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はい来たこれ、金になりますよこれ!

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 俺はまじまじと見てしまった、オリザちゃんが持ってきた「学園新聞」とやらを。


「どうだい、アンタのしでかしたことがだいぶ曲がって伝えられてるんだよ」

「なんてこった……」


 たった1枚の紙切れを持つ俺の手が震えていた。

 オリザちゃんが、若干気の毒そうに、だけども戒めるように言う。


「これに懲りたら、発言には気をつけることだね。大体アンタは迂闊なところがあって——」

「なんてこった! こんなしょっぱい紙切れ1枚が銀貨1枚(1,000円相当)で売ってんの!? やっべえ、貴族相手の情報商売ボロ過ぎない!?」

「アタシの話を聞けよ!」


 いやいや、ヤバいでしょ。こんなたいしたことのない情報で銀貨1枚だぞ? 紙なんて5枚で銅貨1枚(50円)くらいなのに。

 ん? でもこれよく見たら手書きじゃないな。いや、記事部分は手書きだけどフレームとロゴは……版画で刷ってるのか。人件費を考えれば銀貨1枚もやむなしなのか?


「——ハッ、ま、待てよ!?」


 そのとき稲妻のような思いつきが俺の脳裏に走った!

 オリザちゃんはそんな俺をうさんくさそうに見てくる。信用がないィ!


「オリザちゃん! ってことはこの新聞のせいで1年黄槍クラスのイケメンたちは一気に有名人ってわけだよな!?」

「ハァ? まあ、そうだけど……おいソーマ。アンタ、他人様に見せられないようなヤバイ顔してるんだけど」

「誰がブサメンだコラァ! 気にしてんだぞ!」

「あ、え、ご、ごめんなさい? じゃねーよ! レッドアームベアのことはどーなんだよ。アンタ、自分の手柄が奪われたってのにずいぶん余裕そうじゃないか」

「余裕? あー、うん、大丈夫よ。ちゃんとこの報いは受けていただくので……」

「報い?」

「あー、うん、気にしないで。気ニシナイ、気ニシナイ、ネッ?」

「アタシを不安にするのは止めてよ……」


 レッドアームベアの手柄とか本気でどうでもいいわ。

 対抗戦でマークされることもなくなるし、感謝のメダルなんか銅貨1枚にもならんし、むしろいいことづくめである。

 だけどまぁ、やり口が正しいかどうかは別だよね?

 勝手に他人の成果を奪ってはいけませんよね?

 ぐふっ。ぐふふふふふ。


「オリザちゃん」

「な、なんだよ……気持ち悪いニヤけヅラして」

「気持ち悪い言うな。あのさ——ルチカはどこにいる?」

「? ルチカ?」


 そう、俺が今思いついたアイディアを実現するには、ルチカの力が必要なのだ!




   * 碧盾女子寮長会議 *




 それから1週間後、碧盾クラスの女子たちの間で「ロイヤルスクール・タイムズ」によく似た形の文書(・・)が流通した。その文書は1枚で銀貨1枚という価格ではあったが、初版50部が瞬く間に完売し、追加の版が刷られるよりも前にコピー品が大いに出回った。

 翌週、初版100部となったその文書は、木版印刷の技術が取り入れられており完全なるコピーとなっていた。そして前回よりも早くに完売することとなったが、購入された文書を巡って女子同士の取り合いが発生し、それが碧盾クラス5年の女子寮長に知られ、大問題となった。

 碧盾クラスは各学年、男女別で寮が独立しているが、「碧盾男子寮長会議」「碧盾女子寮長会議」といった会議があり、なにかあればこの会議の議題になる。

 今回の「碧盾女子寮長会議」は、荒れた。


「……これが問題の文書ですね」


 参加者は5人、各学年の寮長である。

 5年の女子寮長、詰まるところこの会議をまとめている「議長」の前に置かれてあったのは、何人もの手に渡り、読み込まれ、ぼろぼろになった2通の文書。

 文書の中身は——とあるイケメンが、イケメンを相手に、愛のセリフを囁く、という内容であった。

 そのイケメンとは、


「ど、どう見ても1年黄槍クラスのマテューくんとフランシスくんではありませんかっ……! ふ、ふしだら過ぎます!」

「議長、鼻血が出ていらっしゃいますわ」

「そうおっしゃるあなたもよ!」

「いえこれは、内なる魂よりほとばしる感情が、赤い血液となってゴブッ」

「副議長! 副議長、しっかり!?」


 それから会議室には鼻を押さえるための布巾が回された。このことから、以降、この会議は「赤きハンカチの会合」と呼ばれることになる。

 それもまた書かれている文章に影響されているのだが、こんなくだりがあるのだ。


 ——ハハハ、そんなものか、黒の長よ! 股間を丸出しにしているだけで腕はたいしたこともないな。大体、俺の短槍で貫けない相手はいないぜ!

 ——違うよ、マッテゥ。

 ——なにが違うんだ、ブランジス。

 ——そんなことない、君のは短くなんかないもの……長くてたくましいもの!

 ——バッ、バカ野郎、こんな場所でそんなこと言うんじゃねえよ……俺の赤いランスを拭ってくれるのはお前だけだ。

 ——それはハンカチで? それとも、ぼ、僕の後ろの……。


 実のところ碧盾女子たちにとって白騎クラスは「雲の上」、蒼竜クラスは「荒っぽいが女っ気がなく現実的な狙い目」、同じ碧盾クラスは「無難オブ無難」という格付けになっている。

 そこへ行くと黄槍クラスは「アイドル」であり、黄槍クラス側もそれをわかっていることから碧盾女子()遊んだりする。

 そんな彼らが、彼らの中でただれた生活を送っているなどという文書が出回れば欲しくなってしまうのだ。しかもこの世界では文章の娯楽が発達してはおらず、物語の回し読みなどは行われていない。それだけに彼女たちにとって、この紙切れ1枚は上質のエンターテインメントになってしまった。


「決議します。この文書は極めて危険なものであり、我々が適切に管理しなければならないと提案しますわ」

「異議なし」

「異議なし」

「異議なし」

「異議なし」

「満場一致。続いて決議します。今後も文書については積極的に回収し、厳しい管理を行うべきだと提案しますわ」

「異議あり。『厳しい管理』というところに引っかかります。議長、5年生は何部確保するおつもりでしょうか?」

「……それは、おいおい決めればよいかと思いますわ」

「まさかとは思いますが、30部以上持っていく気ではありませんよね? 出回っているのはたったの100部ですよ!」

「え、40くらいダメですか?」

「横暴です」

「最高学年による学年ハラスメントですわ」


 会議は荒れたが、最終的には希望者が集まりお金を出し合い、一括で購入する——ということでまとまった。

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