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episode80 ささやかな幸せを魔法に込めて④

「あの……外でいったいなにを……」


 メイドのひとりが恐る恐るといった体で尋ねてくる。リアムは白い手袋に覆われた左手の人差し指を高らかに掲げて見せ、メイドたちの注意を十分引き付けたことを確認した。


「これが最後の仕上げです!」


 高らかに告げて優雅に手を動かしながら、空中に金色(こんじき)に光る魔法式を書き連ねていく。メイドたちから口々に驚きの声が上がっていく中で、やがて完成された魔法式は螺旋を描きながら空高く上昇し、激しい明滅を繰り返す。

 そして、次の瞬間──……。

 リアムは夜空一杯に七色の光に彩られた魔法の星屑を盛大に降らせた。


「わあっ!」

「凄く綺麗!」


 華やいだ声を上げる者。

 うっとりとした表情で空を見上げる者。

 降り注ぐ星屑に向けて水を救うように手をかざす者。

 様々な反応を見せるメイドたちに向けて、リアムは改めて感謝の言葉を口にする。


「今日まで本当にお世話になりました。ささやかなお礼ですが私からみなさんに幸運のおまじないを施しました。明日以降、きっとみんなには素敵なことが待っていると思います」


 リアムが片目を瞑ってそういうと、メイドたちから花のような笑顔が咲き誇った。当然そんな都合のよいおまじないなどあるわけないが、全ては心の持ちようだとリアムは思っている。


「リアムにしては中々粋な計らいをするではないか」


 空を見上げながら太郎丸が感心したように言う。


「しては、は余計だよ」


 リアムは苦笑し、


 (そうそう。これを渡すのを忘れるところだった)


 翠色(すいしょく)に輝く宝石が埋め込まれたネックレスを懐から取り出したリアムは、空を見上げているアリアの左手にそっと握らせる。


「な、に?」


 左手を広げたアリアは目線の高さにネックレスを掲げて、


「これって前にお店でリアムが見てたやつだよ……ね?」


 思わぬアリアの指摘にリアムは目を丸くした。


「よく気づいたね」

「だってすごい見てたか……ら」


 リアムは頬を掻き、


「初めてそれを目にしたときアリアがつけたら似合うなと思ったんだ。まぁただそれだけのことなんだけど……」


 アリアが宝飾品の類に全く興味を示さないことは無論知っている。なのでただただ自己満足の行為に過ぎない。結果いらないと返されたところでなんら構わないと思っている。

 ネックレスをしばらく見つめたアリアは、リアムの正面に立つと中腰の姿勢を取った。


「つけてくれる?」

「今?」

「うん」


 ネックレスを手渡されたリアムは、たどたどしい手つきでアリアの細い首にかける。

 アリアは背筋を伸ばして、


「どうか……な?」

「うん……まぁその……中々似合っていると思うよ、うん……」


 本当はとても良く似合っていた。ただなんとなく正直な感想を口にするのが恥ずかしく、熱くなる顔を誤魔化すようにマントのしわを意味もなく伸ばしていると、アリアが勢いよく抱きついてきた。


「あ、あの……ええと……アリアさん?」

「リアムありがとう。いっぱいいっぱいいーっぱい! 大事にするね」


 どこまでも甘く優しい彼女の香りが、リアムの心をしばしの間、夢幻の彼方へと連れ去っていく。

 ひとつの物語は終わりを告げ、新たな物語が始まろうとしていた。

 

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