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episode49 調査開始②

「まぁリアムは<(なぎ)の塔>の出だからな」


 太郎丸の言葉にフェリスは驚愕した。


「魔導士の中でもエリート中のエリートだけが門をくぐることを許されるというあの凪の塔か⁉」


 魔法の深淵に達したという古の大魔法士レイニー・アルカードが魔法によって作り出したという凪の塔を知らない者はいない。英雄譚には必ずと言っていいほど凪の塔出身の魔導士が登場するくらいだ。


(まだ少年だというのに……)


 凪の塔の出身というだけでリアムの少年らしからぬ態度も腑に落ちる。どこのギルドでも喉から手が出るほど欲しがる逸材なのは想像に難くない。

 だが、リアムは得意顔を見せるどころか、不機嫌を顔に張り付かせて太郎丸を睨みつけた。


「太郎丸、余計なことを言わないで」

「減るものでもあるまいし別にいいではないか」

「太郎丸……めっ!」

「すまない。どうやら余計なことを言ったらしい」

「いえ……」


 人は誰でも触れてほしくないことがある。リアムにとってのそれが凪の塔であることはもはや疑いようがなく、興味は尽きないが命の恩人を困らせるつもりもない。

 話を変えるべくフェリスは咳払いし、改めて礼を述べることにした。

 

「リアム君、アリア君、太郎丸君、命を救ってくれたこと心から感謝する。今はこんな有様でままらないけど、必ず恩は返させてもらう」

「ギルド長に今回の件をしっかり報告してくれればそれでいいですよ」

「もちろん今回悪魔たちが見せた異常行動と君たちの偉業は必ず伝える」


 群体で襲ってくる悪魔など誰も遭遇したことがないはず。にわかには信じられないだろうが、レイチェルとオースティンが死んだことと合わせて自分の状態を見れば、ギルド長もさすがに信じざるを得ないだろう。


「偉業云々は別にしても警戒は促すべきだと思います。もしかするとこれは始まりかもしれません」

「つまり今後もこのような事態は起こり得ると?」


 厳しい表情で頷くリアムを見て、フェリスはゴクリと唾を飲み込んだ。あの悪夢が再び繰り返されるなど考えただけで怖気が走るというもの。

 リアムの言葉を全力で否定したいところだが、それが愚かであることもフェリスは十分理解していた。


「わかった。ギルド長には警戒を促しておこう。それと神聖騎士団にも連絡していく。もっとも神聖騎士団の大半は今出払っているらしいからあまりあてにはならんが」

「その大半の神聖騎士団がどこへ向かったのかフェリスさんはなにか聞いていますか?」


 フェリスは小さく首を横に振った。


「神聖騎士団どこに向かったかは知らない。元々ギルドとは繋がりもないし、そもそも奴らは秘密主義的なところがあるからな」


 肩を竦めてそう言えば、リアムは「そうですね」と意味深長な笑みを落とした。


「奴らになにか用事でもあるのか?」

「いえ……では我々は本来の任務に向かおうと思います」

「ああ。俺のことは気にしないでくれ。これ以上君たちの足を引っ張りたくはないからな」

「──では」


 去っていくリアムたちを見送った後、ゆっくり立ち上がったフェリスの視線は、自然とかつての仲間の無残な亡骸に移っていく。


「俺だけ生き残ったことを恨まないでくれよ。正直俺もこれからどうしたらいいか途方に暮れているんだ。金をかけて墓を建ててやるからそれで勘弁してくれ」


 謝罪の言葉はそよ風と共に彼方へ去っていく。返ってくる言葉はあるはずもなく、木々のざわめきだけがフェリスの耳元にいつまでも残っていた。 

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