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03-29

 皇女さん達に関してどうしたものか、数日悩んでいる。


 ≪金剛城(こんごうじょう)≫クルーで渉外関係を担当しているのは基本的にムチムチ美人さんで、彼女を中心としてその時々で何人かが手伝う形でやってきた。

 しかし、いつも中心を担うムチムチ美人さんにしても、公的機関の受付窓口業務を経験したことがある程度でしかなく、そもそも専門の訓練を受けたりしたわけではない。ムチムチ美人さんは大体何でも一通りこなせるくらいハイスペックってだけだ。


 その点皇女さん達は、言語によるコミュニケーションを前提とした交渉を有利に進めるための訓練を受けているらしい。得意不得意の差はあれど、全員がしっかりとした訓練を受けているそうだ。


 先日俺が皇女さん達と初めて顔合わせをした際にそういうのを最も得意とする代表皇女さんが微笑みを引きつらせていたのは、実地経験の不足と事故みたいなものだって誰かが言ってた。

 ギフテッドとなり複数の有人惑星を抱える恒星系を実効支配する怪人……みたいな事前認識だった人物が人畜無害な凡人。その上人畜無害の帯同してきた人員が会談の場で寝たり手遊びしたり打合せの内容を投げ捨ててさっさと閉会させようと好き放題してた所為であって、代表皇女さんは精いっぱい頑張っていたとムチムチ美人さんがフォローしてた。

 その時のムチムチ美人さんが、面倒な仕事に対する盾を逃がすまいと必死だったように見えたのはきっと気のせい。


 皇女さん達を≪金剛城(こんごうじょう)≫の渉外担当チームとして受け入れるのに不満も不安もない。

 なんか良くないこと始めたら無機質美人のホログラムや機械的知性達がすぐ気づくだろうし、そのタッグをかいくぐれるほど優秀なら俺が気に掛けるだけ無駄だ。

 俺は、いざというときに俺と一緒に来てくれる人たちと脱出できる用意だけ整えておけばいい。


 皇女さん達を受け入れる明確なデメリットというのは皆無だと説明されている。

 せいぜい、俺の後宮として認識されている≪金剛城(こんごうじょう)≫に女性が住むと、まあ、端的に言えば俺と特別親しかったと新エルフ星のある恒星系の住人に思われたり、≪金剛城(こんごうじょう)≫を降りて惑星なりに移住した際そういう立場の人だったという先入観を抱かれるくらいのものだ。

 それってめっちゃデメリットじゃないのかと俺は思うんだが、≪金剛城(こんごうじょう)≫クルーの女性陣も皇女さん達もそこまでじゃないと口を揃えて言うので、そんなもんなのかと納得いかないまま引き下がるしかない。


 そんなわけで、皇女さん達がイマイチ宙に浮いたような状態になっているのは俺の感情的な問題でしかなかったりする。


「どないしよ」


「とりあえず1回スッキリしてみたら良い案が浮かぶかもしれません」


 シアタールームでダラダラする俺の世話を焼いていた奉仕過激派系の子が、食い気味に自分の意見を多分に含んだ提案をしてくる。完全に否定できない意見だと感じるのが厄介だ。全く別のことに集中してみれば、案外こういう悩みは簡単に解決したりする。


「完全に無関係かというとそうでもない絶妙なところですね」


 リーダーさんが真剣に悩む表情で何か言うてらっしゃる。

 皇女さん達の扱いと奉仕過激派系の子の提案の関係性について意識を向け、すぐにあまり考えない方が良いという賢い部分の俺が視線を逸らさせた。

 皇女さん達を≪金剛城(こんごうじょう)≫クルーとして受け入れるかどうかと、奉仕過激派系の子の私欲交じりの提案は無関係である。少なくとも俺はそう認識したことになった。


「あ、伴侶として皇女様達を受け入れるなら明確なデメリットがあるよね」


 ホロウィンドウをいじっていたぎしゃーさんが、俺の判断を傾けかねないことを何でもないかのように呟いた。


「というと?」


 明らかなデメリットがあるなら感情論的に拒否したい気持ちを肯定できるかもしれない。


「明確なって言っても大したことじゃないよ。君が言うところの『特別親しい関係』じゃなくても≪金剛城(こんごうじょう)≫クルーになれるなら、自分も自分もって売り込んでくる人が今までよりも急激に増えそうだなって思っただけ」


 間。


「え、今までもそういう人達がいたってことですか」


 思わず敬語になるくらい驚いた。


「え? ……ああ、そっか」


 ぎしゃーさんの視線が生ぬるい。

 いや、他の3人の視線も生ぬるい。


「さすがに、有人惑星の所有者として知っておくべきことを勉強しましょうか」


「あ……」


 必読のタグがついたデータをしっかり読んでも理解できてないまま放置してたのがバレたのかこれ。

 この場で唯一ダメな感じに俺を甘やかす系な奉仕過激派系の子に視線で助けを求める。


「主たるにふさわしい知識と教養を学ぶお邪魔などいたしませんとも。慰労はお任せくださいませ」


 いつもは俺に甘々だが譲れない一線のようだ。

 はい。ちゃんと勉強します。


 リーダーさんとぎしゃーさんが手早くカリキュラムを構築しているのを眺める。

 今は渉外担当チームとして頑張ったリーダーさんの慰労期間なんだけどいいのかなとか思わなくもない。でも当人が楽しそうだし俺がわざわざ休めっていうのもおかしいしという葛藤。


 明確に受け入れるか否かを宣言するタイミングを逃してしまったが、もうなし崩しに皇女さん達が≪金剛城(こんごうじょう)≫クルーになるのだろう。

 ま、細かいことはいいか。なるようになるさ。ハハ。

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