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03-28

「この度は我々を保護してくださり、誠にありがとうございます。加えて、我々の不手際により多大に……それはもう多大にご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます」


 精神的なストレスが多大な役目を終えたばかりだというのに、先輩さんが進んで熟してくれた皇女さん達の意識調査というのか、進路希望調査というのかに区切りがついたと連絡を受けた。

 ならば早速と≪金剛城(こんごうじょう)≫クルーが何名か同席する初顔合わせの場が用意されて、皇女さん達を代表した皇女さんの言葉に続き皇女さん達全員が深々と俺に頭を下げた。

 居心地悪いぃ。


 代表皇女さんの隣にいる先輩さんが少し不安そうな顔で俺を見ている。

 そろりと先輩さんから視線を逸らすと、お茶とお茶請けを用意して待機中の白手袋擦り合わせる拳の鋭い子がぐっと拳を握って俺に見せている。拳で俺に何かをしろと言うのだろうか。

 先輩さんを中心にして白手袋擦り合わせる拳の鋭い子の反対側へ視線を向ける。テーブルにでろんと突っ伏して寝ているしなやかスレンダーさんの後ろに立ち、しなやかスレンダーさんの両手首をそれぞれの手で握り、腕を上に伸ばさせた状態でぶらぶらさせている掴み所がない四女エルフさんが居る。しなやかスレンダーさんは相変わらず関節が柔らかい。マジで何してるんだあれ。


「感謝と謝罪を受け入れます。まずは腰を下ろして、お茶を一杯飲みましょう」


 他に何を言えと。あとこれお茶じゃないよね。金属光沢のある液体だ。前に飲んだ似たやつが何色だったかは覚えてないが、今回のうっすら発光している黄緑色の金属光沢がある液体は……舌に乗った直後はガツンと甘いのに後味ピリッとして不思議な感じ。最後ピリッとしてるのが人体に害があるからじゃないことを信じる。


 部屋の奥側の椅子に座ってぼうっと待っていた俺に対して部屋に入ってくるなり謝意を告げた皇女さん達が、漸くテーブルに就いてくれたことで俺もちょっと落ち着けた。

 お茶を飲んだりお茶菓子摘まんだり。誰も何も言わない。

 俺が何かしなくちゃダメなのかもしれないが、やっぱり何をすれば良いのかもわからない。

 先輩さんにチラッと視線を向けて助けを求める。


「正直もう本来の目的を9割くらい果たしたのでお開きにしちゃいますか?」


「え……?」


「そうなんですか?」


 皇女さん達の中で一番若いっぽいというか幼い1人が愕然とした顔だけど、俺はそんなものは見ていないので先輩さんの提案に乗り気だ。

 そもそも、なんで俺は直接顔合わせなくちゃいけないと思ってたんだろうか。先輩さんが面談してくれるって言ってくれた時に全権委任して良かった気がする。


「どうしても一言謝罪をしたいとのことでしたし、一回会ってみるつもりみたいだしで丁度良いかなと機会を作っただけですし」


 代表皇女さんの表情や仕草からは何も読み取れないが、一番幼い皇女さんが俺や先輩さんや代表皇女さんの間で視線を右往左往させている。

 他の皇女さん達もよほど気が動転してるのか、さっきまで物音一つなかったのに今はカップがソーサーと擦れるかちゃって音が聞こえたりする。

 そういえば、皇女さん達の飲み物はソーサーに乗ったカップに入れられてるんだけど、≪金剛城(こんごうじょう)≫クルーは俺も含めてタンブラーに入れてるのは良いのかなこれ。趣味の違いってだけかな。


 じゃあ解散しようと言おうと思ったら、一番幼い皇女さんが俺に一言断り先輩さんを部屋の隅に引っ張っていった。

 話が違うとか、アピールできてないとか、全体で協力してくれるはずとか、ちょいちょい漏れ聞こえてくるのはワザとなのか興奮し過ぎて視野が狭くなってるだけなのか。

 さすがの代表皇女さんもちょっと微笑みが引きつり始めてる気がしなくもない。他の皇女さん達は目を瞑った虚無顔だったりちょっと俯いていたりと、内心が窺えるようなそうでもないような。


 一方の≪金剛城(こんごうじょう)≫クルー。

 白手袋擦り合わせる拳の鋭い子は給仕に徹しており、たまに俺と視線が合うとにこっと笑ってくれる。半分くらいの割合で握り拳が添えられていなければ癒される。拳が力強過ぎる。

 掴み所がない四女エルフさんは、相変わらず寝ているらしいしなやかスレンダーさんの口元にお茶請けを運んだりタンブラーにさしたストローを宛がったりしている。餌付けかな。しなやかスレンダーさんは寝てるのに飲み食いしてるのかな。


「実はですね――」


「皇女様達は有能だから、≪金剛城(こんごうじょう)≫の渉外担当として何人か引き抜きたいって話になってたよ。なんなら全員でも良いんじゃないかって」


 一番幼い皇女さんと話がついたらしき先輩さんが何か言いかけたら、唐突に体を起こしたしなやかスレンダーさんが結構大事なことをぶっちゃけた。先輩さんがちょっと困った顔してる。代表皇女さんは完全に微笑みが引きつってる。


「――それは何一つ間違ってませんけど、もう少し段取りとか気にしましょうね」


 しなやかスレンダーさんをやんわり注意した先輩さんだが、しなやかスレンダーさんは珍しくきりっとした顔でタンブラーのストローを咥えてるので多分聞いていない。

 ふと、掴み所がない四女エルフさんはどこへ行ったのかと思ったら、白手袋擦り合わせる拳の鋭い子を捕まえて2人で両手の指を絡めて何かしている。転んだら2人とも全ての指を複雑骨折しそうな状態で皇女さん達の方へ歩いて行き、更に2人を巻き込んで更に奇怪なオブジェを4人分の指で構築している。眺めていると頭がかしくなりそうなオブジェなので本能の危機感に従い視線を逸らす。見てるだけで指の骨が折れそう。


「前向きに善処を検討すべく持ち帰らせていただきたいと上に掛け合えたら良いなと思います」


「とりあえず皆≪金剛城(こんごうじょう)≫に居て良いって。良かったね」


 いつの間にか皇女さん達とフレンドリーになってる掴み所がない四女エルフさん。

 あれ? でもこれって後宮扱いの≪金剛城(こんごうじょう)≫になし崩し的な定住を受け入れたことにならない?

 まあ、クルーの皆が受け入れているし良いのか。別に俺と特別親しくなりたくて≪金剛城(こんごうじょう)≫に居たいってわけでもないだろう。

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