前へ次へ
13/19

第十三話(マルサス視点)

 僕が「フラッシュモブでプロポーズ大作戦」に使った5050万エルド。

 父上はこれを耳を揃えて払えという。


 払えなければ、僕は勘当だとも……。


 払ってみせるさ。勘当を免れて、再びルティアに愛の告白をするために。

 そもそも好感度は高いと思うんだよね。アウトプットを失敗しただけで。

 やはり情報を集めることって大事だな。

 あれから調べた結果、フラッシュモブは非常に好き嫌いが分かれるらしい。

 サプライズが嫌いな女性がいるとは思っていなかった。なんか、記念日とかに驚かせることをしてりゃいいんだろって思っていたんだ。


 しかし、この僕は学習した。

 

 敢えて言おう。今日から僕はニューマルサスだと。バージョンアップしたこの僕の愛の物語(ラブストーリー)にご期待あれ!



「ふふ、今日からニューマルサス……」

「で、ニューバカ様は5050万エルド稼ぐあてがあるのですか?」


「……うぴゃあっ!? い、いきなり話しかけるな!? も、もちろんあるとも、真っ当な手段がな! んっ? 今、バカって言った?」


「真っ当な手段がある? どう考えても無理だと思うのですが」


「僕にだって50万エルドくらいの現金は持っている。要するに、これを101倍にすれば良いのだ。……ねぇ、バカって言った?」


 そうだ。

 貧しい平民たちと違って、僕は伯爵令息。このテスラー伯爵家の跡取りだ。

 金は持っている。まぁ、無駄遣いさえしてなければ1000万くらいあるはずなんだけど、死んだ子供を数えても仕方がない。


「それで、その101倍にする手段というのは……?」


「カジノに決まっているだろう?」


「…………バカをバージョンアップさせてどうするのですか?」


 カジノで勝負!

 これしか手はないと思った。

 実は101倍というのは大した倍率じゃあない。

 2、4、8、16と倍々していくと、7回目で128倍になるのだ。

 つまり倍率2倍でも最速でたったの7連勝すれば50万エルドは128倍となり、僕は目標が達成できるという算段。


 よーーーーし! レッツ、カジノーーーー!!




「く、黒が5回続いたから……! 次こそ、赤だ!!」


 一気に残り5万エルドになってしまった……。

 僕はここが勝負時だと思って、ルーレットで5万エルドを全ベットする。

 これは固いだろう。なんせ、さっきまで5回連続で黒が続いたんだ。

 6回連続で黒が出るはずがない。ここは赤にかけておけば、十中八九……当たるはずなんだ。

 

 周りのみんなも、その気配を感じ取ったのか赤にごっそりベットされていた。

 こりゃあ、カジノは大損なんじゃないかな……。


 さぁ、来い! 赤に来い! 赤だ! 赤だ! 赤に…………来るんだーーーーーーーーっ!!



「畜生! また黒だ……!」

「黒かよ。かーっ、ついてねぇなー」

「まったく、黒が続く日だな……」

「ぽえっ!?」


 う、嘘だろ……?

 ぼ、僕の全財産が……。パァ?

 こ、これで一文無し……? 

 そ、そんな、こんなに黒が続くなんて。なんで、ツイていないんだ……。


「おおーっ! あっちの姉ちゃん! あんなに沢山のチップを黒に賭けてたんだ」

「つーか、あの女、さっきから勝ちすぎだろ! あのチップの山……、軽く一千万エルドはあるぞ!」


「若様、こういう賭博場は初めてですが存外楽しいものですね」


 アネットーーーーーーーーっ!?

 お、お前、こんなに沢山勝っていたのかーーーーーっ!!

 

 くそっ! くそっ! くそっ! ずるいじゃないか! お前ばっかり!!


 こ、こうなったらーーーーーっ!!


「お金貸してください……!」

「そうやって使用人に躊躇いなく土下座出来るのは若様くらいでしょうね……」



「よし! すべて合わせて1200万エルド! 何とか目標額に近付いたな!」


「若様が私から借りた800万エルドを溶かして暴れられて、出禁にならなかったらもっと稼げましたけどね」


 アネットから2000万エルド借りることになったが、僕は現金1200万エルドを手にすることが出来た。

 まったく、アネットのやつ。僕が信用出来ないって借用書まで作らせやがって、利息でも何でも払ってやるよ。全て終わったらな。

 

 残念なのはカジノは出禁になってしまったこと。

 だって、おかしいだろ。あのあと、赤にいくら賭けても全部黒に玉が入るなんて。

 インチキに決まってるのに、抗議したら追い出されるって。


「1200万エルドを5050万エルドに増やすなんて出来るのですか? あと4000万近く稼がねばなりませんが」


「ふっふっふっ、最初から僕だって運頼りのギャンブルに全振りしようなんて思ってなかったさ」


「流石です。とても、ぽえっ、ぎゃピッ、とか言いながら2回も全財産を失って土下座される方の発言とは思えません」


 うるさいな。

 あのときは熱くなって、自分を見失っていたんだ。

 ギャンブルって怖いね。取り返さなきゃ、取り返したいって感情が理性を失わせるんだもん。

 それにしても、こいつ――。


「お前、金を貸したからって調子に乗るなよ」


「……それでは、今から旦那様にこの借用書を――」


「アネット様~~! 僕が調子に乗ってましたーーーー!」


「路上で土下座しないで下さい……。分かりましたから」


 あ、危なかった。今、こいつに借金のことをバラされたらおしまいだ。

 土下座なんて、タダなんだからいくらでもしてやるさ。


 ――そう、愛のために!






「よし! どんどん掘っていこう!」

 

 土工用のつるはしを片手に僕はある鉱山に来ている。

 そう、この鉱山の一角を僕は買い取った。

 どうやら、その昔。この鉱山では沢山の宝石が取れたそうだ。

 特にエメラルドは末端価格でも5000万エルドは下らない貴重なものを多く算出していて、一時期は世界一の宝石鉱山だと名を馳せていたとのこと。


 僕はここが特別な格安価格で売られていることを知っていた。

 だから、ある程度の軍資金が貯まったらここで宝石を掘り当てて、一攫千金を狙うつもりだったのである。


「どう見ても掘り尽くされた後なんですけど……」


「そんなのやってみなきゃ、分からないだろ? アネット、知っているか? 夢というのは諦めたら終わりなんだぜ……!」


「格好つけていますけど、“夢”って言っちゃってますからね」


 僕は一心不乱になって買い取った鉱山の一角を掘りまくった。

 

 そう、「一念岩をも通す」という言葉が遥か東の大国にはある。

 

 僕には誰にも負けない愛の大きさがあるんだ。

 掘る! 掘って、掘って、掘りまくる!


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 そして、一週間が過ぎた――。




「また徹夜していたんですか? 食料と水です。ここに置いておきますよ」


「はぁ、はぁ……」


 お、おかしいな。一週間穴を掘り続けたら筋肉もついたし、慣れると思ったのに――つるはしが重い……。


「不眠不休で掘り続けても、無いものは見つかりませんよ」


「ぜぇ、ぜぇ……、諦められないんだよ! あの日、誓った愛は裏切れない! はぁ、はぁ……!」


「はぁ……、本当に、世界一のバカ様ですね……」


 僕は絶対に諦めない!

 掘り続ければいつか――!


「ぬわああああああっ!」


 そのとき!

 いつもとは違う感触が、僕の腕は感じ取った!

 やっと来たか! 見つかったか!


「うわっぷ! つ、冷たい!」


 プシューとものすごい勢いで噴射される水。

 ……どうやら、湧き水らしい。

 はぁ~、また別のところを掘らないと……。


「わ、若様……、この銀色に輝いている水って。レアポーションの原材料になっている“輝水(きすい)”じゃないですか? 確か、末端価格が1リットル、1万エルドくらいで取引されていたような……」

「ぽえっ!?」


 ……あはは、ほら、言っただろう?

 

 ――最後に愛は勝つって!


 なーはっはっはっはっは! 大金持ちだ!

前へ次へ目次