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先生の悩みは深くて

先日前書きでちょっと愚痴ってしまいましたが、多くの方にコメントいただきました。ありがとうございます。人と人とは支えあっているんだな、って……へへ(人差し指で鼻の下をこすりながら)。

おかげで作者もレベルアップ! した気がします。読者の皆さんもレベルアップ! しますように!

 チーム分けができた日に、俺は担任のジノブランド先生に報告に行った。

 先生がいるのは相変わらず教員用の個室だ。そこは以前と同じ、多くのものであふれかえっていた。

 話を聞いたジノブランド先生は、呆れたような顔をした。


「……もう対抗戦を見据えているのか? 気が早いな」

「ええ、まあ。これでも1位狙ってま——ふぐぅっ!?」


 ついてきていたリットが俺にひじ鉄を食らわせてくる。


「な、なんだよリット!」

「そういうの、ほんとみんなの前で言うの止めようね!? プレッシャー掛かるだろ」

「えー、ここはみんなの前じゃなくてジノブランド先生しかいないし……」

「先生に言うってことは宣言するようなものじゃないか」

「師匠が1位を取るのは当然のことです」

「…………」


 リットが額に手を当てて天を仰ぐ。「こいつもいたわ」みたいなリアクションである。

 言ったのはもちろんスヴェンで、ここにいるのは俺、リット、スヴェンの3人だ。


「はは。君たちは元気だな。私にできることがあったらなんでも言ってくれ」

「先生……」


 そう言ってくれる先生は、入学当初の突き放すような先生ではなかった。

 だけど俺は知ってる。先生はできうる限りの範囲で俺たちを助けてくれていたってことを。ただ、先生が優先しなくちゃいけないのが妹さんってだけで。

 当たり前だよな。自分の家族がいちばんに決まってる。

 悪いのは、そんなジノブランド先生の弱みにつけ込んだ高位貴族(クソヤロー)どもだ。

 でも、今の先生にはまだ元気がない。


「先生、うまくいってないんですか?」


 それが妹さんの病状だということにすぐ気づいたんだろう。力なくうなずき、座っているイスにさらに身体をもたせるようにした。


「……ふがいないよ。なんのために今まで勉強してきたんだか……」

「? なに、なんのこと?」


 リットがわからないような顔をしているが、スヴェンは重々しくうなずいている。いやスヴェン、絶対お前わかってないよな?


「そう……ですか。先生も無理しないでください」

「ああ。……いや、そんなふうに生徒に心配されている時点で担任失格だな」

「先生、顔色悪いですよ。ちゃんと飯食ってますか?」

「……ランジーンが……妹が食べられてないのに、私が食べているのが悔しくてね」

「気持ちはわかりますけど……妹さん、食欲ないんですね」

「ああ。私の故郷ではたまにある病気なんだ。食欲がなくなるともう危ないと言われていて……」


 先生が涙をこらえるように下唇を噛んだ。

 だけど、俺はハッとした。


「——先生の妹さん、ランジーンさん? その病気って、他にも(かか)っている人がいたんですか?」

「そうだな。だから医者もさじを投げている。原因不明だと」

「ちょ、ちょっと待ってください! それって風土病ではないんですか?」


 ある一定の地域でだけ流行する病気のことだ。

 感染症とか伝染病とか、あるいはその場所にだけ生息している寄生虫による病気だ。それなら原因の特定ができるかもしれない。少なくとも原因がわかれば、対処法も考えられるはずだ!

 ——けれども、先生は首を横に振った。


「その辺の調査は昔から行われているんだけど、特定の寄生虫は発見されていない。実は同じ病状……『黄壊病』というのだが、それは別の離れた地域にもあったりして、寄生虫の類ではないだろうと言われている」

「そ、そうですか……すみません、俺、よく知りもせずにそんなことを言って」

「いや、いいんだ。ありがとう。ソーンマルクスが気にかけてくれるだけでもうれしい。故郷は風光明媚で、清潔な街なんだよ。街の外には農作地が広がっていてね……秋には黄金色の海原のようにも見えるんだ。食うに困ることもない。だからそれだけに、奇病が流行っているのがおかしいんだ……」

「————」


 その言葉を聞いて、俺はある可能性(・・・・・)に思い当たった。

 だけど風土病か、という予測を外してしまった直後だ。なんかまた見当違いなことを言うのも……。


「どうした? ソーンマルクス」

「あ、えっと……」

「珍しいな、言い淀むなんて」

「え!?」

「そうだよ。ソーマに言いづらいことなんてこの世界に存在するの?」

「リットくん!?」

「ふっ」


 ジノブランド先生は噴き出した。それはホッとしたような顔で——先生はここのところ、ちゃんと笑えていなかったのではないか、俺はそんなことを思った。


「……先生、俺が思いついたことを言います。あの、妹さんの病気って……身体が黄色くむくんで、肌の艶がなくなるようなもの、ではありませんか?」

「ん……その通りだが、私は君に、ランジーンの病状を言ったっけ?」


 俺は首を横に振った。


「ちょっと、思いついたことがあるんです」

「——君は『黄壊病』についてなにか知っているのか? 知っているのなら教えてくれ。なんでもいいんだ、なんでも……」


 先生のすがるような目に、俺は怯みそうになる。


「あ、あの、もしかしたら間違ってるかもしれないんで……」

「それでも構わない、教えてくれ!」


 立ち上がった先生は俺の肩をつかむ。

 その迫力に気圧されながらも、


「先に確認したいんですが……」


 俺はたずねた。


「先生の故郷って、主食に白米を食べていませんか?」

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