俺のスキルたちを紹介しようッ
勉強会をしよう、だって?
ちらりと横を見るとリットがゆっくりと首を横に振っている。
反対を見るとオリザちゃんもゆっくりと首を横に振っている。
なるほど。断れってことね。空気を読める俺、ピーンと来たぜ。
「いや、俺そんなに勉強好きじゃないし」
え? なんでリットが頭抱えてんの?
「あ、あはは……そうですか。では私に勉強を教えていただけませんか?」
「えーっ!? いやいや、キールくんだって2位だろ? じゃあ俺に教わらなくともすぐに追い抜くよ」
だって俺、高校2年から文系だし。この上の数学はどんどん厳しくなるよ。
「もし教えてくれるのでしたら勉強会のときにフィレステーキをつけます」
「やりましょう勉強会!」
俺、即答。
フィレには勝てない。
なぜなら育ち盛りのこの身体に、動物性タンパク質は必要不可欠だからだ! 野獣? テメーは食い飽きた。
横でオリザちゃんとリットが仲良くテーブルに突っ伏してるけど、お前らいつの間にそんなに通じ合えるようになったの? 置いてきぼりになってる俺とスヴェンの立場は? スヴェンなんてすでに違うテーブルにいる生徒の剣をじろじろ見てるからな。剣以外に興味持てよ。会話に参加しろや。
「それはよかった。では、またご連絡しますね」
「あ……うん、わかった」
「なにか他にありますか?」
「いやいいんだ、うん」
「そうですか? ではこれで」
キールくんは相変わらずの天使の微笑を浮かべて取り巻きくんたちを連れて去っていった——と思うと、ぴたりと足を止めてこちらを見る。
「ソーマくん」
「ん? まだなにかある?」
「いえ……その、
そう言い残して今度は振り返らず去っていった。
ん? 折れる? なんのことだ?
「——ぶはーっ!」
すると横でリットががばりと起き上がって大きく息を吐いた。
「ん、どうしたんだよリット。……ははーん、お前キールくんにときめいたな? ダメだぞ、彼はああ見えてちゃんとした男の子なんだからな」
「んなことわかってるっつーの! お前、お前はっ! ほんと……もう!」
「……止めときな、リット=ホーネット。このバカにはなに言っても始まらねえよ」
「うん、まあ、そうなんだけど……」
「アタシたちにできることは、嵐がこっちに来ないよう逃げ回るだけだ」
「だよね。ボクもそうする」
おやおやおや~? どうしてリットとオリザちゃんは急速に仲が良くなっているんですかねえ?
確実に俺のおかげである。
ふたりの結婚式には仲人として呼ばれる可能性。
やだなぁ、俺、スピーチとか苦手なんだけどぉ?
「……一応言っておくけどねソーマ。お前、絶対勘違いしてるからな」
「ほほう? なにをどう勘違いしているというのかね?」
ん? 言ってみたまえリットくん? 溜め込んだ性欲のはけ口にオリザちゃんを使ってはいけませんぞ? さっきのパンツを脳裏に刻んだのかね?
「う、うわぁ……すげー殴りたい顔してる」
「殴ってもいいとアタシは思う。むしろ殴らせろ」
「そう言えばオリザちゃん、俺、ちょっと意外だったんだけどリットのこと、ちゃんとフルネームまで覚えてるんだな」
「——なっ!?」
俺が水を向けるとオリザちゃんはサッと顔を赤らめた。
ふふん。こう見えても「名探偵コ○ン」は毎年劇場版を観に行くほど好きだったのだよ。些細なことにも気がつくのだよ。
「あれれ〜、おかしいよ〜? クラスメンバーの名前をしっかり覚えてるなんてぇ? 友だちをいっぱい作りたいんだけどそのやり方がわからないから『アタシの下につけ』とか言っちゃったのかな?」
「んなっ、なっ、なに、なにバカなこと言って……!」
「んもう可愛いなぁ。オリザちゃんのそういうところ、お兄さんは大好きだぞ」
「~~~~!!」
オリザちゃんは顔を真っ赤にして言葉を失ったと思うと、
「このバカ!」
「うがっ!?」
お茶を飲もうとティーカップを持った俺の頭に思い切り拳を叩きつけた。
いっつう~~~!? 目から星が飛んだわ!
「死ね! 少なくとも2度死ね!!」
オリザちゃんが肩を怒らせて去っていく。
あーあー。図星だからってなにもそんなに怒らなくても……。
「ソーマ……お前ってほんとバカだよね……」
「いやいや。カップを落とさずに済んだからマナー的にはセーフだろ?」
リットがかわいそうなものを見るような目でこちらを見てくる!?
翌朝、日の出とともに起き出した俺は寮の1階にあるロビーへと向かう。そこには朝食用の軽食が用意されていて、好きに食べていいらしい。
なんとすばらしい響き……「食費無料」!
昨日のフィレステーキなんかは実費が必要みたいだけど、キールくんが払ってくれた。さすが公爵家だぜ! どれくらい金持ちなんだろうな?
まあ俺も金は持っているけど、無駄遣いはしたくない。堅実イコール貯金。現金を持っていることの安心感よ……確実に前世の影響である。
「あ、まだ早かったですかね?」
俺がロビーに行くと、閑散としていた。
料理を運んできたらしいおばちゃんがカートを押している。
「あれあれ今年の新入生かい? 大丈夫だよ。もう食べてった子もいるし」
「そうなんですか」
俺より早い生徒もいるとは、やるな。
「どれどれ……おおっ、サンドイッチうまそう! それにゆで卵もあるじゃないですか!」
卵は栄養価高いからな! これは食っておかねば。
おばちゃんのカートには多くの食事が載っていた。このカートがあと10台くらいあるらしい。
「あれあれ、そんなに喜んでくれるとはね。いっぱい食べてちゃんと勉強して……ちゃんと卒業するんだよ」
「あ、はい、もちろんですよ!」
俺は応えたが、なんとなくおばちゃんの言い方は心に引っかかるものがあった。
だけどおばちゃんは他のカートを取りに出て行ってしまった。
「……ま、いっか」
朝早く起きたことには理由がある。
俺の
授業でどこまでトレーニングが入っているかわからないから、朝イチでスキルレベルを上昇させておいて、サボりによる減少を発生させないようにするのである。
「スキルレベルオープン……っと」
俺は左腕にスキルレベルを表示させる。
【刀剣術】 348.32/
【格闘術】 222.19/
【防御術】 168.77/
【空中機動】 104.81/
【弓術】 85.25
【腑分け】 28.34
【魔導】 20.01
【清掃】 17.93
【投擲】 8.90
【調理】 6.90
【裁縫】 1.21
天稟「試行錯誤」を毎日のように使っていると、いつしかエクストラスキルとエクストラボーナスを表示することもできるようになった。ますます便利だ。
【刀剣術】というのは「剣」よりも「刀」——つまり「斬る」方向に特化したスキルだ。どうも俺の訓練方法が体育で習っていた「剣道」のそれだったのでこっちになったみたいだ。
でもこの世界には片刃の「刀」がほとんどないので、装備を見つけるまではちょっと微妙だったりする。
【格闘術】は武器がないときでも戦えるように訓練したもので、【防御術】とともに、隣の家に住んでたレプラを使って実験と組み手をやっていたら自然と上がっていった。おかげさまでレプラも頑丈に育っている。感謝しろよレプラ! 毎朝訪れる俺を死んだ魚のような目で見てたけど!
【空中機動】は森に入って動物を狩るのに結構便利だったんだよな。ジャンプしたり、木の上から飛び降りて襲ったりするときに、自由に動ける。
【弓術】も狩猟のために上がっていったって感じで、遠距離スキルも必要だなと思って伸ばしてる。【投擲】を止めたのはどうやっても俺の筋肉だと弓を使ったほうが強いからである。
【裁縫】や【調理】、【清掃】は実家の宿の仕事で上がった……いや、あんまり上がってないか。宿、継ぐ気なかったしなぁ……。ああ【腑分け】は動物解体で上がった。
で、最後の【魔導】だけど……どうも魔法系のスキルっぽいんだ。でも、魔法を使える人間がこの世界にはほとんどいないし俺の周囲には絶無だったので、なんとなく体内に感じる魔力を動かしてスキルレベルだけ上げている状態。
騎士になったらきっと魔法使いにも会えるだろうから、そこでいろいろ聞いてみたい。
いや、もしかしたら学園にもいるかもしれない!