで済んでいますので、得をしていますの」
「そういう問題ではありません。ですが、このとおり私はリュオン殿下と結ばれて幸せを感じておりますから、お気になさらないでください」
「あー、お姉様が惚気話をしていますの」
私は必死にエリナさんに大丈夫だということを伝えました。
一生に一度の結婚式なのですから、彼女には笑っていて欲しいです。
「ありがとうございます。……マルサス様、悪い方ではないのですが、考えてみますと幼いときから何でも出来る能力がある分、空回りしがちで」
「なんと昔から多才な方でしたのね。タップダンスをしながら、ギターを演奏しているのを見たときからそんな予感はしていましたの」
「ええーっ!? 何があったんですか!?」
「実はですね。マルサス様、お姉様に――」
エリナさんはシェリアと同い年なので話が合うのか、楽しそうに会話を始めました。
まぁ、シェリアは誰とでも仲良くなれるタイプですが。
とにかく、エリナさんが幸せそうで良かったです。
オリビア殿下の件が心配でしたが杞憂みたいでしたね――。
◆
結婚式は粛々と行われました。
リュオン殿下とオリビア殿下の件があったからなのか、あまり絢爛豪華にしても顰蹙を買ってしまうという配慮があったのだと聞きます。
エリナさんはそれでも良いと幸せそうに笑い、その美しいドレス姿はゲストを魅了します。
「マルサス様が夢に見て、婚約を止めるとか言い出す理由も分かりますね」
「嫌なことを思い出させないでください」
本当にシェリアったら、何でもかんでもマルサス様と結びつけて。
エリナさんが好きな方と結ばれているということを知らなかったのは少しだけ気の毒だとは思いましたけど……。
このまま、素敵な式は幕を閉じる、そう思っていたのですが――。
「レディース、アーンド、ジェントルマン! ここからは楽しいショーの始まりだよ!」
「「――っ!?」」
ちょうどエリナさんの親友のレナさんがお祝いの手紙を読み終えたところで、シルクハットを被った男性が現れて、『ショー』とやらを開始するとか言い出しました。
これは、新郎新婦の友人のサプライズとかでしょうか。
それと同時にオーケストラ会場の外に待機していたのかポップなミュージックが流れ、ラインダンスを踊るダンサーたちが中に入ってきます。
「あ、あれは!? マルサス様では!?」
「えっ?」
目を輝かせながら、会場の入口を指差すシェリア。
なんと、一輪車に乗りながらジャグリングをしているタキシードを身に着けたマルサス様がこの会場に入ってきたのでした。
えっ? えっ? エリナさん、マルサス様は招待していないと仰っていませんでしたか?
これは一体、どういうことなんでしょう。
またもや、フラッシュモブのときと同様に……、いや、その時以上の圧巻のショーが開催されました。
世界中から集められた一流のスターたち。
オペラ歌手のアウルセル・ラーマイン、ザリー賞女優のレミリア・ウルフマンを筆頭に、いくらギャラを支払ったらこんなにも絢爛豪華な催しが出来るのか想像も出来ないくらいの、それはもう、立派なショーです。
結婚式のゲストは大いに盛り上がり、みんな笑顔になってマルサス様たちのショーを喜びました。
エリナさんやローウェル様も、最初は困惑していましたが、途中からは普通に催し物を見て顔を見合わせて笑っています。
「でも、何をしに来られたのでしょうね。まさか、お姉様にまたプロポーズを?」
「怖いこと言わないでください。いくらマルサス様でも、このゲストたちがいる中でそれはないと信じたいのですから」
嫌な予感がしますが、とりあえず今のところは皆さん喜ばれています。
マルサス様、一体何をしに来られたのですか? 私は一体何を見させられているのですか?
突然、音楽が鳴り止み、ダンサーなどの演者が一斉に退却しました。
会場にはタキシードを着たマルサス様のみ。
「今日お集まりの皆さん、突然のサプライズを許していただきたい! 僕の名はマルサス・テスラー! 愛の伝道師だ! 今日、ここで、おめでとうと心から言いたい人がいる! これは、そのための余興なのだ!」
おめでとうと言いたい人がいる?
それならば、やはりこの超豪華な催し物は――。
「そう、その人物は!」
「マルサス様! ありがとうございます! 私たちの式をこんなにも盛り上げようとしてくれるなんて!」
「ぽ、ぽえっ!? え、エリナ!? ど、どうしてここへ!?」
エリナさんが感極まって、マルサス様のところに駆け寄ります。
何故か、マルサス様は驚いて口をパクパクさせていますが。
「こんなに祝ってくれたのです。駆けつけますよ。私とローウェル様の結婚式を地味なものにしようということを聞きつけて、こんなにも素晴らしいショーをサプライズで起こしてくださるなんて感動しました!」
「結婚式、エリナ、んっ? んっ?」
「なんか、物凄く面白いことが起こっていそうですの」
「あなたはまた、楽しそうにして」