八十五話
「あっ、先生」
「どうしたクライシスくん」
「言葉を武器にする戦い方って知りませんか?」
「……………?どういうことだ?罵倒ということではないよな?」
「はい。罵倒ではないです。言葉を武器にして相手を操ったり誘導させて隙を作らせたり焦らせて集中を妨害させたりとか」
「ないことはないが……」
教師の言葉に目を輝かせるクライシス。
やはり聞いて正解だったと自画自賛する。
「そういうのは相手を詳しく知る必要があるぞ。うちの学園でも使う奴はたまにいたが全員が相手のことを調べ上げて突いていたし」
「そうなんですか?」
「相手を調べる方法ならともかく誰にでも効く言葉での攻撃はなかったはずだ」
「………そうですか」
教師の言葉を聞いて残念そうな表情を浮かべるクライシス。
そんな上手い話はないと思っていたが、それでも実際にないとわかると残念な気持ちになる。
「調べる方法ぐらいなら教えるか?」
「…………今はいいです」
使うとしたら、どうしても勝ちたい格上の相手にだ。
だが今のところ、そんな相手はいない。
調べて相手が気にしていることを口にすることぐらいなら簡単にできると考えてもいた。
「ところで言葉で攻撃した者たちって相手が格上だったりしますか?」
「………いや。格上相手にも格下相手にも使っているやつはいたな。正直格下相手に使うのはなぶっているようにしか見えないから見ていて不快だった。お前も使うなよ」
「わかりました」
格上相手だったら勝つために使うのもアリだと思うが格下相手に使ってもつまらないだろうなとクライシスは考えている。
むしろ格下相手に使う者の気持ちのほうがはるかに理解できなかった。
「まぁ、クライシスくんなら大丈夫か」
「そうですか?」
「あぁ。だって格下相手に使う気持ちなんて理解できないだろ?」
なんでわかったんだと目を見開くクライシス。
その反応に教師は分かりやすすぎると苦笑する。
「なんでわかるんですか?」
「これでも先生だからな。何人も生徒を見てきたからわかる」
「なるほど」
普通の生徒なら、それだけで納得なんてしない。
これだけでも中身が素直な生徒だとわかってしまう。
「そういえばバーベキューがブームになったらしいけど何か案件でも来たか?」
「?あぁ!何も聞いてないです」
「そうなのか?」
「ブームが来ているんと聞いているけど、まだそんなに日にちが経っていないですし。来るとしても違う人たちか、それともまだ来ていないだけだと思いますよ」
「なるほどな」
まだ来ていないだけかもしれないと聞いて納得する教師。
それに学生でもあるのだから遠慮しているかもしれないと考えることもできる。
「俺も配信を見て楽しんでいるが。頑張れよ」
「はい」
教師の激励に返事をし去るクライシス。
次の配信は戦いについてやってくれないかと見送りながら期待していた。
「はぁ………」
クライシスは教師から離れたあとに一人ため息を吐く。
期待していた情報を得られなかったこともそうだが、バーベキューの案件が来るかもしれないことに関してだった。
教師にも他の者に来る可能性はあるが自分にも来る可能性は十分にある。
それが少し面倒だった。
「案件が来ると、それに添った行動しないといけないし。戦うこともできないから嫌なんだよなぁ」
クライシスとしては案件をこなすよりはダンジョンに挑むなり誰かと戦ったりしたほうがはるかに価値があった。
なにせ、そのほうが強くなれるのだから。
案件もできれば強くなれる、もしくは戦いに関係するものが来れば良いと思うが、それも難しいだろうなとは考えてもいた。
「クライシスくん!」
「……」
声をした方を振り向くとシクレがいた。
そのまま近づいてきて隣を歩いてくる。
「そういえば話を聞きましたか?」
「?なんの話でしょうか?」
「前の配信のおかげでバーベキュー用品の売上が倍増したので最新のバーベキュー用品が事務所に贈られたみたいですよ?」
「そうなんですか?」
「はい。それに案件も来たみたいで希望者の誰かで受けることができるみたいです」
「ふぅん」
どうでも良さそうに答えるクライシスに興味がないのだと察するシクレ。
本当なら一緒に案件を受けようと思ったが興味が無いのなら諦める。
その代わりに何か別のことでコラボできないかと確かめる。
「また今度コラボしませんか?」
「………俺は別に構いませんけど」
「ならコラボしましょう!」
クライシスが微妙な表情を浮かべていたが何も言わないのならと強引に話を進める。
本当に嫌なら断ればよいし、それをしないのなら文句はないだろうとシクレは決めていく。
「一応言っておきますけどバーベキューはしたくないですからね」
「わかっています。流石に何度もしていますから私も少し飽きたというか疲れたというか」
「なら次は何をしましょうか?」
「何でも良いですよ?同じような内容の配信でも問題はありませんし」
「そうなんですか?」
「はい。私なんて推理小説、ファンタジー小説、参考書、自伝本、また推理小説と繰り返しても何も言われませんでしたし」
「なるほど……」
それがありなら色々とやれることはある。
それはそれとして何をしようかとクライシスは考え始めた。
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