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episode54 違和感③

「……リアムは優し……い」


 そう言うアリアの顔からは小さな花が咲いていた。


「体調管理も僕の仕事のうちの一つ。だから別に優しいわけじゃない。そんなことより日が完全に落ちる前に今日の宿を探してきな」 

「うん、じゃあ探してくる。──太郎丸行く……よ」

「フカフカのベッドがあるところを中心に探すぞ」


 白金の髪を左右に揺らしながらスキップで去るアリアとその後に続く太郎丸を尻目に、リアムはカバンを地面に置き、中身を確認するため留め具をパチリと外す。

 整然としたカバンの中央には緩衝材に包まれた青色の光を放つ魔晶石が二つ並べられている。そのうちのひとつはすでに小さな亀裂が入っていた。

 リアムは亀裂が入った魔晶石をそっと手に取る。


(あと一回が限界と言ったところだな。そうなると残りはひとつ。アリアの様子から考えれば少し心許ないな……)


 にししと笑う女の顔を頭に浮かべたリアムは、思わず深い溜息を落としてしまった。


(外にいるときまで会いたくはないけど……背に腹は変えられないか)


 リアムは道端に落ちていた木の枝を使って地面に魔法式を書き込んでいく。


「──これでよし、と。あとは……」


 魔法式を記した地面の上に左手を置き、魔力を少量注ぎ込む。間もなく魔法式が白色に明滅し始めると、一条の光が空に向かって伸び、白い光に包まれた鳥が具現化された。鳥は光の軌跡を描きながら空を大きく旋回した後、リアムが伸ばした左腕に舞い降りる。

 リアムが主に組織と連絡を取るために使役する〝白葉の鴉(しらばのからす)〟だ。


「頼んだよ」


 メモを足首に括り付けた白葉の鴉は颯爽と大空に羽ばたいていく。順調に繋ぎがつけば五日後くらいには彼女と接触できるだろう。

 北西に飛んでいく白葉の鴉を見送っていると、アリアが顔を綻ばせながら戻ってくる。その後ろに続く太郎丸はあからさまに不機嫌な顔をしていた。


「今日お泊りする家見つけた。とっても可愛い……の」

「吾輩はそんなもの望んでおらんと言うとるのに頑として聞き入れんのだ……」


 様子を見る限り太郎丸の要求は叶わなかったのだろう。どうせ寝るなら柔らかいベッドが好ましだけに、リアムも太郎丸と気持ちは同じだった。


「別に寝れればいいだけで家に可愛さを求めていないんだけど……」

「こっちこっち」


 聞く耳を一切持たないアリアに手を引っ張られながらやがて嬉々と指を向けた先には、ヴェラ・シヴィル大陸の西部ではあまり見ることがない瓦葺屋根の家だった。


「これが可愛いの?」


 聞けばブンブンと首を縦に振るアリア。


(どちらかといえば渋いって感じだけど……)


 相変わらずよくわからない美的感覚をしているなと思いながらも、アリアが気に入ったのならリアムがあえて否を唱えることもない。


「中はもっと可愛いか……ら」


 早く入ろうとばかりに腕をぐいぐい引っ張られ、リアムは足をもたつかせながらアリアに従うのだった。 

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