<< 前へ次へ >>  更新
47/115

そして、ようやく、長かった、結果発表!

 衝撃の連続ではあったが最後の学園長の魔法がいちばんショッキングでした。

 そんな学園長の建物を出ると、トーガン先生とジノブランド先生はなにか話があるとのことで——まあ怒られるんだろうね、ジノブランド先生——俺は掲示板に行けと言われた。あと「なんでスカート穿いてるんだ? まさか……」と言われたのであわてて否定した。「まさか」じゃないよ「まさか」じゃ。

 ていうかあの童顔オッサンは何者だったんだ? たぶん、高位貴族なんだよな。聞かないほうがいいわ。関わらんほうがいいわ絶対。面倒ごとはもうゴメンですぞ……(と言いながら自分から巻き込まれていくスタイル)。


「あっ、ソーマ!!」


 掲示板の周辺にいた人はだいぶ減っていたけど、それでもまだそこそこの人が残っていた。

 我が黒鋼クラスのクラスメイトたちは残っていてくれて——もう、呼び出されてから30分くらい経っていたのに、残っていてくれた。

 真っ先に俺に気がついたのはリットだった。

 ヤツはこっちにダッシュしてくると、俺の腕をつかんで引っ張った。


「ソーマ! 呼び出されたのなんだったの!? 退学!? あと成績! 見て!」

「わかったから落ち着けって! 退学じゃねーよ!」

「違うの!?」

「違う!」


 一応。


「じゃ掲示板!! 掲示板ほら早く早く!」

「わ、わかってるって! ひっぱんなよっ!」


 リットにしては珍しい——これはアレだ。うまくいったか。最下位脱出! 俄然高まる期待。これでクラス順位最下位とかだったら俺は死ぬ。


「ソーマ」

「師匠」

「ようやく来やがった」

「ソーマさん」

「呼び出しなんだった○」

「退学じゃなさそうだね×」

「またノートで稼げる◇」


 オリザちゃんをはじめ、口々に声を掛けてくる。

 3バカトリオは覚えてろよ。

 数少ない女子たちもいるし、男子たちもいる。トッチョの取り巻きやってる4人もいる。フルチン先輩は……いないな。うん、どうでもいいや。

 さすがに緊張する。なんだか足がふわふわする。

 俺の目がさまよう——あっ、黒鋼……え、6位!? 6位じゃねーかよ!? ってそれは6年生の成績だ。そうじゃなくて1年、1年、1年。


 そして俺は、1年生のクラス順位を発見した。



 ・新学年統一テスト クラス別順位・1年生・


   1位 白騎クラス

   2位 黒鋼クラス

   3位 蒼竜クラス

   4位 緋剣クラス

   5位 黄槍クラス

   6位 碧盾クラス



「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……………………」


 変な声が出た。変な声が出たよ!


「2位……………………?」


 呆然とした俺に、


「そうだよ! そうだよソーマ! 君、やってのけたんだよ~~~っ!」


 俺の腕に抱きついてぴょんぴょんぴょんとリットが飛び跳ねる。


「ったく、最後の最後までハラハラさせやがって……決闘で退学とかなってたらシャレにならないだろーが」


 オリザちゃんが相変わらずの男前を発揮して俺の頭をくしゃくしゃってやってくる。


「師匠」


 だからスヴェンは無表情のサムズアップは止めろ。な?

 とか思っていると、あちこちから手が伸びてきて俺の頭をパシッて叩いたり肩をパシッて叩いたりケツをパシッて叩いたり股間を……って誰だこれ!? 止めろォ!


「ソ、ソーマ先生! こふっ、個人順位も見てください!」


 俺が純潔を守るべくエクストラスキル「生命の躍動(ライトインパクト)」とエクストラボーナス「瞬発力+1」を発揮し、股間を狙う手から身を翻してかわしていると、ルチカがやってきた。

 個人順位! そうか、そっちも掲出されてるんだな……っていうかどうしてルチカは右手でトッチョの襟首をつかまえてるんだ? なんか君たち力関係逆転してない?


「えーっと個人順位は、と……」



 ・新学年統一テスト クラス別順位・1年生・


   1位 ソーンマルクス=レック(黒鋼)

   2位 キルトフリューグ=ソーディア=ラーゲンベルク(白騎)

   3位 ルチカ=シールディア=ラングブルク(黒鋼)

   4位 ヴァントール=ランツィア=ハーケンベルク(蒼竜)

   5位 リエルスローズ=アクシア=グランブルク(緋剣)

      :

      :



「ちょちょちょちょちょっとぉ! ルチカさぁん!」

「はい!」

「3位!? 3位って!? やばくなぁい!?」


 俺の口調もやばくなっていた。


「はい! やりました! ってその前に1位は!?」


 1位はいいんだよ1位は。知ってたから。

 応えるルチカはにっこにこなんだけど目にうっすら涙を浮かべている。

 それを見て俺もまたぐっと胸が詰まった。あー、ちくしょう、年を取ると涙もろくなるってほんとうだな。見た目13歳だけどもさ。


「がんばったもんな、ルチカ!」


 がしっ、とオリザちゃんがルチカの肩に腕を回し、ルチカも照れくさそうにうつむいた。

 なんだよなんだよー。ルチカってめっちゃ努力してるイメージあったけど、まさかこれほどまでとはよー。


「それに引き替え……」

「うえっ」


 いまだつかまれたままの襟首を引っ張られたトッチョがカエルみたいな声を上げた。


「お兄ちゃん……情けないです」

「しょ、しょうがねえだろ!」

「ん。トッチョは何位だったの?」


 俺が聞くと、トッチョが「うー」だの「あー」だの言って埒が明かないのでリットが掲示板を指差した。



   285位 トッチョ=シールディア=ラングブルク(黒鋼)



 ほーん……312人中285位ねぇ……。

 これ、当日欠席して0点もいるってことだよな? で、トッチョは285位、と……。

 ちなみに他のクラスメイトはと言うと、



   15位 リット

   21位 オリザちゃん

   45位 マール

   46位 バッツ

   47位 シッカク

   178位 スヴェン


 という感じだった。

 マルバツシカクさぁ……と俺が思っていると、


「師匠……俺は師匠の顔に泥を塗りました」


 肩を下げてスヴェンが言う。しょんぼりしているんだが顔は無表情なんだよな。


「なに言ってんだよ。お前、最初は勉強からっきしだったじゃん。それがここまで上がったんだからすごいよ」

「師匠……」


 フォローした俺を、目を潤ませて(無表情)スヴェンが見てくる。

 他にも50位以内に結構な人数が入り込んでおり、ほとんどが2ケタ、悪くとも100位台だった。

 これが2位クラスの実力やぞ!


「あ……」


 リットがあらぬほうを向いて声を漏らした。

 その視線を追うと——。


「こんなの、イカサマですわ! 黒鋼クラスが2位なんて、どんな不正を働いたんでしょう!?」


 グーピー先生が掲示板を指差してわめいており、それを他の教員が押さえ込んでいた。

 先生は俺がここにいたのに気がつくと、


「まぁ、あなた!! よくもまあイカサマをしておいてのこのこと出てきましたわね!?」


 いっそう甲高い声を上げた。


「……学園のテスト結果をイカサマだって即座に断じることができるグーピー先生は、きっとイカサマをしようとしたことがあるんでしょうね」

「なっ!?」

「俺はこのテストの正統性を信じてます。むしろ白騎クラスに負けたのが悔しいくらいだし」


 そう言ってやると、我がクラスメイトたちは「止めろォ!」とか「もうこれ以上は勉強したくねえ」とか「お姉様ぁ!」とか口々に悲鳴を上げているがさりげなくオリザちゃんに抱きついている女子が百合百合しい。

 グーピー先生は憎々しげに俺を見ていたが、


「約束、覚えてますよね? 担任、変わってください」

「んまぁ! なにをわけのわからないこと言っていますの!? 決闘を汚し、罪もない貴族の子女を卑怯にも不意打ちしたあなたこそ退学になるべきでしょうが!!」

「……もしかして、約束守らない気?」

「約束ぅ? なんの話だかさっぱりわかりませんわ!」


 ……このクソ女、自分が負けたら約束を反故にする気かよ。

 俺が頭に来て一歩踏み出そうとしたときだ。


「来週以降、グーピー先生には碧盾クラスを外れていただくことになります」


 柔らかいながらもハッキリとした声が聞こえてきた。

 そこにいたのは白いブレザーの集団であり、声を発したのはその中央にいた天使——じゃなかった、キールくんだ。


「こ、これはラーゲンベルク様」


 キールくんには、生徒であろうと腰を折って礼を示すグーピー先生。


「しかしですね、覚えのない担任交代などと……オホホホ、そんなもの受け入れられるわけがありませんわ」

「そうですか? 私の耳にはグーピー先生の担任交代と、ソーンマルクスくんの退学を賭けて勝負をしたと聞こえていましたが」

「まさかまさか、そんなことはございません。ワタクシは男爵家の娘、まさかまさか平民と賭けなどとは……」

「黙りなさい!!」


 矢のような鋭い声にグーピー先生は「ヒィッ」という声を上げ、俺は小便を漏らしそうになった。

 キールくんが、キールくんが、怖いよ!?


「……貴族たる者、己の言葉には責任を持ちなさい。『その血をもってではなく、その行いをもって自らの(たっと)きを示せ』とは開国の祖、初代クラッテンベルクの言葉です。今のあなたのどこに、貴族としての貴き振る舞いがあるのですか」

「そ、そ、それは」

「今回の成り行きは公爵家も注目しています。ゆめゆめ、己の言葉に反することのなきよう」

「あ、あ……」


 がくりとその場で膝をつくグーピー先生。

 それくらいキールくんの視線は厳しくて——。


 俺は初めて、心の底から、貴族ってのは恐ろしい生き物なんだと実感したんだ。


外郎売なんて誰も知らんわっていう。

<< 前へ次へ >>目次  更新