スキルはウソをつけない
素敵なレビューをいただきました。ありがとうございます!
いやー……最近もう、スパムのレビュー食らってヒナプロさんが「削除したやで」ってメールくれたり、なんか無駄に「俺なんか悪いことした?」と冷や冷やしていたりで精神摩耗していたのでとてもうれしいです。
今後とも学園騎士をよろしくお願いします。
* リット=ホーネット *
深夜のベッドでひとり、リットは悶々としていた。あまりの情報に頭が働かなくなっていたと言ってもいいかもしれない。
(あいつ……なんなんだ)
カーテンの向こうからはスヴェンの規則正しい寝息と、時折いびきが混じるソーマの寝息が聞こえてくる。
(スキルレベルを小数点第2位まで確認できるユニークスキル? さらにはエクストラスキルやエクストラボーナスまで見られる? そんなの前代未聞じゃないか!)
いやそれよりも、
(スキルレベル4ケタ超え? あり得るの、そんなの!? でも確かにソーマの言うとおり、0.01ずつ上がるのを確認しながらトレーニングを積めば、レベルを上げていくのはぐっとたやすくなる)
スキルレベルが「上げにくく下がりやすい」というのはよく知られた事実で、だからこそ学園の騎士見習いたちは自分の武器を1つに絞ってトレーニングする。
スキルレベルが下がることをなによりも恐れる人が多いのだ。逆に言えばスキルレベルのもたらす恩恵——エクストラスキルやエクストラボーナスがすごすぎるとも言える。
だけれど、ソーマのやり方ができれば複数の武器を訓練できる。そうなれば多くのエクストラスキルやエクストラボーナスを手に入れられる。
現にソーマは、そうしているらしい。
(あいつはあの
それは、リットにはあまりにもショッキングなことだった。
誰もが手をつけたがらなかった——むしろ貴族たちにとっては「厄介者の収容施設」と位置づけられているのが黒鋼クラスだ。
オリザは少々ひねくれているだけだったが、トッチョなんてわかりやすく「ダメ貴族」だし、トッチョにくっついている取り巻きたちもそうだ。
なのに、ソーマは。
(アイツは、ほんとうにレベル1,000を超えていたんだ……! それなのにボクの言葉に
初めてリットに、重い罪の意識がのしかかってきて布団を頭までかぶる。
この部屋で出会ったあの日、ソーマの言うことを信じて彼をトーガン先生のもとへと送り出し、その結果、彼が蒼竜クラスにでも入っていたら?
(ボクは……
もっとずっと大人だったらリットはいくらでも言い訳できただろう。「結局決めたのはソーマだから」だとか「公正の天秤が決めたんだから自分のせいじゃない」だとか。
でも、リットもまた他の生徒と同じ13歳なのだ。
(……せめてわたしは、ソーマを応援しなきゃいけない……のかな)
リットのスキルレベルも確認してもらったが、累計レベルしか知らなかったリットはそこで初めて自分のスキルレベルを確認できた。
【剣術】 45.92
【弦楽】 35.19
【舞踏】 22.42
【馬術】 19.13
【防御術】 18.24
【詐術】 15.33
【筆写】 2.91
累計レベルは159.14であり、入学式のときに測定した結果から少々
——剣とか他の訓練を全然してないだろ? すぐに下がるぞ。
ということだった。確かにこの1月以上は舞踏や馬に触れていない。
だがいちばん気になったのは【詐術】だ。
(もしかしたら……これは元は【化粧】だったのかもしれない。それが、ソーマたちを……ここにいるみんなを騙すために念入りに練習したから【詐術】になった……)
この【詐術】を見たときには息が止まる思いだったが、ソーマはそれについてなにかを言うことはなかった。ただぽんぽんとリットの頭を叩いただけだ。
その叩き方が優しくて、今思い出すと泣きそうになる。
彼を騙している自分が、たまらなくつらかった。
* ソーマ *
「ソーンマルクス=レック」
と声を掛けられた俺が振り返ると、相変わらずライオンみたいなベジー……じゃなかった、前頭葉先生がいらっしゃる。
「どうしました? ここから実践トレーニングですよね?」
今日は実技の授業なので前頭葉先生が「剣」の扱いについていろいろと教えてくれたところだ。
すでに基本的な剣の振り方——これはクラッテンベルク王国の騎士がまず覚える基本形であるらしいけど、その型を10パターンほど教わっている。
今日はその防御の型を教わり、これから2人1組となって実践するわけである。
俺の相手はスヴェンだ。すでに訓練場の隅のほうへ移動し終えたスヴェンが柔軟体操をしながら俺のほうをちらちら見ている。スヴェン、鼻の穴が広がってんぞ。興奮しすぎだ。
「そうなのだが、その前にお前には話を聞いておきたいと思ってな」
「はあ……」
「決闘のことだ。お前のスキルレベルを考えるとあの動きはできない。一体どうやったんだ?」
その直接的な質問に、周囲のクラスメイトたちが俺をじっと見るのを感じた。
今日もまた太っちょくんは欠席している。他にも「体調が悪い」などと見え透いたウソを吐いている生徒——太っちょくんの
そんなサボりの生徒もまた俺を見ているのが気になるところである。
「いや、ダッシュしただけですけど」
俺が答えると周囲のクラスメイトたちはわかりやすく「ないないないない」と首を横に振った。
「ふーむ……やはりそうか」
だけれど前頭葉先生だけは納得してくれたようだ。「えー!?」って顔をみんなしているのが面白い。息が合ってるじゃないか。
「ソーンマルクス、そこそこの戦闘経験はあるように感じたが……お前は素人だな?」
「そりゃそうですよ。プロになるためにこの学園に入ったんですから」
「そうだな! あっはっはっは!」
なにが面白かったのか先生は笑いながら、
「お前は剣の動きも独自のクセがあっていかん。しっかり学べ」
「クセ……か。そうですね、ありがとうございます」
この際【刀剣術】が【剣術】にまた戻っても俺としては構わない。先生からは学べるところをしっかり学ぶつもりだ。
「それじゃやるぞ、スヴェン」
「はい! 師匠!」
俺とスヴェンが剣と剣を交え始めると、しばらくこちらを見ていたクラスメイトたちは「あれ?」みたいな感じで首を振りながら自分の相手とトレーニングを始めた。
トッチョを倒したときと比べて明らかに精彩を欠くからだろうか。まあ、あれはエクストラスキル使ってたからな。
「ぷっ。くくっ。『師匠』だってよ」
「レベル2ケタ同士でなれ合ってんのかよ」
サボり組からそんな声が聞こえてきて、スヴェンがぎろりとそちらをにらみつける。
「スヴェン、集中しろ」
「しかし……!」
「いいから」
渋々、といった感じでスヴェンは俺といっしょに型の復習をする。
俺は自分の腕に【刀剣術】のスキルレベルを表示させているが遠目だと判別できないだろう。ふむふむ……こんな振りじゃレベルは上がらないな。もうちょっと腰を入れるべきか。
「スヴェン、さっき先生が教えてくれた、右回りの防御の構えを」
「はいっ」
「行くぞ——」
ふだんの素振りでやるくらいの力で、俺は愛用木刀ちゃんを振った。
空気を切り裂く速度はエクストラスキルを使わなくとも速く、「瞬発力+1」が影響しているのがよくわかる。
ビシィィィィッッッ!!!!
すさまじい音が鳴るとともに俺の木刀が砕け散った。
「!?」
「な、なに!?」
「おいあれ——ソーマとスヴェンだ」
おっ! いいね、【刀剣術】が0.01上がったぞ! 先生から教わった型でも上がるんだ!
いやー、いい加減俺のなんちゃって剣道だけだと飽きてきたから、新たな型が加わるのはうれしいな。これでバリエーションが増えればそれっぽい騎士になれるだろう。
「ぶははは! あんな安っぽい木刀使ってるからだよ! でけー音出してびびらせやがって」
「な、なんだ木刀が割れた音かよ……」
「なにかと思った」
ん? なんだ、みんなこっちを見てたと思ったんだけど、もう視線を外してる。
「師匠……」
「おお、スヴェン。レベル上がったぞ!」
「ほんとうですか!?」
気遣わしげな顔だったスヴェンが一転して明るくなる。
「それはすばらしいですね! 愛刀も最後にいい仕事をしてくれましたね!」
「えっ? ——あっ」
木刀ちゃんが折れてりゅううううう!?