episode13 野盗とデモンズイーターと②
「白昼堂々お盛んなことで」
リアムは女を囲む野盗たちに向かって朗々と告げた。髪を掴まれている女はリアムの顔を見て一瞬安堵したような表情を浮かべるも、すぐに逃げてと叫んでいた。
(自分が命の危険に晒されているのに、どうやらかなりのお人好しなようです)
苦笑するリアムの下に、肩を怒らせながら二人の男が近づいてくる。それを見たアリアはリアムに張り付く勢いで隣に並び、太郎丸は気怠そうに前足で首を掻いていた。
「おうおうおう! ガキのくせに随分と舐めた口を利くじゃねえか! 俺たちに何か用なのか?」
「まだ女が欲しい年齢でもあるめぇ。俺たちは今最高に気分がいい。見逃してやるからガキはガキらしく家に帰ってかあちゃんのおっぱいでも飲んでな」
「そうそう。女の味を知るにはちと早すぎるからな」
ゲヒャヒャと下卑た笑いを響かせる男たちに、リアムは大きな溜息を落とす。これなら余計なことを口にしない分、悪魔のほうがはるかにましだと言える。
リアムはツイと鼻をつまんで言った。
「口が臭いです。それ以上はしゃべらないほうがいいですね」
「──その妙な自信の源は隣にいる陰気臭いマント野郎のせいか? それともけったいな面をつけて欠伸をしているそこの犬っころか?」
「だとしたらどうします?」
「クククッ……そりゃ残念だったな。どうやら正義の味方を気取りたかったらしいが相手が悪い。俺たちはかつて数多の戦場で名を馳せた傭兵だ。これがどういう意味か、しょんべんくせえガキでもさすがにわかるよな?」
「いえ、全くこれっぽっちもわかりませんね」
リアムは満面の笑みを浮かべ、大げさに両手を広げて見せた。
「そうか。そんなに早死にしたいなら望みを叶えてやる」
殺意を瞳に宿した隻眼の男は、これ見よがしに抜いた剣をリアムの頭上目がけて振り下ろす。その様子をリアムは冷静な目で眺めていた。
「なッ……⁉」
予想の範疇を超えることはなく、振り下ろされた剣はリアムの頭を割ることはなかった。いともたやすく剣の切っ先を二本の指で挟み込んだアリアは「どうする? 殺……す?」と尋ねてくる。
「とりあえずは殺さない程度に。人間だから力の加減を間違えちゃ駄目だよ」
「うん、わかっ……た」
返事と同時にパキンと硬質な音が響き渡った。
「はあああああ⁉」
アリアは折れた剣を見て素っ頓狂な声を上げる隻眼男の額へ指を弾くと、隻眼男の頭は吹き飛びそうな勢いで後ろに傾いた。白目を剥いた隻眼の男は、地面に背中を叩きつける勢いで仰向けに倒れる。
「へ……?」
続けてアリアは唖然としている禿げ男の右腕を素早く後ろにねじり上げると、禿げ男の背中に自身の両膝を乗せて体重をかけながら、さらに頭部を掴んだ状態で地面に叩きつける。
禿げ男はうつ伏せ状態のまま体を痙攣させていた。
(残るは……)
リアムは一人残された大男へ視線を向けた。大男は仲間が倒されたことで明らかに動揺していた。アリアが大男の下へ歩み始めると動揺は激しさを増したようで、荒々しく剣を抜き放つとアリアに向けて突進を始めた。
「うおおおおおおおおっっ!!」
己を奮い立たせるような叫び声を上げて突き出された剣を半身で回避しながら大男の背中に回ったアリアが素早く両手首を取ると、次に背中を右足で蹴りつけながら交差させるように腕を曲げていく。
「わ、悪かったッ! 俺たちが悪かったからやめてくれッ! それ以上やられたら腕が折れちまうッ!」
「命令に変更はな……い」
人間がどんなに肉体の鍛錬に励もうが、関節まで鍛えることは不可能。ありえない角度に曲げられていく丸太のような大男の腕は、すぐに鈍く低い音を奏でて圧し折れた。
「はぎゃああああああっ! 腕が! 俺の腕がああああああっ!」
「うるさ……い」
顔を顰めるアリアが絶叫を上げる大男の腹をえぐるように拳を突き上げれば、大男はアリアにもたれかかるような態勢でズルズルと崩れ落ちる。
その際マントが脱げ落ちてアリアの姿があらわとなった。
「女⁉ そ、それにその鎧の紋章……は……」
その言葉を最後に男は気絶する。
彼女が身に着けている白銀色の鎧には、デモンズイーターであることを示す紋章──炎の翼を広げる漆黒のユニコーンが燦然と輝いていた。