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ま〜たアイツのせいかよ……

書籍版「学園騎士のレベルアップ!」が昨日から発売されています。なにとぞ皆様よろしくお願いいたします。

「う、うん。教わった場所はここだよ……名前もそうだし」

「アタシ、ここに入りたくないんだけど……」


 俺たちがやってきた「穴蔵鉄血工房」はなんというか、埋まっていた(・・・・・・)。俺の頭くらいの高さに屋根があって、入口は階段を数段下ったところにある。

 つまるところ地面を掘って工房を建てているのだ。

 そのくせ煙突は立派なレンガ造りであり、そびえるように立って、もくもくと煙を吐いていた。


「ちわーっす……」


 黒ずんだ木製の扉を開くと、


「てめぇの設計が間違ってっからこうなったんだろ!?」

「あぁっ!? 腕のなさを設計のせいにすんのかビア樽!」

「ビア樽はてめえだ!」

「あぁ!? ビア樽がしゃべってんじゃねえぞ!?」


 ……2人の、毛むくじゃらのビア樽が胸ぐらつかんでにらみ合っていた。


「あ、あのー」

「こないだは発注もミスってただろうが!」

「あぁっ!? ありゃ持ってきた出入りの業者がハゲタコなんだろうが!」

「あのー」

「ふさふさのタコなんざいねえよビア樽!」

「あ!? てめえがビア樽だろうが」

「あの!」

「うるせえ!」

「あぁっ!?」


 ようやく俺に気づいたふたりは、ぎょろりとこっちを向いた。

 ちりちりの髪の毛は長く、ヒゲもこんもりだ。

 体型は確かにビア樽なんだがとにかく背が低い。1メートルちょっとしかないんじゃなかろうか。

 このふたり、もしかして……。


「なんでえ、じろじろ見て。そんなにドワーフが珍しいか」


 ドワーフ!


「うおー! ドワーフだ! 俺初めて見たよドワーフ! すげえ、ほんとにいるんだ!」

「……素直に珍しいと言われるとそれはそれでモヤモヤすんぞ。確かに王都にゃドワーフはほとんどいねえがよ」


 そんなことを言いながら、ふたりはつかみあっている手を離すとこちらへ向いた。


「見たところ、お前さんがたはロイヤルスクールの黒鋼クラスか。なにしにきた? 装備品の発注か?」

「あ、はい。そうなんですよ。実は——」

「「断る」」


 ビシッ、とふたり声をそろえて断ってきた。え、えぇ……展開早すぎない?

 あわてたのはリットだ。


「ちょ、ちょっと待ってください。黒鋼クラスはここが御用達なんじゃないんですか? だから最初にここに来たんですけど」

「御用達ィ? 言うに事欠いてそうきたか! バカもん! アイツら、注文するだけしておいて、調子のいいことを言うだけ言っておいて、ついぞ代金を払ったことなど一度もない!」

「しかもあれこれ注文をつけてこちらの労力は倍だ、倍!」


 聞いた俺の脳裏にある人物がよぎった。


「それってもしかして、オレンジ色の髪を刈り込んで、蛇のような入れ墨がしてあって、でっぷりしてて学生にしては貫禄ありすぎって感じの……」

「そいつだァ!」

「そいつを連れてこい! ぶち殺してやる!」


 寮長ォ!

 アンタここまで来ても俺たちを妨害するのかよぉ!

 リットもそれが誰なのか気づいたのか、頭痛をこらえるようにこめかみに手を当てながら、


「ええと……その、彼とボクらは違うと思うんです。料金は先払いでもいいので……」

「断る!」

「どうしてもワシらにやってほしくば、あの悪魔(おとこ)を連れてくるんだなァ!」


 寮長……なにやらかしたんだよ……。

 あの寮長をここに連れてくるとか面倒にもほどがあるんだが? いや待てよ、簀巻きにして担いでくればなんとか行けるか?

 とかなんとか俺が寮長をいかにして仕留めるかについて思索にふけっていると、


「おい、リット、ソーマ。別の鍛冶工房にしたらどうだ? ここらは工房が集中してるんだろ?」

「そいつぁいいな。ワシらはもう、黒パーカーは相手にしないと決めたんだ」


 ドワーフたちが腕組みしてそっぽを向いた。


「行こうぜ」

「う、うん……」


 とオリザちゃんとリットが扉を開いて出て行く。

 うーむ……確かに、工房はいくらでもあるんだよな。

 でもちょっと引っかかるな。

 まあ寮長(あのアホ)のせいでドワーフさん2名に苦労を掛けてしまったことに申し訳ない気持ちもあるけど、なんだかんだでこの人たちは学生の装備品を作ることに慣れているわけだよな?

 これから他のクラスメイトの装備も造ってもらうことを考えたら、ここにお願いできるならそれに越したことはないんじゃないかっていう気もする。

 そしてなにより……ドワーフだぞ!

 絶対鍛冶の名手に決まってるじゃん!

 あきらめきれないよな!!


「——ごめん、ふたりとも。ちょっと待っててくれる?」


 俺はリットとオリザちゃんに、外で待ってもらうように頼んで、扉を閉じた。

 ドワーフたちが警戒する。


「な、なんでえ」

「腕尽くで作らせようってか? こう見えても俺たちゃ力もちなんだぞ」

「見ればわかりますよ。ムキムキだし」


 ビア樽体型ではあるけど、剥き出しの両腕の筋肉は半端ない。


「いや、実は——こんなものがあるんですけど」


 と俺は、リュックを下ろしてその中を2人に見せた——。




 それから15分後。

 俺が扉を開けて、オリザちゃんとリットのふたりを呼び込んだ。


「作ってくれるって、オリザちゃんの装備」

「——は?」

「ちょ、ちょっと待ってソーマ。君いったいなにをしたの?」

「まあまあ、それはいいじゃないか。——それじゃ、デコさん、ボコさん、こっちの彼女の装備品の製作、お願いしますね」

「おお! 任しとけやソーマ!」

「お前も今度ウチに飲みに来いや!」

「いやー……はは、俺まだ未成年だから」

「わっはっは! 違いない!」


 このドワーフふたりはデコ、ボコと言い、兄弟でこの工房をやっているらしい。親のネーミングセンスゥッ……!

 デコさんは設計、ボコさんは鍛冶なんだとか。ふたりの見た目は「コピーかな?」と思うほどなのだが、デコさんは天才的なセンスで設計を行うものの細かいミスが多い。ボコさんはパワフルに鉄を打つのだが、繊細で几帳面らしい。

 うーんこれはいい凸凹。体型は凸凸だけど。


「な、なんでこんなにフレンドリーになってるの?」

「わかんねーよ……もうソーマ(このバカ)についてあれこれ考えるのは止めた」

「じゃ、詳細はドワーフさんに説明してあるから、オリザちゃん、採寸してもらって。リットもついててあげて」

「え、ソーマはどうするの?」

「俺はちょっと野暮用。じゃね〜」

「あ、おい! ソーマ!」


 ふたりと入れ替わりでサクッと外に出た俺。


「ふっふっふ。女の子とお近づきになりたいリットのためにオリザちゃんとふたりきりにしてやるというこの気遣い。イケメンかな?」

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