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03-27

 さくっと帝国宙軍総旗艦【強襲戦艦オルシャネウス・オルシア】内の全員の意識をダウンさせ、一部のまともな皇女のみを回収保護。残りは帝都を脱出したあたりからの記憶を適当に書き換えて、帝国で購入した帝国製の適当な船に乗せ換え帝国の適当なところへリリース。


 これにて帝国宙軍総旗艦【強襲戦艦オルシャネウス・オルシア】に乗っていた人達を巡るゴタゴタはつつがなく解決と相成った。

 今のところ差し迫った問題はないが、早めのうちに保護した皇女さん達のこれからを決める必要があるのがちょっと面倒くさい。


「確かに差し迫った要件ではありませんが、その……こう……城舟の君とあまり親しくない人物を≪金剛城(こんごうじょう)≫に乗せているわけにもいきませんので、できる限り早くこちら側の姿勢を示し、その上で当人に身の振り方を決めて貰わなければなりません」


 お疲れ気味の渉外担当チームに引っ張られているのか、なんとなく暫く休んでも良いんじゃない気分で疑似恒星光のサンルームでダラけていた俺を苦労人ぽい三女エルフさんが叱咤する。叱咤ってほどでもないか。正論だもの。正論なのか?


他所(よそ)の人をあんまり≪金剛城(こんごうじょう)≫に置いておかない方がいいんですかね?」


 俺の的外れでもないだろう疑問に対して、宇宙空間に生身で出ていこうとする人を目の当たりにしたかのような表情を見せることで答えとする苦労人ぽい三女エルフさん。

 その場にいた駐在エルフさんと大きい方のダブルで一番さんとゆるくてふわふわさんと視線で会話し、何らかの合意に至った模様。


「なんと言いますか……新エルフ星などで≪金剛城(こんごうじょう)≫がなんと呼ばれているか覚えていますか?」


 駐在エルフさんの質問は、直接こういう意味ですよって教えてくれないあたりに自分で言いたくはないなーって空気を感じる。

 俺は曖昧に見えるよう意識して首を横に振る。前に聞いた覚えはある。聞いた中身は覚えていない。いつものことだ。それにほら。本当に必要で誰も教えてくれないなら、インプラントデバイスのログ漁れば何か引っかかるでしょ。俺の独力だと見つけるのにどれだけ時間がかかるかわからないけど。


「これは私たちの口から言うのは躊躇われるというか……」


 当然とばかりに俺を抱え込んで胸部のクッションを俺の両肩に乗せている大きい方のダブルで一番さんも、苦労人ぽい三女エルフさんと駐在エルフさんと同じスタンスらしい。


「『後宮』って呼ばれてるんですよー」


 ごろごろっと転がってきてびよんと腕を伸ばすゆるくてふわふわさんが、特に思うところもない様子ですぱっと切り込んできた。

 海月由来人種(ヒトしゅ)のゆるくてふわふわさんは体の触り心地が俺自身のそれとは別物なので、こうも掴みやすくアピールされるとつい握ってしまう。にぎにぎ。


「確かに前に聞いた覚えがある。まあ、でも実際≪金剛城(こんごうじょう)≫のクルーって俺以外は俺のパートナーか機械的知性達しかいないし、間違いってわけでもないよね」


 恋人とか妻とか伴侶とか呼び方はいろいろあるけど、その辺は相手方の趣味に合わせる所存。

 前は奥さんと呼ばれたい派が多かったものの、最近はやっぱり恋人の方が初々しい感じが良い派と、奥さんよりは伴侶の方が実態に即しているし伴侶の方が良いよ派の2大勢力と化している。

 初期からある意味一貫しているのが、1名しかいない()が眷属派。でも近頃は『 (お前は) ()が眷属』ってよりも『(われ)が (お前の) 眷属』みたいになってる気がするので一貫していると言えるかは微妙かもしれない。


 パートナーどうこうで思い出したが、家族計画はどうなったのだろう。俺のパートナー側で意見をまとめた後に俺を交えて話し合うのがよさそうって区切りをつけて数年経ったような、そんなに経ってないような。

 いいタイミングで思い出したら誰かに聞いてみよう。受精卵はもう大量に保存されているそうだし、下手をすれば10人単位で走り回っているのを見つけて、遅まきながらにもう生まれてたのかとかなりかねない。俺からの俺に対するこの信頼感。


「それで、後宮に皇女さん達がいると何かまずいのかな」


 疑問を口にした俺に返される、知性を不安視する視線パート2。今度は何がだめだったの。

 今のところは帝国宙軍総旗艦【強襲戦艦オルシャネウス・オルシア】から居住用コンテナに移動してもらって、ドックに放り込んだまま休養という(てい)で放置してるはずだ。

 帝国宙軍総旗艦【強襲戦艦オルシャネウス・オルシア】も≪金剛城(こんごうじょう)≫のどこかのドックで整備されているのだったか。

 現状の把握は完璧だ。たぶん。


「『後宮』に居る男性が1人のみなら、その男性は『後宮』の主と見做されます」


 俺を除いた面々が視線でなのか秘匿回線でなのか相談した結果、呆れ顔の大きい方のダブルで一番さんが渋々説明役を任されたようだ。


「この場合は俺ですね」


「はい。では、『後宮』にいる女性は『後宮』の外の人々にどのような立場として見られますか。はぁ……」


 溜息疲れてしまった。でもさすがにそれくらいわかるわー。


「そりゃあ、この場合は俺のパートナーとして見做される――あ……」


 皇女の件を棚上げして時間が経ち過ぎると、新エルフ星なりへ移住した時に俺が飽きて放り出した感じに思われるのか。

 不本意なのでそれはちょっと嫌だ。早急に面談なりしないといけない。


 ん? 面談って俺がするのか?

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