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公爵家って偉いんだぞ(たぶん)

 いや、俺としてはさ? リットとオリザちゃんをなんとかお近づきに……みたいな気持ちだったんだ。「アタシの下につけ」とか言っちゃう俺様系女子ではあるけど、男にしてはだいぶなよっちいリットとなら逆に合うんじゃないかなって。

 したらパンチラ、いやパンモロサービスでハイキックですよ。

 や、あの攻撃くらいは余裕で受け止められるんだよな。「防衛術」スキル100で「衝撃吸収(ショックアブソーバー)」ってのがあって、それを使えばさ。

 パンツっつったって13歳の女の子だからね、まあはっきりいって俺の守備範囲外なんだけれども、オリザちゃんのだいぶ大人びたショーツは……うん、不覚にも少々興奮しかけた俺がいる。

 うおおおい、俺! 13歳の女の子に興奮してどーすんだよ!?

 しかもリットとくっつけようとか言ってるそばから……あー、もう!

 とか思ってた俺は、


「皆さん、それが騎士になろうという者の振る舞いですか」


 という声を聞いた。

 そこには——幼さをまだまだ残したままの、天使のように美しい金髪を持った少年がいたんだ。

 その子はすでに、「白騎」クラスを意味する白のブレザーを——真新しいブレザーを羽織っている。

 今年ナンバーワンの累計レベル325をたたき出したキルトフリューグくんだと俺はすぐに気がついた。

 その背後には、すでに取り巻きらしき白ブレザーが5人ほどいるんだけどな。

 しん、と静まり返るオリザちゃんやリットたち。

 さすがに鈍い俺でもわかるぞ。この子が来たから静まり返ったんだって。

 あー……キルトフリューグくん、ちょっと悲しそうな顔をしたな。それはあれか、さっきの……第3王子との会話が影響してんのかな。

 この子も、自分が公爵家だから〜とかじゃなくてちゃんと、ひとりの男として扱って欲しいんだろうか。

 これは地雷の可能性が大いにあるんだけど、ここは年長者としての余裕を見せてやらねばならない。


「あ、こんにちは、キルトフリューグくん」


 キルトフリューグくんの眉がわずかに動き、リットがとんでもない顔でにらんできた。はい、やはり地雷でした! 5人の取り巻きくんたちがジャッ、て音を立てて飛びかかりそうな感じになってんだけど!


「貴様! ラーゲンベルク様になんて口を——」

「いいのです」


 取り巻きくんが口を開こうとしたところで、キルトフリューグくんがそれを手で制した。


「はい、キルトフリューグと申します。皆さんは新入生と見受けられますが、入学早々、暴力沙汰というのはこの学園にふさわしくない行いだとは思いませんか」

「それは確かにそうなんですけど……。でもアレですよ、ネコがじゃれ合ってるみたいなもんですよ?」


 と俺がとりなすと、オリザちゃんが人でも殺しそうな顔でこっちをにらんでくる。え? いや、でもあの蹴りはサービスカットみたいなもんでしょ? あんまりやらないほうがいいと思うけどねえ。


「……ラーゲンベルク様、大変失礼いたしました。では我々はこの辺りで……行くよソーマ、スヴェン」


 とリットが俺の袖を引いてくる。

 これじゃあオリザちゃんと仲良くなるどころじゃないもんな……。

 でも後ろに行こうとしてるのはなんでなんだ?


「おいリットどこ行くんだよ。食堂見に行くんだろ」


 うわーすごい。

 リットが恐ろしい顔してる。日本で言うところの般若。少々懐かしさすら感じる。


「食堂……学園レストランに、ですか? そうですか……」


 ふとキルトフリューグくんは考えるようなそぶりを見せて、


「ではせっかくですから一緒に食事でもいかがですか?」


 そう言うと、リットの顔が面白いくらい真っ白になった。




「っざっけんな! どうしてアタシもいっしょなんだよ!?」

「まあまあ、お近づきの印ってことで。なあリット? オリザちゃんもいっしょにきたほうがうれしいよな?」

「……ボクは空気、ボクは路傍の石ころ、話しかけないでくれるかな……」

「っつーかなんだこのガリ勉のバカ力!? おいマールにバッツ、シッカク! テメェらも手を貸せ……ってどこにもいねぇ!?」

「ああ、あのトリオは忘れ物があるって言って寮に戻ってったけど」

「クソがッ」

「……いくら任務上、荒事にも関わる騎士とは言え、その言葉遣いはあまりよろしくないと思いますよ」


 学園レストランへと向かう道で、先頭を行くキルトフリューグくんが苦笑して振り返る。取り巻きの5人は完璧に無視してるよ俺たちのこと。よかったねリット、無視されて! ってよくねーわ。

 あー……思い出した。俺のトラウマボックスが開いたぞ。

 俺が町工場の整理に奔走してたとき、それまで散々無理を言ってきたクライアント会社に「今回ばかりは手形でなく現金で支払いをお願いします」と申し出たときの反応だわ。冷たくて、人情味がなくて……うっ、もはや異世界にいるというのに胃の痛みが!


「おい、コイツいきなり苦しみだしてんだけど?」

「……ボクは空気、ボクは空気……」

「剣の修行がしたい」

「つーかテメェらもたいがいマイペースだよな!?」


 いつの間にか俺がいなくても、オリザちゃんとリット、スヴェンで話ができている。

 いいねえいいねえ。青春だねえ。

 そうこうしているうちに食堂——学園レストランが近づいてきた。

 卒業後、騎士となれば貴族社会の仲間入りとなるわけで、特に平民である生徒——まあ俺だよな——のために、貴族社会がなんたるかを知ることができる様々なシステムが学園にはある。

 学園レストランもそう、らしい。

 入口のドアはドアマンがいて開けてくれる。

 レンガ造りの幅広の建物で、意匠の凝らされた窓からは外の光がふんだんに差し込むようになっている。


「おおっ、広いなあ」


 高い天井からはきらびやかな魔導照明がぶら下がっているが、日中は天窓からの光で十分に明るい。

 足下はふかふかの絨毯。広いレストラン内にはテーブルクロスの張られた円卓が点在していた。

 こういうとこ、今までまったく縁がなかったなぁ……。こっちの人生でも、前の人生でも。

 ちょうど食事時でもあり、結構な数の生徒が食事を楽しんでいる——そのすべてが在校生、つまり2年生以上だ。

 見ると制服ごとに各クラスが集まっているのがわかる。

 学園の制服は、男子が金の刺繍のロングパンツに革靴だけで、あとは自由。女子はスカートに金の刺繍が入っていればよくて、男女ともに「風紀を乱さない」範囲の自由が与えられている。

 だけど、クラスごとに決まった制服がある。


「蒼竜」クラスは青の詰め襟——学ランのような制服だ。


「緋剣」クラスは緋色のスカートがシンボルマーク。


「黄槍」クラスは黄色のリボンを身体のどこかにつけている。女子生徒はともかく、男子もそうなんだ。彼らは腕に巻いたり、ベルトにぶら下げたり、リボンタイにしたりしている。


「碧盾」クラスは緑色のブローチが支給され、左胸につけることで統一されている。


「黒鋼」クラスは黒のフード付きパーカーであり、銀糸で刺繍したりと様々ではあったがどことなく後ろ暗い雰囲気がある。黒鋼だけなんつーかカラーギャング感がある。


 ざっとレストラン内を見る。

 中央がぽっかり空いているんだよな……でもそこはおそらく「白」——「白騎」クラスの席だろうな。「白騎」クラスの特徴は、白のブレザー。すでにキルトフリューグくんも着てるヤツだね。男女問わず同じ仕立てのものなので非常に目立つ。

「白騎」クラスは寮内に専用の食堂があるのでこちらに出てくることがほとんどないって話だ。


「ではあちらに行きましょう」


 と、ここには白騎のキルトフリューグくんがいるので、彼は当然のように中央のテーブルへと向かう。


「……キルトフリューグ様、まさか本気で彼らを白騎のテーブルにつかせるのですか」


 取り巻きくんのひとりが言う。

 そうだよそうだよ。さすがに俺たち、めっちゃ私服で目立つし、そこまで空気読めないことはしないよ?


「白騎の者がいればテーブルに招待することは構わないとお兄様からうかがっています」

「ですが……」

「私が、そうしたいのです」


 そこまで言われると取り巻きくんも引き下がらざるを得ない。

 だがしかし!

 だからと言って我ら黒鋼メンバーは空気が読める。ハイハイとついていくとは、


「皆さん、お腹は空いていますか? お兄様がここのフィレステーキは絶品だから一度食べてみたらいいと言われていますので、もしよければごちそうしますよ」

「ご一緒しまぁす!」


 即答したね。

 フィレステーキですよフィレ。「い○なりステーキ」でもお高いランクに入ってるアレですよ!

 つーかこっちの世界に来てからかれこれ、俺、野性の獣を捕まえて食ったりはしたけど畜産の肉は食べたことがない。野性は野性。うまいのもあるんだけどな、どうしてもね……ニオイがね……。

 牛のステーキ、食べたいんである。

 どうしたって、食べたいんである。

 オリザちゃんとリットが左右から俺の腕を背後に引っ張っているけれども、食べたいんである。

 HAHAHAHAHA!! なんだねその力は! もっと腰を入れたまえ腰を!「剣術」200レベルと「格闘術」200レベルで手に入れたエクストラボーナス「瞬発力+1」と「筋力+1」には通じないZO!!

だんだんソーマの異常性が明らかに……!(性癖はまっとうです)


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