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理想が理想であるために

   * リット=ホーネット *




「——第1王子派の中での争いですもの。派閥の中でも優勝劣敗があるようで、彼らは第1王子殿下の歓心を買おうと必死なのです」


 フランシスと黄槍クラス上級生とのやりとりを聞いたリエリィは、そう言った。

 3人は黄槍寮から離れた、より人気のないベンチで話していた。


「なるほどね……リットがマテューを説得できればフランシスが止まるというのは、確かに妙案かもしれない」


 リットの行動に理解を寄せたオリザだったが、


「だけどそいつはダメだよ、リット。自分を傷つけてでも他人を救えばいいという考えは間違ってる。あとでソーマがそれを知ったらどう思う? 泣いて感謝すると思うか?」

「——じゃあ、どうしたらよかったんだよ……。ボクは貴族の恐ろしさをよく知ってる。だから彼らが本気だってこともわかるんだ!」

「簡単なことですもの」

「え……?」


 聞き間違いかと思った。

 淡々と、なんでもないというふうにリエリィが答えたのだから。


「ソーマさんならこう言いますもの——みんなで乗り越えよう、と」

「————」


 リットは耳を疑った。「吹雪の剣姫」とまで呼ばれ、他者にも自己にも厳しいという彼女が「みんなで」などと言ったのか? グランブルク家ともなれば王国全土にその名が轟く武闘派の名門のはずで、貴族の恐ろしさだってよくわかっているはずなのに「みんなで乗り越え」られると本気で信じているのか?

 いや、なにより——リットよりもソーマのことを知っているようなその言い方に、なぜだか、胸がざわざわした。


「リット。これはリエルスローズ嬢の言うとおりだとアタシも思う。アンタひとりがリスクを背負うだなんてのは論外だ……アタシはね、統一テストの後の、トッチョの決闘騒ぎのときに骨身に染みて思ったんだ。アタシたちはソーマただひとりに背負わせすぎたんだ、って。だからアンタがたったひとりで重荷を背負うというなら絶対に止める」

「……オリザ嬢」

「ありがとうな。全部話してくれて」


 ニッ、と笑う彼女はそんじょそこらの男子よりもずっと男前だとリットは思った。


「……でも、ボクのことは、ソーマには隠したいんだ」

「わかってるよ。それくらい、緋剣のアンタならなんとでもできるんだろ?」

「はい。任せてください」

「リエルスローズ嬢、ボクは……あなたになにかを返すことはできません」

「いーんだよ、そんなこと。なっ?」

「はい」

「でも……」

「でもでも言うな。ハハッ、貸し借りが気になるのはやっぱり商会の人間なんだな? そうだ、いいこと思いついたぜ」


 パチン、と指を鳴らしたオリザはこう言った。


「アタシたち3人は、女だけの同盟を結ぶんだ。困ったことがあったら相談し、けして裏切らない」

「同盟……」


 それは理想だ。厳しすぎる現実から逃れるための空虚な理想だ——だけれど、もしも実現できるのなら。


「わかりましたもの」

「——誰だよこの人を『吹雪の剣姫』とか言ったのは。だいぶノリがいいじゃないか」


 どれほど、孤独だった自分の心が安まるだろう?


「ほんとうに、いいの……ふたりとも」

「いいと言ったらいいんだ。男爵家のアタシが言ってんだから、侯爵家のアンタがびびってどうすんだ」

()侯爵家だけど……」

「ほら、手出しな」


 オリザが右手を出したので、その上にそっとリットが手を重ねる。さらにその上にリエリィの白い手が重ねられた。


「アタシたち3人はここで女子としての同盟を結ぶ。無条件で相談に乗る。けして裏切らない」

「……そしてこの同盟は3人の心に秘されるものとしますもの」

「おっ、いいね。3人だけの秘密というわけだ——リット、アンタからは?」

「…………」


 リットは首を横に振った。


「ただ……あ、ありがとう、って……ふたりに、感謝を……」


 オリザとリエリィに挟まれた手が温かくて、瞳から熱いものがこぼれ落ちていた。今、口を開いたらきっと声が震えてしまって言葉にならないだろう。

 泣いているリットを茶化すでもなく、簡単に慰めるでもなく、なにも言わずにオリザはうなずくだけだった。


「じゃ、これで同盟は締結されたわけだ——リエルスローズ嬢」

「はい」

「それで……アタシたちはどうしたらいい? こういうの、アンタが得意だろう?」

「得意かどうかはわかりませんが……アイディアはありますもの」


 そしてリエリィは、この状況を打開するための方法を口にした。




   * ソーンマルクス=レック *




「俺たちを、黄槍クラスのフランシスが狙ってる……!?」


 夕食の時間も終わりそうという時間になって、ようやく戻ってきたリットは憑き物が落ちたようなさっぱりした顔をしていた。

 そんなリットだったけれども、ロビーで食後のお茶をしながらオリザちゃんとともに俺に話してくれた内容はなかなか衝撃的だった。

 黄槍クラス上級生の圧力を受けたフランシスが、黒鋼クラスを叩きつぶそうと動いている——最近、嫌がらせがなくなっていてホッとしていたのに。


「それでアタシたちは考えたんだけど、この黒鋼寮に手を加えよう。いちばん危ないのはアタシたちが眠っているときだろ? その間は警備員のジイさんたちにがんばってもらうしかないんだけど、ジイさんたちの手だって限られてる」

「ふむふむ」

「だから黒鋼寮の外周に手を加えて、警備しやすいようにすればいいんだってさ」

「……だってさ(・・・・)?」

「あ、いや! そ、そうアタシは考えたんだ」


 かなり具体性をもった提案で、オリザちゃんってそういう細かいところまで考えられる子だったっけ? と思ったんだけど、ははーん、これは誰かの入れ知恵だな?

 ぴー、ぷー、と下手くそな口笛を吹いてそっぽを向いているオリザちゃんがポンコツ可愛い。横ではリットが額に手を当ててうつむいているけどな。

 ピーンと来たぞ。この入れ知恵、昼に王都で会ってたお兄さんのアイディアだな! これは当たりですわ。我ながら推理力が冴える。黙っててあげよう。


「オリザちゃんのそれ、いいアイディアだと思う。やってみよう」

「そ、そうだろ!? それじゃ早速明日からやろうぜ」


 オリザちゃんがあからさまにホッとしたように言うと、「みんな協力してくれるかな」「してくれるよ、きっと」とリットと話している。

 ほうほう、なるほどねぇ……。


「リット」

「な、なに、ソーマ」

「……よかったな、オリザちゃんと仲良く(・・・)なれて」


 びっくりしたようにリットは目を見開いてから、オリザちゃんと視線を交わし、柔らかな笑顔を見せた。

 またもやピーンと来ましたぞ。

 これはアレですわ。ふたりはデキてしまいましたわ。

 しかし、余計なことは言うまい。リットが打ち明けたいと思ったタイミングでその話を聞こうではないか。

 ああ、なんて紳士な俺!

リットに心強い仲間ができました。


そしてまたレビューをいただきました! 鶴見ゆうひさん、ありがとうございます。

「異世界ガチャでチート生活 ~最強職とスキル無双を添えて~」という作品を書かれていて、物語的にはここからどんどん展開させるというところでしょうか? 私思うのですが、直球で俺TUEEの作品って最近少ないですよね。読みたい人も多いんじゃないかと(私です)。

書き手の方のレビューが増えてきていてうれしい限り。ともにがんばりましょう。

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「学園騎士のレベルアップ!」を多くの人に読んでもらいたいので!

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