episode29 南の聖女③
(なるほど。単なる〝お飾り〟というわけでもなさそうだ)
リアムが腹の中で呟いていると、慌てて剣から手を放したイズモがサリアーナに向かって深く頭を下げて謝罪した。
「出過ぎたことを申しました」
「謝罪すべき相手が違います」
顔を上げたイズモは拳を震わせながらリアムに体を向け、
「……謝罪する」
「謝罪を受け入れます」
「イズモ、あなたの忠誠心はなによりも尊いものですが、それも過ぎればわたくしを辱めることを知ってください」
「はっ。深く肝に銘じておきます」
サリアーナは口調を柔らかいものへと戻し、
「リアム様、改めて部下の非礼を心より謝罪いたします」
「とくに気にしていませんのでお気になさらずに」
「リアム様の広いお心に感謝を」
言ってサリアーナは話を再開した。
「リアム様、わたくしは曲がりなりにも聖女と呼ばれる身です。少なくとも村人たちに無体なことをしたつもりはありません」
為政者の言葉をそのまま鵜呑みにするほどリアムは世情に疎くはない。都合が悪くなれば責任を弱者に転嫁するのは為政者の常套手段であることをよく知っている。サリアーナだけが例外ということもないだろう。
だが、星都ペンタリアで暮らす人々には明るさがあったのをリアムは直に見ている。故にサリアーナの話は真に足り得ると判断した。
「大変失礼いたしました。では村人失踪の件に関してもあくまで悪魔が──これはダジャレではありませんが、関与していると聖女様は考えているのですね?」
「おっしゃる通りです」
「ではその根拠をお伺いしてもよろしいですか?」
「勘です」
サリアーナは一切の躊躇なく即答した。なんだ勘かとリアムは笑って切り捨てることができない。なぜならサリアーナの言う勘はただの勘ではなく、予知のようなものであることをリアムは組織から得た情報で知っているからだ。
所謂異能の類であり、それがサリアーナを聖女足らしめていることも。
「聖女様、もうひとつ尋ねてもよろしいですか?」
「はい、なんなりと」
リアムは今も鋭い眼光を向けてくるイズモを横目に、今回なぜ神聖騎士団を動かさずデモンズイーターに依頼するのかを尋ねた。依頼を受けたときからずっと胸中に引っかかっていたことだ。
「今星都ペンタリアにいる神聖騎士団のほとんどは出払っております。かといって問題をこれ以上放置しておくわけにもいきません。それが今回リアム様に依頼した理由です」
村人の失踪が始まったのが一ヶ月前なら、それ以前にまとまった数の神聖騎士団が動いていることの証明となり、強力な悪魔が出現したことを暗に示唆している。
(であれば組織もなんらかの情報を掴んでいていいはずだけど、その点に関してはなにも触れていなかった。組織が珍しく把握していないのか、それともあえて僕たちに教えていないのか……)
なんにせよ組織の命令で動いている以上は、依頼を断る選択肢もなかった。