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episode72 暗転②

 そして翌日──。


「吾輩今度こそはついていくぞ!」


 屋敷の門前では、つい最近も見たような光景が繰り広げられていた。


「報告を終えたらすぐに戻ってくるから太郎丸は大人しく待っていて」

「拒否する! 吾輩がいかに活躍したのかを吾輩自身の口から聖女に懇々(こんこん)と語ってやる必要があるのだ」

「それは僕からちゃんと言っておくから」

「太郎丸我儘は……めっ」

「今言ったであろう。吾輩自身の口から戦果を伝えると。これは我儘でもなんでもないぞ」


 太郎丸に激しく抱き着かれたリアムが困り果てて隣のベルトラインに視線を移すも、彼は着ている服の襟を忙しなく正していて、いかにも関わりたくないと言わんばかりだ。

 リアムがほとほと困り果てていると、


「リアム様、ここはわたくしにお任せを」


 どこからともなく現れたメイド筆頭のステファニーが颯爽と太郎丸の前に進み出た。


「太郎丸様」


 声をかけた直後、太郎丸は話を遮るように片足をステファニーへ突き出した。


「ステファニー殿の頼みでも此度ばかりは聞けぬぞ」

「そんなことおっしゃらないでください。わたくしは太郎丸様がいなくては生きてはいけません」


 言って太郎丸の背中にすがりつくステファニー。太郎丸は振り返ることなくステファニーの頬に肉球をぷにぷに当てながら、


「許してくんな。男ってー生き物はな、負けるとわかっていても戦わなくっちゃあいけねえときがあるのよ」

「いやいや! わたくしを置いていかないで!」


(ええと……僕は今なにを見せられているんだろう?)


 突然始まった意味不明な寸劇にリアムは途方に暮れてしまう。ベルトラインは完全に無視を決め込んだようで思いっきり背を向けている。

 ちなみにアリアは、なぜか食い入るように寸劇を見ていた。


「達者でな」

「お待ちになって!」


 立ち去ろうとする太郎丸の前に立ち塞がったステファニーがどこからともなく取り出したもの、それは甘そうなタレがたっぷりとかかった団子だった。


「そ、それは……⁉」

「お気づきになられたようですね。これは星都ペンタリアで幻とも言われているその名も幻団子です」

「そのままかい!」


 思わず突っ込むリアムに真顔を向けるステファニー。そのまま何事もなかったかのように話を続ける様に、リアムはどうしようもなく恥ずかしさを覚えてしまった。


「この幻団子を手に入れるためわたくしは、わたくしはどれほどの……うぅ……」

「……どうやら己に酔うてなにが一番大事なのか忘れるところであった、吾輩」

「では?」

「ああ、一緒に幻団子を食おうではないか」

「太郎丸様!」


 そして──。


「いってらっしゃいませー」

「土産はいらんからなー」


 太郎丸とステファニーに笑顔で手を振られながら、リアムはモヤモヤとした気持ちを抱いて屋敷を後にする。

 アリアはとても満足そうだった。

 

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