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episode78 ささやかな幸せを魔法に込めて②

「──聖女様の葬儀は内々に済ませました。(おおやけ)には病死として後日発表する予定です」

「そうですか……」


 意識を取り戻したイズモによって厳しい箝口令が敷かれる中、聖女の捜索が昼夜問わずに行われた。結果、壇上の真下でサリアーナの遺体が発見されたのだが、第一発見者であるサリアーナの侍女は彼女の状態を知らされていなかったようで、あまりの惨たらしい惨状にその場で気を失ったという。

 サリアーナ本人であることを示す身に着けていた宝飾類などはそのままだったとの話を聞かされたときは、あまりの悪辣(あくらつ)さに反吐が出る思いだった。

 ベルトラインはティーカップをジッと見つめながら言葉を紡いでいく。

 

「それとイズモ様は重騎士の地位を剥奪され、神聖騎士団から追放となりました。お側に控えながら偽物だと気づくこともできず、あまつさえ聖女様をお守りすることができなかったからという理由です……」


 散々リアムたちに敵外心を向けてきたイズモに対して今さら同情する余地もないが、たとえイズモ以上の護衛がそばにいたとしても、サリアーナの殺害を未然に防ぐ手立ては皆無であったとリアムは思う。

 全力ではなかったにしても、相手はアリアを軽くあしらったほどの悪魔である。ゼラーレ教会も誰かに責任を負わさねば収まらなかったのはわかるが、そういう意味ではイズモもまた被害者だといえた。


「ですが聖女様をお守りできなかったと言う意味では私も同罪。むしろ一番罪深い。もっとも近くで聖女様に仕えながら偽物にすり替わっていることにも気づけなかった。これを道化と言わずなんというのでしょう」


 そう言って自虐的な笑みを浮かべるベルトライン。リアムに対し、すがるような視線を向けてきた。


「リアム様、私は──サリアーナ様という光を失った私は、これからなにを支えにして生きていけばよいのでしょうか……」


 ベルトラインの切実なる問いにリアムは答える術を知らないし、たとえ知っていたとしても答えたりはしない。

 こればかりはベルトラインがどこかで折り合いをつけて、再び前へ歩み出すしかないのだから。


 カチコチと柱時計から奏でられる秒針の音が、やたらとリアムの耳に響いてくる。息の詰まるような沈黙がしばらく続いた後、ベルトラインはゆっくり腰を上げた。


「ご厚意に甘える形で長々と居座ってしまい申し訳ありませんでした」

「いえ……」

「リアム様たちは明日星都を立たれるのですよね?」

「そのつもりです」

「最後まで誠心誠意お世話を務めさせていただきますのでよろしくお願いいたします」


 最後は力なくそう言い残し、ベルトラインは静かに部屋を去って行った。

 治癒師の見立てだとサリアーナは死後三週間は経過していたらしい。つまり組織に依頼があった時点でサリアーナはこの世になく、したがってサリアーナがベルトラインにリアムたちの世話役を命じたわけではない。

 そのことをベルトラインが気づいていないわけもなく、それでもなお自らの職務を全うしようとの思いが悲しいほどに感じられ、リアムはなんともやるせない気持ちになった。


(後味の悪い幕引きとなったな)


 ベッドから離れ窓に身を寄せたリアムは、闇に包まれた星都の街並みを眺める。サリアーナの死が公表されれば、星都ペンタリアは暗い影を落とすことになるだろう。だからといってリアムたちにできることはなにもなく、ただ黙って立ち去るのみである。

 ベルトラインの予期せぬ訪問によって中断した荷造りを行うべくリアムが再びベッドへと移動した矢先、またもやノック音が響いてきた。


(今度は誰だ?)


 扉を半分ほど開けてみれば、メイドのカリンが目を伏せ目がちに立っていた。

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