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episode76 真相②

「ほほう。そこまで気づいておったとは大したものだ。贄となる人間の絶対量が足りないことも理由のひとつだが、そもそも偽りの生を与えられただけの傀儡(くぐつ)に完璧なダビテの印を発動するのはちと荷が重い」

「偽りの生……まさか究極魔法レイズデッドか⁉ 」

 

 全ての魂の行き着く先と信じられている場所、死者の王国から魂を呼び寄せて現世に蘇らす五大究極魔法のひとつがレイズデッドだ。

 常ならば一笑に付すところなれど、実際リアムは腕を吹き飛ばされても血を流すことなく平然と振る舞っていた魔導士を目のあたりにしている。

 現代においてレイズデッドを継承する魔導士はいないというのが定説であり、まして行使したのが人間ではなく悪魔ということが事態をより深刻にしていた。


「究極魔法?」


 悪魔は何度か目を瞬かせると頭をカクンと落とし、次に顔を手で覆う。最後は肩を小刻みに震わせると高らかな笑いが謁見の間に広がった。

 

「たかがレイズデッドが究極魔法とは片腹痛い。矮小なりに昔の人間のほうがまだ優秀であったぞ。やはり昔と比べて色々と質が落ちているようだ。退化と言ってもいいだろう。人間も、天界にのさばっている神々も、そして──」


 言葉を区切った悪魔は、再び凄惨な笑みを見せて言う。


「我々悪魔もな」

「…………」

「一応言うておくが貴様らが戦った悪魔は、贔屓目に言って完全体の五十歩ほど手前といったところ。だからお前たちでも倒すことができた。──ということで悪魔を狩る若きデモンズイーターよ。随分と勝ち誇っていたようだが誠に残念だったな」


 言われて隣を見やれば、アリアが滅多に見せない怒りの表情で悪魔を凝視している。暴発しないよう視線を強く向けてアリアを静止しつつも、さらなる情報を引き出すため質問を重ねていく。


「本来単体で行動するはずの悪魔が群れ、しかも連携した攻撃を見せた。あれもお前の差し金だな?」


 言えば、悪魔は殊更に手を叩いて見せた。


「ご名答。先に述べたが我々悪魔側の退化も目を覆うものがある。群れさせれば多少はマシになるかと考えてのことだ。中々に面白い趣向であったであろう?」

「星都の神聖騎士団がほとんど出払っているのもお前の企みによるものか?」

「それは知らんな。全く関係ないとも言えんが」

「どういう意味だ?」

「クククッ。まぁそう急くでない。今は手駒を増やしたり色々と実験をしている最中で──おっと、いかんいかんまた口が滑ってしまった。ほかに質問があれば答えてやれる範囲で答えてやるぞ。余の正体を見抜いた褒美にな」


 余裕を崩すことのない悪魔は、こちらの意図を全て見透かしたような尊大な態度で言う。


(もうアリアは限界だな)


 剣の柄に手をかけるアリアを横目に、リアムは今一番感じている疑問を口にした。


「そもそもなぜここ(星都)にデモンズイーターを呼び寄せた。はっきりいってお前の目的がどこにあるのかわからない」


 星都ペンタリアやジェスター王国を滅ぼすつもりなら、わざわざデモンズイーターを呼び寄せる必要はない。むしろ、邪魔になるだけだ。

 悪魔はさもあらんと頷いた後、


「貴様がそう思うのも無理からぬこと。余の目的はいたって明瞭。昔は存在しなかったデモンズイーターと名乗る人間がどの程度やれるかの確認だ。結果は至って上々。これから先が実に楽しみだ」

「──この先なんて……ないッ‼」

 鋭い声が謁見内に響くのと同時にアリアが俊足術を発動した。

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