episode48 調査開始①
「この霊核は……──送って分析……──」
「微かに耳に届く声に気づいてフェリスがゆっくり目を開けると、リアムが地面に置かれた銀色のカバンになにかを詰めながらアリアと会話を交わしている姿を目にする。
「リアム、フェリス殿の目が覚めたみたいだぞ」
太郎丸が尻尾をたおやかに揺らしながら言えば、カバンをピシャリと閉じたリアムが小さな笑みと共に近づいてきた。
「目が覚めたようですね」
「俺は気絶していたのか……」
フェリスは今になって自分の体が木の幹に預けられていたことに気づき、同時に悪魔たちのことを思い出した。
「そういえば奴らは! あの悪魔たちはどうなった!」
「もちろん全て殲滅しましたよ」
「そ、そうか。全て倒したのか……」
死ぬのが確定していた状況で生き延びたことが、殺されてしまったレイチェルとオースティンには申し訳ないと思いつつも、フェリスの心は安堵感で満たされていく。それと並行して体の至るところから痛みが生じてきた。
「──っ」
「今はあまり体を動かさないほうがいいでしょう。とりあえず応急処置は施しておきましたが、星都に戻ったらしっかりと治療を受けることをお勧めします」
「世話ばかりかけて申し訳ない」
言いながらズキズキとうずく額に手を当てがえば、柔らかい布の感触が伝わってきた。
「今さらだが処置はリアム君が?」
「専門ではないので我流の域を出ませんが」
そう言われ、フェリスは改めて全身に目を配った、体を覆っていたボロボロの鎧は傍らに転がっていて、代わりに包帯が綺麗に撒かれていた。鼻にツンとくる匂いはなにかしらの薬を塗布したためだろう。
我流とリアムは口にするが、少なくとも見た目には治療師となんら変わらない処置であるように思えた。
「何から何まで本当にすまない」
「気にすることはありません。死なれるとこちらとしても都合が悪いので処置したに過ぎませんから」
「わかっている。それでもありがとう。──そういえばリアム君もレイチェルと同じ魔導士だったんだな……」
絶体絶命だったあの時、彼の手から放たれた黄金の鎖が緑色の悪魔を拘束したのをフェリスは見ていた。
(あのときは余裕がなくて触れることができなかったがこれほど若い魔導士を俺は知らない)
悪魔と渡り合えるような魔導士に成長するにはどんなに適性が高かろうが15年は必要だと聞いたことがある。フェリスから見たリアムの年齢は高く見積もっても精々12歳くらいがいいところなのだ。
そんなリアムはといえば、頬を掻きながら言う。
「別に隠していたわけではありませんよ。それに魔導士と言っても戦闘向きではありませんので」
「一応断っておくが黙っていたことを責めているわけではないからな。──しかしその若さで魔導士とは色々と驚かされることばかりだ」
しかもフェリスの考えが正しければ、リアムはレイチェルよりも優れた魔導士である。一瞬にして悪魔を拘束せしめた黄金に輝く鎖はそれだけの魔法であった。