03-25
渉外担当チームが我慢の限界を迎えて弾けた。
帝国宙軍総旗艦【強襲戦艦オルシャネウス・オルシア】に乗っている集団に対して、集団としての意見を統一してから連絡を寄こせと通達して回線を遮断。向こうからの接触は無視している。半年くらいそのままにしておけば何か変化があるんじゃないかとの見通しだ。何も変わっていなければまたそのまま半年放置することが決まっている。
≪金剛城≫クルーの総意として、あんな連中の相手をよく2ヶ月も続けられたと渉外担当チームを賞賛した。
具体的には、1か月の間はそれぞれが俺の複製身体を1体ずつ独占できる権利が授与された。俺も納得し、毎日労わせていただいている。
頭痛の種はいったん棚上げし、解析や再現どころかいつの間にか応用技術の構築も完了していた便利梱包材を使ってみんなで遊ぶことにした。
いつぞやの異次元における採集強化期間で探検ごっこをやった際に回収された、紫色の水晶のような透明な梱包材。
すさまじい強度のくせに専用の機材さえあれば噴霧塗装すら可能で、その場合の強度も光速でアステロイドにぶつけるくらいなら傷一つつかないほどの安全性。そこまでだと逆に安全なのだろうか疑問を抱く。
びっくりしたのが、この梱包材を応用した塗装剤で≪金剛城≫がすでにコーティングされているらしいということ。色はできる限り無色に近いそうだ。
この梱包塗料を厚さ10メートルほど塗り重ねた現在、シールドを展開せずともマイクロブラックホールをぶつけられたくらいじゃ小動もしない。
でも、新エルフ星のある恒星系やらの警備隊に配備している【鹵獲用艦載爆撃艇エイセティス】の基本武装である亜次元振動爆裂弾は勘弁な。あれは梱包塗料の中身が直接影響を受けるので、下手をすると≪金剛城≫の形に梱包塗料が残ったままその中はスクラップって事態になりかねない。
シールドを展開しておけばそんなことは起こらないけど、だからこそシールドの状態には気を使おうと意識を新たにした。
≪金剛城≫に使われていた件はさておき、今はオモチャとしての梱包塗料だ。
これのすごい点は、専用機材を使わないとエネルギーが吸収拡散されてしまうという点。これをどう活かして遊ぶかといえば、専用の一室を用意して壁床天井の全部に梱包塗料を塗布する。
歩こうとするエネルギーが全部床面の梱包塗料に吸収拡散されて変な恰好で固まる。歩けない。というのを楽しむ予定だったが、立てない。少なくとも俺やエルフ姉妹さん達は全然立てない。床にべたっと腹這いになって腕で体を引っ張ろうとしても摩擦がないから手が滑る。床を蹴るんじゃなくて、前に出した足を床に置いてから体を傾けて後ろの足を浮かせて引き寄せるとか言われても無理無理。まず立てないんだって。
「う、ううう。私これ苦手かもしれないわ」
普通に立って歩いている癖に何を言っているのかふわふわヘアーさんは。苦手というのは俺やエルフ姉妹さん達のように転がっている状態を指すのだ。
「体幹のトレーニングを思い出します」
悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子はどんよりした顔で覇気がない。過去のあまり楽しくない記憶が刺激されている模様。
「これ、球状に固めたら美味しそうなんだけどなぁ」
ツルスベさんが食欲を刺激されているが、鉱物ではないらしいのでやめてください。あと個人的には球状よりも立方体の方が美味しそうに見える。
「実は歩くよりも滑る方が楽しいんじゃないかな」
転がっている俺の目の前を、ギフト化幼馴染殿がスイーっと滑って行った。元の運動能力は俺の同じくらいしかなかったくせにー。声を大にしていっちゃうと俺もサイボーグ化すれば良いじゃんとなりかねないので黙っておく。
俺としては別に俺自身の改造手術も吝かでないが、ムチムチ美人さんなど素のままの俺が良いという人達が多いので配慮が必要。というよりも、別にサイボーグ化手術を受けてもいいってだけで進んで改造手術しようって程でもない。
梱包塗料で塗装された部屋では、歩く派と滑る派で分かれて梱包塗料で塗装された一抱えほどあるボールを投げ合い始めた。
参加している面々が慣れるごとにボールは増やされるし小さいのと大きいのとバリエーションが増えていくし、瞬く間に全員が常に1つはボールを持っているのに大小様々なボールが飛び交い続ける戦場と化した。
悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子はあっと言う間に戦場についていけなくなったので、旧エルフ星出身のエルフじゃない組でまとまり早々に離脱。俺やエルフ姉妹さんたちのそばに来て立てない組のお世話を始めた。
どうやっているのか分からないがふわふわヘアーさんはジャンプを織り交ぜるようになり、たまに集中砲火を浴びて撃ち落とされている。実際にはボールはぶつかっても痛みも衝撃もないんだけど、撃ち落されるという表現が適切な絵面だ。
ツルスベさんとギフト化幼馴染殿は戦場の真っただ中でボールを掴んでは投げて掴んでは投げている。
梱包塗料で塗装されているボールはどれだけの勢いでぶつかっても梱包塗料にエネルギーが吸収拡散されるため安全。そのはず。
どういったルールになったのか、そもそもなぜボールを投げ合い始めたのかさっぱりわからないが、なんか皆楽しそうだし良いんじゃないかなと思う。
俺は旧エルフ星出身のエルフじゃない組の3人に引っ張ってもらって床を滑るので忙しい。
勢いをつけてから手を離されるとマジで怖いのでやめてください。