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始まる暗躍

そういえば私の書いている「察知されない最強職」がbookwalker主催の「新作ラノベ総選挙」にノミネートされていました。

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 週末、俺たちは郊外の草原へとやってきた。

 学園の姿はもう見えないなというくらいの距離である。


「週末は対抗戦に向けてがんばるぞー!」


 と、俺が拳を上げたが、返事は芳しくない。


「おい、どうした、みんな! もっと気合い入れて行こうぜ!」

「……あち」

「ん!? なんだよトッチョ! しゃっきりしゃべってくれよ!」

「あちぃんだよ!」


 地べたに座っていたトッチョが叫ぶと、みんなうんうんとうなずいた。

 そう、雨期が明けて夏の陽射しが降り注いでいる。水分をたっぷり含んだ草は、陽射しを吸って青々と生い茂り、周囲にはムッとするような土と草のにおいが立ちこめていた。

 すでに汗だくのみんなはうめいている。


「だけど、クラス対抗戦で最下位になったら、10%辞めさせられるんだぞ?」


 俺が言うと、みんな「うっ」とうめいた。


「だからがんばろうぜ!」

「……しゃーねーか……」


 トッチョがのろのろと立ち上がる。それに釣られてみんなも動き出す——ってちょっと待って? 俺が言っても動かないのにトッチョに合わせて動くってどういうこと?


「まあ、白騎とか蒼竜に当たらなかっただけマシと考えるか……。で? ソーマ、対抗戦の出場チームはどうするんだよ」

「あ、それだけどさ——みんなも知ってのとおり、スキルレベル100でエクストラスキルが得られる。スキルの威力はすごい」


 ふむ、とみんなうなずいた。


「だから、エクストラスキル持ちを優先的に出す、でいいかな?」

「なるほど……まあ、それはそれで構わねーと思うが。みんなはどうだ?」


 トッチョが振ると、しょうがないかー、とか、スキル持ちは違うもんね、とか聞こえてくる。


「……おいソーマ。アタシたちんところは、アタシとスヴェン、それにアンタも……どういうカラクリかはわかんねーけど、エクストラスキル持ってるよな?」


 とオリザちゃんが言う。


「うん」

「3人を固めるのはよくないんじゃないのか?」

「ああ、大丈夫だよ。固めておいたほうがいいよ。なんだったらリットにもスキルを取らせたいとすら思うもん」

「いや、それは過剰戦力になるだろ」

「ならないよ」

「え? ……なんかアタシ、イヤな予感がするんだけど」


 オリザちゃんの表情が曇る。


「俺たちがマテューのチームを倒す」

「ほらぁ! イヤな予感当たった! アンタ知らないのかい!? アイツとつるんでる黄槍クラスの連中は全員エクストラスキルを使えるんだよ!?」


 オリザちゃんの言葉に、クラスメイトたちが凍りつく。

 全員スキル持ち、というところがやはり脅威なのだろうか。


「大丈夫大丈夫」


 だけど俺は笑って見せた。


「なにがだよ!?」

「大丈夫大丈夫」

「だからなにが——」

「そんなこと不安に思えないくらい、みっちりトレーニングやるから」

「——ひっ」


 この日から、クラス対抗戦に向けた地獄のトレーニングが始まった。




「おい、マジかよ……」


 ガクッ、とうなだれたのはトッチョだった。

 夕方までみっちりトレーニングを積んだ俺たちが寮に帰ると、風呂の前に「故障中のため、利用できません」という張り紙が出ていたのだ。

 それだけじゃない。


「うおあ!? な、なんだ!?」


 5階から叫び声が聞こえ、なにかと思うと部屋のガラスが割られていたのだ。拳ほどもある石が床には転がっていた。

 5階はすべて、割られていた。もちろん俺たちの部屋もだ。

 だけど、1日中外で暴れていた俺たちは身体も洗わずにはいられない。

 仕方なく寮の裏手で、井戸から水を汲み上げて身体を濡れ手ぬぐいで拭うことにした。これが夏だったからまだよかったものの、冬だったらマジで面倒なところだった。


「これやったのってやっぱり……」

「——ずいぶん派手にやられてるじゃねえか」


 声をかけてきたのは、寮長だった。


「寮ちょ……フルチン先輩!」

「だから寮長で合ってるだろうがボケ! ワザとか? ワザとなんだろ?」

「いや、だって。フルチン先輩、鍛冶工房の借金踏み倒したでしょ?」

「……ずいぶんとまあお前たちは、よそのクラスの怒りを買ったようだな。高位貴族を敵に回すからだ」

「なにさらっと話を流してるんですか。大変だったんですよ、デコさんとボコさんの機嫌直すの」

「おっと、コレが呼んでるもんでよ、行くわ」

「あっ、待てコラァ!」


 小指を立てた寮長が逃げ出したけれども俺は追えなかった。だって俺、パンツ一丁だったんだもの。


「……やっぱフルチン先輩の言ったとおり、これって他の貴族の嫌がらせ……かな?」

「そりゃそーだろ」


 俺の疑問に答えたのはトッチョだ。


「こうなりゃ風呂だって壊されたってことになる。そんなことできんのは、大量に業者を学園内に入れてる黄槍クラスの……」

「マテューか」

「まーな」

「ぐぬぬぬぬ。こんなの嫌がらせって範囲じゃないだろ!」

「そんなに熱くなっても変わらねーよ」

「トッチョも、それにみんなも悔しくないのかよ! 俺は腹立つ!」

「……腹は立つけども」


 ぼそりとトッチョは言った。


「もう、怒るほどの元気もないくらい疲れた……」


 みんな、ぐったりとしてうなずいた。ご、ゴメンよ、しごき過ぎたよ……。

 女子寮には手が出ていないのはまだマシだった。

 けれども、男子寮では上級生からも小言を言われた。「調子に乗るからこんな目に遭うんだ」「なんで1年のことで俺たちまで巻き添えになるんだ」「さっさと謝ってこい」……。

 そりゃ確かに俺が原因かもしれないけど、俺だって被害者なんだけどな……。


「……さすがにウチの上級生にまで言われると、キツイな」


 俺もしょんぼりしてベッドに座っていると、リットが無言でイスに腰を下ろした。

 静かな夜だ。スヴェンのベッドからは寝息が聞こえてきた。窓は割れていたけれども風が吹き込んできてちょうどいいくらいだ。雨期が終わっていたのは不幸中の幸いだった。


「そういやリット、昼はどこに行ってたんだよ。帰ってきたのもさっきだろ? お前もいっしょにトレーニングやろうぜ」

「……ボクはいいよ。向いてないし」

「大丈夫だって。俺のユニークスキルがあればお前だってすぐに——」

「——もう、止めない?」

「は?」

「ボクができるのは肉を売ってもらうくらいだよ。それ以上はできない。だけど……君がこれ以上、上位貴族と戦うつもりなら周囲をどんどん巻き込んでいくことになる」


 うつむいたリットは、膝の上で両手を組んでいた。

 そういやこいつ、戻ってきて風呂と窓ガラスのこと聞いてからずっと暗い顔してるな……。


「君が引かないとなれば、嫌がらせはエスカレートする。それこそ身の危険を感じるようなことにもなるかもしれない。統一テストのときは君はそこまで目立ってなかったし、戦う相手が碧盾クラスだったから半ば無視されていたんだ。でも今は違う。マテューはマズイよ……アイツは危険なんだ」

「リット……」


 リットの手が、震えていた。


「……君が、心配なんだ……」


 息をするのも苦しそうにリットは言う。

 ああ——俺は思い出す。リットが遠くに行ってしまうような感覚。あのとき俺は無意識のうちに感じ取っていたんだ。

 リットが相当無理してるってことを。


「お前、マテューとなんかあるのか?」

「…………」

「いや、そんなのどうでもいいな」


 これ以上、俺のワガママにリットを付き合わせられないと思った。


「お前はもう無理すんな」


 なにかがある。マテューとリットの間にはなにかが、あるんだ。

 だからマテューはリット——ホーネット家、ホーネット商会に関心を示した。


「荒事は俺の得意分野だ」


 同室のクラスメイトに心配を掛けさせないために、俺は少しだけ強がりを言った。

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