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燃えよチーム分け


「そりゃもちろん。ていうかチーム分けが決まったらリットも参加だぞ。あれはチームの結束を高める訓練としてもちょうどいいんだから」

「…………」

「リット?」


 なんだか、様子がおかしい。

 そう言えばこいつ、ここのところ様子がおかしかったな。はは〜ん? さては恋の悩みだな! とか思ってスルーしてたんだけどちょっと気になるな。


「リット」

「……あのさ、ボク——ひゃっ!?」


 俺がリットの額に手を当てるとリットは素っ頓狂な声を上げた。


「な、な、な……!?」

「ふむ、熱はないみたいだな……いや、待て。どんどん熱くなっている! なんだこれは!? リットお前、なんか病気なのか!?」

「ちちち違うよ!? 勝手に触るなよ!」


 ぱしっと手を払いのけられた。


「そっかそっか。元気なら結構結構」


 俺が笑うと——子ども扱いしてからかわれたのだと気がついたのだろう、リットはぷくっと頬をふくらませた。

 ま、大丈夫そうだな。


「よしそんじゃ行く——」

「——ソーマ」


 部屋から一歩出たところでリットが俺に声を掛けた。


「ボクの身になにかあったら(・・・・・・・)、君は助けてくれる?」


 振り返った俺は、どきりとした。

 リットの表情は、なにもかもをあきらめた世捨て人のような——その目はなにも映しておらず、ただ空虚に口元が笑っていたんだ。


「……当然だろ。俺たちは同居人だからな」


 それしか言えなかった。

 リットがどんな意味を込めてそんなことを聞いたのか、わからない。だからそう答えるのだけが精一杯だった。


「そっか……同居人か」


 つぶやいたリットは立ち上がると、くんっ、と大きく伸びをした。


「さ、下に行こうか。オリザ嬢と君のバトルが見られると思うと楽しみだね」


 いたずらっぽく笑ったリットはもう、いつものリットだった。



 さて、チーム分けだ。

 7月に行われる「クラス対抗戦」を目的としたものなんだけど、これがそもそもなんなのかって話だよな。

 簡単に言えば、4人でチームを組み、相手クラスと模擬戦を行う。

 4人のうち1人が「大将」であり、「大将」を倒せば1ポイント獲得。その時点で模擬戦は終了となる。

 各クラスの人数に合わせたチームの数で勝負が行われる。たとえばウチと白騎クラスが対戦するとして、黒鋼クラスは60人いて、白騎クラスは30人であるため、白騎クラスの最大チーム数の4人×7チームに合わせて黒鋼クラスも7チームを出して模擬戦を行うのだ。

 対抗戦は1クラスとしか戦わないため、「負けた試合が少ない順」でクラス別順位が発表される。俺がリエリィに「1位を狙う」と言ったのはこれな。全勝すれば自動的に1位になりはするけど、まあ、相手クラスがどこかによって変わるのは間違いない。

 あと、戦闘記録が残され、記録に応じたスコアが生徒全員につけられ、スコアによって個人順位が発表されることになっていた。


「だから! 確実に1ポイントずつ稼いでいくなら、強い順にチームを分けたほうがいいだろ!?」

「は? むしろ分散させたほうがポイント稼げるだろ」

「うちのクラスは人数多いほうだから、碧盾と当たらない限りは戦わずに済むチームが出るよね」

「女子が戦闘に駆り出される必要はない!」

「女子だって強いんですけど?」

「俺戦いたくないわー」

「負けたら必要以上にバカにされそうだしな……」


 はい、議論の収拾がつきません。

 すでに食事は終わって、みんなお茶やジュースを飲みながら話しているんだが、「とりあえずささっとチーム分けすればよくね?」と俺が話したけど誰も聞いちゃいない。

 ごりっごりにスキルレベル上げれば誰が出ても勝てると思うんだよね(真剣な提案)。だからこそ1日でも早くチーム分けしておきたいんだが……。


「ソーマ!」


 するとオリザちゃんが苛立ったように声を上げた。


「は、はいっ」


 なんか知らんけど立ち上がって気をつけしてしまう俺。オリザちゃんて生まれながらにして女王様の素質があると思う……って言いたいんだけど、この世界でそれを言うと「リアル女王様」がいてもおかしくないから不敬罪になりそうで怖い。


「アンタが女子を1人ずつチームに入れたほうがいいって言ったんだよな?」

「うん。だって楽しいじゃん」

「だけどこのクラスは60人いて、女子は10人。そうなると5チームは女子がいなくなるよな?」

「そりゃそうだね。まあ、そのチームは……残念ながら男同士でがんばっていただきたい」


 15チーム中、10チームには女子がいる。5チームは男だけ。

 その事実を突きつけられた男子たちの顔色が変わった。


「え……男、だけ?」

「そんなのイヤだー!」

「ど、どうやって分けるんだ?」


 みんなの視線が俺に集まる。特に男どもの視線が暑苦しい。ああ、13歳という思春期に足を踏み入れたか踏み入れないかという年齢でもこれほど女子が気になるのか! 若い、若いぞ!




 寮の同室でまず男子を分けた。4人部屋は1人減らす、あるいは男子のみの4人チームとした。で、あぶれた男子や2人部屋のヤツらを集めて3人1組を作る。

 そしてくじ引きをして女子が入るようにし、残念ながら女子が入らなかったチームはまた男子だけで4人ずつに再構成する、という形にした。


「マジでアンタのところかよ……」

「オリザ嬢、くじ運悪すぎない?」

「…………」

「いや待って待ってリット。どうして俺たちのチームに入るとオリザちゃんのくじ運が悪いことになるわけ?」


 結果、オリザちゃんはリット、スヴェン、俺の3人と組むことになったのだ。


「だってソーマ、絶対相手クラスでいちばん強いところと対戦するって言うでしょ?」

「当然」

「ほらね」


 肩をすくめるリットくん。「ほらね」じゃないよ「ほらね」じゃ。オリザちゃんもがっくりしないでよ。周りの女子もオリザちゃんを慰めないでよ。ほんとに俺が悪いみたいじゃん!?

 俺は周囲を見回す。女子が入ることになったチームは盛り上がり、男子だけとなったチームはどんよりしている。

 トッチョはルチカと同じチームになったあたり、異様なまでの引きの強さを感じる……。「しょうがねーな。足手まといになるなよ」とかルチカに言いつつも頬がゆるんでいた。シスコンかな? いやシスコンだったわ。知ってた。

 トッチョの取り巻き4人衆はなんとかして1人を外して女子を入れようとしていたが、4人がそれぞれ「追い出されるまいぞ」と牽制し合った結果、めでたく男子4人チームとなった。ご愁傷様。

 ○×◇の3人はくじで負けて女子が来ず、同じく女子が来なかったチームにいたオービットを吸収していた。


「よし、それじゃ再来月の対抗戦に向けてがんばるぞ!」


 返事は期待していなかったのに、結構な人数から「おーっ」という声が返ってきた。なんだかんだこの組み合わせはみんなのやる気に火を点けたらしい。女子がいるところは男子がいいところを見せようと、男子しかいないところは……やけっぱちだな。

「レビュー」ありがとう企画第5弾は「斎藤」さん! ありがとうございます。あの斎藤さんですかね?(どの斎藤だよ)

自分でも書いていて思いますが、女の子も出てくるもののだいぶ男ばっかりなんですよね。いいのかな? ま、いっか! 男を掘り下げる(意味深)のも一興でしょう。ガンガン掘っていきましょう(意味深)。


書籍版のキャラクターイラストもダッシュエックス文庫のツイッターで確認できますが、ついたコメントで笑ってしまったのが「トッチョが思っていた以上にトッチョだった」というので、私も100%同意です。

面白い男の子、そして可愛い女の子がいい感じのバランスで出てくる小説にしていきたいなあと思います。


斎藤さんお待ちかねの実技編なので、お楽しみください。


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