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episode58 僕にとって彼女は天敵というべき存在です③

「僕の顔に穴でも開けるつもりですか?」

「うん。大いなるあたしの魅力で」

「全然面白くないですね」

「ありゃりゃ」

「で、なんですか?」

「今度の悪魔ってそんなにやばい奴なの?」

「……まだなんとも言えません。なにせ悪魔を確認もしていませんから」

「そうなの⁉──でもその割に随分と用心していない? 戦いに関しては門外漢のあたしが言うのもなんだけどさ。魔晶石が四つってそりゃもうかなりの量だよ。見たところまだ一個は残っているみたいだし。恩を着せるわけじゃないけど、魔晶石を精製するにはそれなりに苦労するの。当然リアムきゅんも知っているよね?」


 リタがなにを言いたいのかはよくわかる。蒼気を触媒にして魔法の効力を底上げする魔晶石は、リアムが知るところではリタにしか精製できない。求めたからといって右から左に簡単に持ってこられるような代物じゃないことは確かだ。

 それでも余分に確保しておきたい理由はただひとつ。


「アリアが妙に警戒しているんですよ」

「アリアちゃんが?」


 アリアに視線を向けたリタは、続けて太郎丸を見る。


「タロちゃんもそうなの?」

「吾輩は何も感じない」

「ふーん。意見が分かれているってわけか……」


 貴重な魔晶石を運んできてくれたリタにはそれなりに説明の義務がある。

 リアムは地図を片手に今までの状況をリタに語って聞かせることにした。


「──なるほどねぇ。聖女様の依頼を受けているのは風の噂で知っていたけど、そんなことになっているんだ。村に全然人がいないからおかしいなとは思っていたけど、それならリアムきゅんが用心するのもわかる話だよ。アリアちゃんの第六感っていうか感知能力はさ、ほかのデモンズイーターに比べても抜けているもんねー。タロちゃんもそれを知ってるから強く反対もできないのか」


 そう言いながらまじまじとアリアを見つめるリタへ、微かな微笑みをもって返すアリア。それはリタにも伝わったようで、鼻息を荒くしながらリアムの肩を揺さぶり始めた。


「突然なんですか?」

「レア! レアもレア! 極大のレアだよっ‼ アリアちゃんの笑顔がこの目で見られる日が来るなんて!」

「そんなに騒ぎ立てるほどのものですか?」

「アリアの笑顔などそれほど珍しくもないぞ」


 リアムと太郎丸が口を揃えてそう言えば、リタの肩を揺さぶる動きが激しさを増していく、


「いつもアリアちゃんと一緒にいるリアムきゅんやタロちゃんにはわからないだけだよ! これがどれだけ凄いことなのか!」


 リアムは興奮するリタを宥めつつ、右のカバンに目を向けた。


「ところで右のカバンには何が入っているんですか?」


 リアムの肩からパッと手を放したリタは、


「ふふーん。気になる?」

「……いえ、別に」

「もう、本当に素直じゃないんだから」

「で、何を持ってきたんですか?」

「クククッ。では大いに刮目(かつもく)して見るがいい!」

「…………」

「……早く開けなさいよ!」

「え? 今の会話の流れだと開けるのはリタかなって……」

「いいから開けて見て!」

「はぁ……じゃあ開けますよ」


 どこかモヤモヤとしながらも言われるがままリアムがカバンを開けてみると、銀色に輝く物体が目に飛び込んでくる。精緻な彫り物が随所に施された見事な品なのは一目でわかる。が、利用用途まではわからなかった。

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