episode60 僕にとって彼女は天敵というべき存在です⑤
「その……リタ……本当にありがとう」
言ってたどたどしく顔を上げれば、リタは優しい光を目に湛えて言う。
「今年は十年に一度の御光臨でしょう?。アリアちゃんもタロちゃんもリアムきゅんのそばにいつも居るとは限らないから。リアムきゅんの魔法は防御に特化している分、攻撃手段を持っていない。でもガンナーがあれば十分に補える。──ま、悪魔相手にどこまで通じるかはリアムきゅん次第だけど」
にっこり笑ったリタは、次にアリアへ視線を向けた。
「次はアリアちゃんの剣をチェックしないとね」
「──ん」
アリアから差し出された退魔の剣を様々な角度から眺めたリタは、すぐに持ってきた道具で研ぎ始める。退魔の剣もまたミスティア鉱石で作られたリタ特注の品であり、ものの十分もしないうちにアリアの手に戻された。
「これで切れ味はばっちり元に戻ったから、また悪魔をバシバシぶった斬れるよ」
「ん。リタ、ありが……と」
「もう! リアムきゅんのみならずアリアちゃんもなんて可愛い生き物なの!」
リタは猛然とアリアに抱きついた。必死に逃れようとしたリアムと違って、アリアは一切抵抗の様子を見せない。基本されるがままに頬ずりされている状態だ。
これさえなければ本当に優秀な魔巧技師なのにとリアムは生暖かい目を送るが、気づけば太郎丸も同様の視線をリタに浴びせていた。
「リタよ……吾輩にはなにかないのか?」
リタは頭を掻きながらたははと笑い、
「ごめんねー。タロちゃんは今度会うときまでにはなにか見繕っておくから」
「本当であろうな!」
今度は太郎丸が勢いよくリタに抱きついた。リタは笑いながら太郎丸の頭をわしゃわしゃと撫でて、
「組織No.1の魔巧技師たるリタ・バートレイを信用しなさい!」
「武士に二言はないな!」
「武士ってなに?」
しばらく雑談を交わした後、リタはセプターゼロに目を向けた。
「じゃあ、そろそろあたしは戻るね。これでも結構仕事が溜まっているし」
「忙しい中ありがとうございました」
「全然気にしなくていいよ。だって十年後にはあたしたち結婚するんだから」
そう言って投げキッスを送ってくるリタに、
「十年も経ったらリタさんババアじゃないですか」
リアムが口を尖らせながら頭を擦っていると、リタが思い出したように口を開く。
「そうそう。そういえばさっき地図を見ててふと思ったんだけど──……」
健康的な褐色の脚線美を見せつけるようにしてセプターゼロに跨ったリタは、ゴーグルを身に着けると爆音を響かせながら村を去って行く。
リタが去り際に残した言葉は雷に打たれたかのような衝撃をリアムに与え、もどかしくも広げた地図を見てみれば、まさしくリタが指摘した通りだった。
懐からペンを取り出したリアムはこれまで調査した村を線で結んでいき、最後は地面にペンを落としてしまう。
横から覗き込んでいるアリアに、リアムは慎重に尋ねた。
「アリア、変な感じに薄いのと濃いのがあるって言ってたよね?」
「うん。言っ……た」
「それを薄い順に指差してくれる?」
「わかっ……た」
アリアは記憶を辿るようにゆっくり指を動かしていく。リアムが考えた通り、最悪の順番で。
「なにかわかったのか?」
太郎丸の問いに答えることなく、リアムは天を仰ぐのだった。