episode57 僕にとって彼女は天敵というべき存在です②
「だ・か・らっ! それじゃなくてセプターゼロ! この子のおかげで予定より早く到着できたんだから少しは感謝してよね」
そこまで主張する割には随分と雑な扱いをすると思いながらもそれはそれ。わざわざ出向いてくれたリタに対し、素直な気持ちでお礼の言葉を口にする。
リタは仁王立ち姿で何度も頷き、
「よろしい! まぁリアムきゅんたっての頼みだからすぐに駆けつけたんだけどね。それにしてもリアムきゅんの使い魔を久しぶりに見たけど、相変わらず美しくって惚れ惚れしちゃったよ。やっぱり顔が綺麗だと魔法式も美しくなるものなの?」
「なにわけのわからないことを言っているんですか。それよりも頼んだものは持ってきてくれました?」
「もちろん持ってきたよ。──あ、アリアちゃんヤッホー!」
「ヤッ、ホ」
リアムの頭越しに大きく手を振るリタへ、アリアは胸のあたりで小さく手を振って応えた。
「うんうん。アリアちゃんも相変わらずこっちが引くくらいに美しくて可愛いねぇ。そこまで突き抜けていると嫉妬する気も起きないよ」
「そんなことよりもリタ、よもや吾輩を忘れているわけではあるまいな?」
前に進み出た太郎丸がリタをじろりと睨む。
「あはは。タロちゃんみたいな濃いキャラを忘れるわけないじゃない」
リアムにしたように太郎丸に勢いよく抱きついたリタは、毛をわしゃわしゃと撫でながらうっとりした表情を覗かせる。
「このモフモフが最高なんだよねー」
「吾輩をぬいぐるみのように扱うのはやめんか」
口ではそう言いながらも尻尾はブンブンと左右に振られている。側から見れば執拗と思えるほどに太郎丸を撫で尽くしたリタは、
「えぇ……と。ところで何の話をしていたんだっけ?」
「頼んだ品を持ってきてくれたかという話です」
「そうだったそうだった」
呆れるリアムに向かって、たははと笑うリタ。かなり重そうなゼロなんちゃらをあっさり引き起こすと、両脇に括り付けられている頑丈そうな箱型のカバンを取り外しにかかる。
その様子にリアムは嫌な予感が走った。
「まさかとは思いますけど中身、破損していないですよね?」
リタは嘆かわしいとばかりに首を振った。
「リアムきゅん、一体誰にものを言ってるの? リアムきゅんが使っているあたし特製のカバン、中身が一度でも壊れたことあるかな?」
「記憶にある限りないですがそもそも粗雑に扱ったりもしないので」
「カバンなんて粗雑に扱ってなんぼでしょう。悪魔が踏みつけたって平気な代物だよ。これは」
二つのカバンを地面に並べたリタは「ジャジャーン!」と妙な擬音を発しながら、左のカバンをこれ見よがしに開けて見せた。中を覗き込むと、注文通り青色に輝く魔晶石が等間隔に四つ収められている。
破損らしきものは見当たらず、リアムはホッと息を吐いた。
「どう? これで疑り深いリアムきゅんも安心してくれたかな?」
「ええ。これでもうリタさんに用はありません」
「それって酷くない⁉」
「冗談ですよ。冗談」
言ってリアムはニヤリと笑う。
リタは顔を強張らせた。
「全く冗談に聞こえないんだけど……」
半分は本当だと心の中で呟きながら早速自分のカバンに魔晶石を移し替えていくリアムの顔を、リタがジーッと見つめてきた。