ウソがバレるとき
書籍版発売から4日目です! 私も毎日書店さんを回っては、棚にしっかりあれば「売れ残ってるじゃん……」と肩を下げ、棚に全然なければ「入荷もされてないじゃん……」と肩を下げる日々です。
ポジティブ精神はどこに行ったら買えるのぉぉぉぉ!?
「ではこちらが査定額となります——あら、おふたりのお邪魔でしたか?」
「あ、いえいえ、話は終わってるんで大丈夫です」
お邪魔ってなんだよお邪魔って。
「で、査定額は……」
「はい、こちらに」
お盆の上には、光り輝く金貨が。
「金額は、金貨4枚、クラッテン金貨1枚、銀貨7枚となります」
俺。リット。ふたりとも沈黙。
え、えぇと、落ち着け俺……頭の中で計算するぞ……。
日本円にして、90万7千円だ。
「ぃよっしゃぁぁぁぁぁぁ!」
「すごーーーーーーーーーい!」
ふたりで立ち上がってハイタッチでパァンッ!
リットがバンザイしたままぴょんぴょんジャンプして、俺は腿上げをしながらその場で360度回転した。正気に戻るまで数秒かかったけども、受付嬢はくすくす笑いながら見ていてくれたっけ。仕事ができて優しいとか……女神かな? 俺があと5歳上だったらプロポーズしていたわ。でも絶壁なんだよなぁ……。
「はい、ではお金はこちらの袋に入れますね。あと薬用のアルコールがこちらで——」
と受付嬢が言いかけたときだった。
ギィ、と扉が軋んで人影が入口に現れた。
「こんちは、まだやってっか?」
そこにいたのは、見たことのあるオッサン顔である。
「あ」
「ん? ……あ! 君はあのときの」
俺が学園近くの森で遭遇した冒険者パーティー「山駈ける鉄靴」のリーダーっぽい人だった。
「いやぁ、まさかこんなところで会うとはね」
と、冒険者パーティー「山駈ける鉄靴」のリーダー、ブラウンさんが言った。短い茶髪は天然パーマでくるんくるんしていて、もとは童顔だったろう顔がそのまま老けているので実際の年齢以上に年を食っているように感じられる。
先日森のそばで会ったときみたいな重装備ではなくて、今日は町歩きの普段着だ。ただ足元は動きやすいコンバットブーツを履いている。
「俺たち、森での収穫を売りに来たんですよ」
「ああ、なるほど。……いやしかし、騎士様になろうって学生がそんなことをするんですかね?」
野外で会ったときにはもうちょっとフランクだったのに、その言葉遣いにはなんだか距離を感じた。
も、もう俺も冒険者ギルドの一員なんですからねっ!
「あ、俺たちは騎士の中でも『落ちこぼれ』とか言われてるクラスだから敬語とか使わなくて大丈夫ですよ?」
「そ、そうなのです——そうなのかい? それじゃ気軽に話させてもらおうかな」
ブラウンさんを俺たちの座っているテーブルに招くと、なぜかリットが渋い顔をしていた。
おいおいリットさんよ〜。呼んだのがオッサンじゃなくてお姉さんだったらもっとかわいげのある顔してるくせによ~。
「ブラウンさんはどうしてここに?」
「例のレッドアームベアの報告があってね。討伐した騎士様に感謝メダルを贈呈するとかいろいろあったもんだから大事になっちゃってさ」
「あ、あぁ……あの件で」
ギルドの受付嬢がブラウンさんにもお茶を振る舞って、去っていった。
やっぱりここはカフェなのでは?
「レッドアームベアはそれだけ脅威だからな。すれ違いも多かった冒険者ギルドと騎士団を結びつけるくらいには、さ」
「その2つの組織ってそんなに仲が悪いんですか」
「仲が悪いというか、住む世界が違うというか。それこそソーンマルクスさんみたいに、ギルドに顔を出してくれればなにか変化もあるんだろうけど、騎士様がこんなところ来ることはない——」
コツ、コツ、とカウンターから音がした。受付嬢がにこやかに、しかし額に青筋立てながら拳でカウンターを叩いたらしい。
「っとぉ! 失言失言……ソーンマルクスさんも気をつけなよ。王都の女は見た目はいいけど中身はおっかねえから」
「あ、ははは……」
声を潜めたブラウンさんだったが、
「その点、サウスロイセンはいいぞ。女は、まぁ、若干見た目はアレなのが多いが、サービス精神が旺盛で情に厚い。あぁ〜、早く帰りたくなってきたぜ」
そんなことをぼやくと、受付嬢から「報告書が仕上がればいつでも帰っていただいて構いません。ブラウンさんもギルドからの依頼で来ているのですからしっかりしてください」と感情を一切うかがわせない声が飛んでくる。
王都の女はおっかない。俺、学んだ。
「そういや、ソーンマルクスさん。俺は知らないんだがどんな騎士様がレッドアームベアを討伐したんだい?」
「え……?」
「かなりの腕前と見たが」
「あー……ええと、そうですね。俺にはちょっとわからないですね……」
「なんで? 君が現場にいたんだろう?」
「いや、あのー、そう。俺たちが隠れている間に倒しちゃったんですよ! じ、実はその人の姿も見てなくてですね」
「そうなのか……? でもまあ、レッドアームベアを倒せるような腕前を持っていて、なおかつ騎士団も認めているのだから騎士様で間違いないんだろう?」
「ええと、はあ……」
「——討伐したのは学園の生徒さんらしいですよ」
とそこへ、受付嬢の言葉。
「生徒……?」
「はい。ちょうどソーンマルクスさんと同じ、13歳の学生さんだとか」
ブラウンさんは俺を見て、それから受付嬢を見て、それからまた俺を見た。
「そいつは無理だ」
結論は「無理」らしい。
「お嬢ちゃん、あんただって知ってるだろ。レッドアームベアだぞ? ソーンマルクスさんからもらった討伐証拠品を検分したが、ありゃあ成体だ。いくら弱った個体だとしても13歳が殺せるような相手じゃない。もし瀕死のレッドアームベアだったり、あるいは死んでいる個体だったら別だが……レッドアームベアを瀕死にできる存在が森にいるのならそれはそれでまた別の問題がある。なあ、君が見たレッドアームベアは活動的だったんだろう?」
「あ、えーっと……はい。咆吼は聞きました」
これ以上「謎の脅威」を森に増やしてはならない。俺はそう判断してレッドアームベアは生きていたことにした。
先ほどまでの相好を崩した感じではなく、すっかりお仕事モードになったブラウンさんは腕組みして唸る。
「ちょっとおかしいな」
こ、これは……俺のウソがバレかかっているということでは?
「で、でもまあ、いいじゃないですか! レッドアームベアは倒されたんですから!」
「いや、不安が残るからちょっと調べてみよう——ギルドの上層部や騎士団は、レッドアームベアを軽んじているのかもしれない」
ガタッ、と立ち上がるとブラウンさんは受付嬢にお茶のお礼と、「報告書のまとめはまた明日」とだけ告げて出て行った。
「……あのね、ソーマ」
「お、俺たちも出よっかリットぉ!?」
俺もあわててギルドを出た。
レビューさらにいただきました!「あかしま砂丘」さん、ありがとうございます!
今までのレビューはほとんど読み専の方ばかりだったのですが、あかしま砂丘さんは書き手でいらっしゃいますね。今書かれているのはローファンのダンジョンもの。最近、ローファン×ダンジョンでも人気作品が出ていますし、面白いジャンルですよね〜。
レビューで最後にご指摘いただいた部分は、実はものすっごい遠回りな伏線になっていたりします。そこに気がつくとはやはり天才か……。
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