決闘開催は突然に
先生が「解散しろ」と言っていたので誰もいないだろうなと思いながら教室に戻ったのだけれど、意外なことに半分程度のクラスメイトたちが残っていた。
なんというか……ぴりぴりした空気が漂ってる。なんだなんだ、どうした?
15対15くらいで真っ二つに分かれてる。
片方は……女子がほとんどだな。オリザちゃんが先頭で、他の女子は後ろって感じ。あとマルバツシカクの3人は部屋の隅にいる。
で、反対は太っちょである。あいつ俺より先に戻ってきて早速騒ぎを起こすとか頭の中どうなってんだ?
「おーい、なにやってんの?」
「ソーマ!」
どちらにも属さないでいたリットがホッとしたように声を上げた。スヴェンを探したが教室にはいない。剣の修行ですねわかります。
「ガリ勉……お前、ルチカだけじゃなく女子全員に手を出そうっていうのかよ!」
なんか憎々しさ五割増しくらいの顔で太っちょが俺をにらんでくる。
女子に手を出すってどういうこと? 俺のストライクゾーンは少なくとも18歳以上なんですが?
「太っちょがなに言ってんのかわからないんだが」
「だから! こいつら全員がお前の授業を受けるとか言ってんのは、お前がなにか卑怯なことをやったからってことだろ!」
え。
俺氏、女子のほうを見やりつつ固まる。
「こいつら全員がお前の授業を受ける」——って、え? どういうこと?
「……ちょっと時間は掛かったけど、説得はできた」
すると人差し指でほおをかきながらオリザちゃんが言った。
はーーーーマジで!? オリザちゃんが女子全員を説得したの!? 俺の授業を受けるように、って!?
きゃあああ男前過ぎる! 俺が女なら惚れてるね!
「オリザちゃああああん!」
「か、勘違いしてんじゃねーぞ!? お前はアタシの子分だからな! 子分にみじめな思いをさせないのがアタシの役割だろうがっ。それに仮にも入試1位なら話を聞いてみる価値もあるかもなって思っただけだ」
「うんうん! 俺オリザちゃんの子分でいいわ! 足舐めようか?」
「死ね! 少なくとも2度死ね!」
オリザちゃんが顔を真っ赤にして反撃してくる。かわいい。でもこの「かわいい」はあくまでも小さい子に対する「かわいい」なのである。
「フザけんな! 俺は認めねえからな!」
するとなにを怒ったのか太っちょがブチ切れている。
「ははーん、太っちょ。お前、オリザちゃんが好きなんだな? それなのにオリザちゃんは俺のことばっかり構うからキレてるんだろ」
「は? ちげーよ、俺は……」
と、ちらりと女子のひとりに視線を投げた。オリザちゃんじゃない、別の誰かだ。
ほうほう、ほーん。なるほどねえ。
「別に俺は女子に手を出したりしない。授業だけだと約束してもいいぞ。そうしたらお前はどの子にアタックしてもいいってわけだ」
「……っざけんじゃねえ! 平民が上から目線で語ってんじゃねえよ! あの教師もお前もムカつくぜ!」
ん? ジノブランド先生のことか? あれ、もしかしてジノブランド先生って貴族じゃないのかな。
「でも太っちょ、お前これ以上問題起こしたら退学だぞ?」
「うるっせえ! これなら『問題』にならねえよ!」
すると太っちょは、腰に吊っていた模擬剣を引き抜き、切っ先を床に刺した——正確には刺そうとしてカツンと弾かれた。
「トッチョ=シールディア=ラングブルクの名をかけて、ソーンマルクス=レック、お前に決闘を申し込む」
「いい加減にしなよソーマ!? 意地張ってるのかもしれないけどさ、決闘ってのは事故で命を落とすこともあるんだよ!?」
トッチョたちが去っていった教室で、リットが大きな声を上げる。
残っているのはリットとオリザちゃんだけだ。
こんなふうになっては授業どころではないのでルチカは他の女子たちに保護されながら寮に戻ったようだ——あんなのと兄妹なのかと思うとルチカはかわいそうだなあ……。しかも年子か双子ってことだよな。
「ソーマ聞いてんの!?」
「あ、悪い悪い。いや大丈夫だよ。負けるわけないし、ケガだってしない」
「~~~~!!」
ぷるぷると震えたと思うと、リットは、
「レベル12のくせに、なに威張ってんだよ!! もう勝手に死ね!」
と言って教室を出て行ってしまった。
ありゃりゃ……でも「ほんとうは累計レベル1,000オーバーなんだ」って言っても絶対信じてくれないもんなあ。
「……ソーマ、お前なあ、リットがあんなに心配してくれてるのにあの態度はなんだよ?」
オリザと書いて男前と読ませるオリザちゃんがため息交じりに言う。
「いやあ……リットも意外と頭が固いって言うかさ、でも大丈夫だよほんとに」
「ふーん。お前、アタシの蹴りを止めたもんな。アレどうやった? 守護の
なにその便利っぽいアイテム名。
「俺がそんなの持ってるように見える?」
「授業を再開させるくらいの金は持ってるんだろ」
「なるほどそう来たか。とりあえずそんな感じの理解でいいよ。だんだんみんなもわかってくれるだろうし……」
この世界、というより騎士の世界で累計レベルってのは大事なんだよな。それだけに俺がいくら声高に1,000オーバーだ! って言い張っても誰も信じてくれないだろう自信がある。
「それよりオリザちゃん、決闘のルールとか教えてくれない?」
「……お前なぁ、それも知らずに受けたのかよ」
さらに深いため息を吐くオリザちゃんだったが、それでもちゃんと教えてくれるところがかわいい。
決闘は1対1で戦う貴族の文化であるという。俺は平民なんですけどねぇ? と思ったが、この学園にいる時点で騎士の予備軍なので対象内なんだって。平民扱いしたり貴族扱いしたり忙しいことである。もうちょっと気楽に生きようぜ、みんな?
決闘場、というものが学園内にある。で、そこで戦うんだが、相手が参ったと言うまでは勝負は続行……「1対1」以外にルールはない、なんていう「バーリトゥードかな?」と言いたくなる至極わかりやすいルールだった。
「だからこそ、相手の喉をつぶして『参った』を言えないようにしてやり過ぎたりすることもあるんだよ」
「へぇー……あの太っちょ、見た目に反して悪辣だな」
ただのデブかと思っていたよ。
「あ、そこまでラングブルクが考えているかはわからないけどな? そういう可能性もあるってこと」
「それだけわかれば十分だわ。ありがと、オリザちゃん」
「こんなん、たいしたことじゃねーよ」
「あと女子たちを説得してくれてありがとう」
俺はこちらは本気でオリザちゃんに感謝していた。深々と腰を折って礼をすると、オリザちゃんがあわてた声で、
「ちょっ、なに、どうしたんだよ!? 急にそんな」
「オリザちゃん。俺はこのクラスの全員が2年生になれるようがんばるよ。トッチョだって例外なくね」
「お前……マジなんだな」
「ああ」
彼女をしっかりと正面から見つめると、彼女も真剣なまなざしを返してきた。
「だったらアタシの目標と半分は合致してるってわけだな」
「半分?」
「アタシは、女子全員を脱落させないってのが目標だから」
「そうなの?」
「ああ。ウチは貴族にしちゃ珍しい正妻ひとりから生まれた大人数の兄妹でさ。全員仲良しなんだ。だからこのクラスのみんなとも——」
と、そこまで言いかけて、
「ってなに言わせんだよ! バカ!」
俺の肩を思いっきりどついてきた。
あらあらぁ、そうですか、オリザちゃんはそんなふうに温かい心を持っていたんですねえ。
「お前! なにニヤニヤしてんだよ! 死ね! 少なくとも2度死ね!」
「オリザちゃん……ほんとうは仲良くしたいと思ってる相手に、死ねとか言ったらダメだよ?」
「お前ぇぇぇぇぇ!」
真っ赤になってブチ切れたオリザちゃんが
今日のオリザちゃんのパンツはピンクのレースでした。
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