episode59 僕にとって彼女は天敵というべき存在です④
「これなんですか?」
「さすがのリアムきゅんでもわからないかー」
勝ち誇ったような顔で銀色の物体を手に取ったリタは、そのままリアムに手渡してくる。見た目ほどではないものの、それでもずっしとした重みを手に感じた。
「この柄の部分を両手で握ってみて」
「……こうですか?」
「そうそう。で、腕はまっすぐ伸ばして長い筒の部分を、そうだなぁ……都合よくあそこに転がっている桶に合わせてみようか」
リタの指示通りに長い筒の部分を桶に向けると、手にしたものの正体がなんとなくわかり始めてきた。
「うんうん。中々様になっている。リアムきゅんカッコイイよ」
「これってもしかして弓のような飛び道具ですか?」
「大正解! さっすがあたしのリアムきゅん。冴えてるー」
リタがパチパチと手を叩く。いつの間にかリアムの隣に並んだアリアと太郎丸が、それぞれ興味津々といった様子でリアムの手元を見つめていた。
(多分これを引けばなにかが飛び出してくるんだな)
ちょうど人差し指がかかる部分にあるものを引いてみる。すると、耳をつんざくような音と同時に、桶が木っ端微塵に吹き飛んだ。
リアムの体は衝撃の反動で大きく後ろにのけ反り、
「……ありがとう」
「どういたしまし……た」
超反応で背後に回ったアリアによってリアムは抱きかかえられた形となり、なんとか転倒することは避けられた。
(それにしてもこれは……)
リアムは手に輝くそれを繁々と眺めた。
「すごい威力でしょう」
「これリタさんが作ったんですか?」
「当然。私以外の誰に作れるっていうのよ。カバンの中に小さな筒状のものがあるでしょう?」
言われて視線を落とせば、確かに筒状の形をしたものが全部で二十収まっている。
「ありますね」
「それが桶を破壊した元になる銀弾で、ガンナーに装填して使うの。あ、ガンナーってのはその武器の名前ね」
ガンナーを再び手にしたリタは左手で柄の部分を握り、右手で長筒の部分を垂直に折り曲げると、円筒状の部分が顕になる。
そこには円に沿うように細長い六つの穴が空いていた。
「この穴の中に銀弾を装填するの。見たらわかる通り一回に入れられる数は六本。つまり六回までなら連続発射が可能。勘のいいリアムきゅんならもう気づいているとは思うけど、ガンナーは蒼気なしには動かない。つまり魔導士にしか扱えない代物なの。しかも、蒼気を強く練れば練れるほど銀弾の威力もそれに比例して増していく。どう? すごいでしょう? そしてこのガンナー最大の特徴はリアムきゅんにしか扱えないってこと。なぜならそのガンナーはリアムきゅんの蒼気とたったさっき共鳴したから」
「僕にしか扱えない武器……」
「そ。今のところリアムきゅんしか扱うことのできない魔晶石を併せて使えば、さらに恐ろしい威力を発揮する。──気に入ってくれたかな?」
リタは小気味よくガンナーを半回転させてリアムの手にガンナーを戻すと、どうだと言わんばかりに仁王立ちする。
普段は鬱陶しいことこの上ないが、彼女なりに自分の身を案じてくれていることが痛いほど伝わってくる。
おそらくというか間違いなくこの武器も神々の遺産のひとつである〝ミスティア鉱石〟を使って作られているのだろう。でなければ蒼気を帯びることなどできはしない。
(そもそもミスティア鉱石は探すのに至難を極める神々の遺産の中でも特級遺物にあたる。いくら組織一番の魔巧技師だからって、右から左へと気軽に使える代物じゃない。多分上の連中とかなりやりあったんだろうな……)
胸に温かいものを感じながら、リアムは深々と頭を下げた。