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ほぉう……? 言われたトレーニングをしなかったと? ふぅん……?

   * キルトフリューグ=ソーディア=ラーゲンベルク *




「キルトフリューグ様。お手紙です」


 そんなことをつらつら考えていると、談話室にキールの侍従が姿を現した。くるりと紙を巻いて紐で結んだだけの、「伝言」程度の代物であるが、その紐の色が「金色」であるのは王室からの手紙である証拠だ。

 おお……と小さなどよめきが少年たちの口から漏れる。


「——お兄様からですかね」


 紐を解いて中を確認すると、その筆跡でジュエルザードが書いたものだとわかる。


「ええと、どれどれ……ッ!?」


 内容に目を通していったキールは、


「っ!? キルトフリューグ様!?」


 頭を抱えてしまった。


「いかがなされました!? 医者だ、医者を呼べ——」

「だ、大丈夫です……ええ、大丈夫ですとも。ちょっと、ショッキングな内容だったので……」


 白騎の生徒たちはざわざわしたが、書かれていた内容は単純なものだった。


 ——昨日、サウスロイセン州都冒険者ギルドから、騎士団を統括する白騎獣騎士団(ホワイトライダーズ)宛に「感謝状」が届いた。学園北西にある森で災害モンスターであるレッドアームベアを騎士が退治してくれた。その方は名を名乗らなかったので誰かはわからないのだが、冒険者ギルドは騎士団に心から感謝すると言っている。学園北西の森は、学園の管理下にあるため、騎士が立ち入ることはないはずだがキールに心当たりはないか? 知ってのとおり、冒険者ギルドと騎士団は険悪とは言わないまでも疎遠の仲である。白騎獣騎士団は本件を重要視しており、至急、情報を把握したいと言っている。これは関係改善の契機となるかも知れない。


 学園北西の森に足を踏み入れた学生は、キールが集めた情報によれば、黒鋼クラス1年生しかいないのである。


(ソーマくん、一体なにをやらかしたんですか……!?)


 なるべく近日中に、極秘裏に、黒鋼クラスの平民と会う段取りをつけねばならないと思うキールだった。




   * ソーンマルクス=レック *




「はーい。それじゃ、森に入る前にみんなに話がありまーす」


 先週末は、オービットのチームがハトを1羽仕留めただけだった。

 で、今週もまた同じように突貫させたところで同じ結果になることは目に見えている——ので、俺は森の入口でみんなを整列させた。


「では今日の意気込みをどうぞ」


 と、近くの男子——俺と同じ平民出身の男子に聞くと、


「絶対、鹿を獲る!」


 チームメイトたちもうんうんとうなずいている。


「ほぉ……その意気や良し。で、自信の根拠は?」

「先週はあんなふうにごてごてした装備だったから獲れなかったんだ!」


 チームメイトたちもうんうんとうなずいている。


「なるほど、自分たちが身軽になれば鹿くらい仕留められる……と」

「そりゃそうだよ。だって僕たち、これでも累計レベル100越えてるもんな」


 チームメイトたちもうんうんとうなずいている。


「ふう」


 俺は、小さく息を吐いた。


「愚か者ォッ!」

「ひぇっ!?」

「そんなことを考えている時点でダメなんだよ! 野獣のことなんもわかってないんだよ! 大体お前ら4人とも、俺が言ったトレーニング全然やってないだろ!?」

「!?」


 俺の剣幕に、その4人はたじろいた。

 すでに「健康診断」は済ませてあって、俺は全員分のスキルレベルを先週と比較していた。

 今日初めて来た女子は別だけどな。

 その結果、ちゃんと俺が指導したトレーニングをやっているヤツはスキルレベルをめきめきと伸ばしており、反対にまったくやってないこのチームみたいな連中は伸びないどころかちょっと減ってすらいた。スキルレベルの減り方はえげつないんやで……。

 スキルレベルはただの数字じゃない。100に到達したらエクストラスキルももらえるし、それだけでなくなんというか、こう……スキルが補助してくれるように感じるときがあるんだよな。頭が求めている理想の動きにさ。


「それと——マール、バッツ、シッカク、クレタ、ロッカポック、ジェイド、エディー! お前らもだ! トレーニングやってなかっただろ!」


 呼んだ7人もまたどきりとした顔をする。


「な、なんのことだか……大体俺たちは先週アカバトを仕留めた○」

「つまりトレーニングなんて必要ない◇」

「そうそう×」


 ほぉう……?

 反省するならともかく、こいつら、開き直りやがった。


「アカバトを仕留めたのはオービットの力だ。近接武器しか持ってないお前らが鳥相手にできることなんてあるわけないだろ」

「!?○×◇」

「そ、それは言い過ぎです、ソーマくん! マールさんたちがいなかったら、僕は安心して弓を撃てなかったですから!」

「それこそだ。守ってくれる人間がいればいいなら、こいつらじゃなくてもいいんだろ?」


 俺の言葉に、ショックを受ける○×◇。

 オービットはいい子なんだろうな、「そんなことありませんから。皆さんがいてくれたからこそのアカバトです」と必死で言っているが、なんかアレだな、できない息子をフォローする母親かな。


「あのなー、この野獣狩りは7月のクラス対抗戦を見据えたものなんだよ。だから、どれだけちゃんとチームメイトに向き合えるかが大事なんだ。……って言っても、言われただけじゃわかんねーか? それじゃあ——おい、お前らこっちに」


 俺はトッチョの取り巻き4人を呼んだ。

 ぐーたら貴族の彼らはあくびをかみ殺しながら出てきたが、


「この4人と今ここで模擬戦しようか。勝ったチームから野獣狩りに行ってもらう」

「「「「はぁぁっ!?」」」」


 4人は目を剥いた。

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