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episode83 そして次なる舞台の幕が上がり……③

「あなたが直接乗り込んできたということはまた厄介な依頼でも舞い込んできたのですか?」


 組織にはリアムのほかにも魔導士はいる。つまり、連絡係である魔導鴉を飛ばせば事足りる話なのだ。

 せっかく静養を兼ねて温泉で有名な北の宿場町でのんびり羽を伸ばそうと思っていただけに、リアムの口調は自然と冷たいものになっていく。


「おいおい。厄介な依頼だなんてそんなつれないことを言うなよ。俺とリアムちゃんの仲じゃないか」

「どんな仲だか知りませんが少しは僕らを休ませようという優しさはないのですか? はっきり言って迷惑です」

「そうだぞ。会いにくるならくるで饅頭のひとつでも持参する気遣いでもあればまだ可愛げがあるものを。いい年をして恥ずかしいとは思わぬのか」


 リアムと太郎丸が畳み掛けるようにして文句を言うと、レッドはさもあらんとばかりに頷いて言う。


「俺もな、できれば北の宿場町でゆっくりと温泉に入ってもらいたいし、温泉饅頭もたらふく食べて貰いたいと思っている。だが所詮はしがない小間使いの身。おっかない上からの命令に逆らうことなど小心者の俺にはできやしないのさ」


 最後は戯けるように両手を広げて空を見上げるレッド。どうやら温泉で羽を伸ばそうとしていたことはお見通しらしい。とぼけた表情を見せてはいるが、そういうところは実に抜け目がないから腹も立つ。


「大体レッドはこの組織を立ち上げた〝ナイン・デモンズ・ナイブス〟のひとりですよね? 僕たちに休暇を取らせるくらいの権力はいくらでもあるでしょうに」


 組織を立ち上げたのは九人からなる者たちということまではリアムも知っている。逆を言えば知っているのはそこまでで、各々の経歴はもちろんのこと名前や性別さえも知らない。

 ただひとり、いつもなにを考えているのかわからないレッドという名の男を除いては。


「そりゃお前の買い被りすぎだ。大体組織を立ち上げたメンバーだからって偉いわけじゃない。それによく考えてみろ。権力を持つような人間がわざわざ依頼を伝えるだけの仕事を好き好んでやると思うのか?」


 レッドは口を開けば事務仕事に専念したいと言っているような人間である。だけに、リアムとしても反論の余地はなかった。渋々ながらも納得していると横から白い煙が漂い始め、見ればレッドがいつの間にか煙草を(くゆ)らせている。

 リアムはレッドに向けて思い切り顔を顰めて見せた。


「知ってます? この鬱陶しい煙が子供の成長を妨げることを?」

「お前……もしかしてちっさいことを気にしてるの?」


 まじまじとこちらの顔を覗いてくるレッドを避けるように顔を反らせば、レッドは快活に笑いながらリアムの肩に優しく手を置いた。


「安心しな。嫌でもお前の背は高くなる。小さい〝今〟という時を精々愉しんでおけ」

「嫌でも高くなるって……まるで僕の未来がわかっているかのような口振りですね」


 同年代の子供と比べても小さいことをリアムは自覚している。大人になっても大して背が伸びないのではないかと密かに不安に思っていた。


「未来のことがわかるなら俺は今頃聖女と呼ばれて……なぁ男の場合はなんて呼ばれるんだ? 聖男か? ごろが悪いよな?」

「知りませんよ。そんなことより聖女が偽物だということを最初から知っていた、なんてことはないですよね?」


 元々受けていた依頼を取り消され、今回の依頼が強引にねじ込まれたのがそもそもおかしいのだ。なにもデモンズイーターはアリアだけではない。手すきのデモンズイーターに依頼を回すことだってできたはずである。

 最初から違和感を覚えていただけにレッドがわざわざ姿を見せたことで、違和感は限りない疑惑へと変容していた。

 そんなレッドといえば、勘弁してくれとばかりに頭を振る。


「邪推するにもほどがある。聖女が偽物だったなんて俺にわかるわけがないだろう。仮にわかっていたならあらかじめなんらかの手段を講じるさ」

「それはどうでしょう? なにせ胡散臭い組織を立ち上げたうちのひとりですから」

「その胡散臭い組織に属しているお前がそれを言う⁉──アリアは俺が嘘を言ってるなんて思わないよな?」


 話を振られたアリアは、両腕を組んで考える仕草を見せた。

明日の投稿を持ちまして第一章完結となります。

最後まで応援のほどよろしくお願いします('◇')ゞ

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