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03-20

 いざ深深度亜次元の探索へという雰囲気になるべきなのだが、≪金剛城(こんごうじょう)≫は帝国の諸勢力に見つからないようずっと亜次元潜航状態にあるのでなんとなく上手く区切れない。

 更に言えば、今回の深深度亜次元探索旅行の副目標の亜次元適応人種(ヒトしゅ)の故郷である惑星も結構前からセンサー類で捉えているのもあり、こう……端的に言えば盛り上がりに欠ける。

 異常高重力恒星系のように、なんかよく分からないけどなんか普段と違うって不思議な感覚もないし。


 だがしかし、ちゃちゃっと亜次元適応人種(ヒトしゅ)の故郷の惑星をサルベージして新エルフ星のある恒星系へ送ってしまおうとしたところ、この惑星は人工惑星であると発覚。

 更に、次元滑りの以前から頻発していた亜次元断裂はこの人工惑星のシールド機能が異常動作を起こした結果と判明。

 もしやホロムービーなんかで見たりする、これは難しいミッションになるみたいな流れかとワクワクしていたら、機械的知性達が乗り込んだ船外作業艇が現地で修復作業を始めていると言われてしまった。


 そうね。なんで人工惑星とわかったのかとか、それが故障していると分かったのかといえば、もう現地で調査を始めてるからだよね。

 そんなこんなでやっぱりいつもと同じく特別盛り上がる場面がるわけでもなく、順当に粛々と諸事が(こな)されていった。


「知識不足ですみません。根本的な疑問として、船を守ってるシールドって亜次元と何か関係あるんですか?」


 食堂にて、白手袋擦り合わせる拳の鋭い子が寝ているしなやかスレンダーさんを背負った俺と、俺の対面に座る苦労人ぽい三女エルフさんに仄かに発光する紫色の液体が入ったカップを置きつつ話題の提供くらいの軽い感じに訪ねてきた。

 カップに入っている以上飲めるんだろうけど、初見の発光してる飲み物を躊躇なく飲むほど俺の肝は太くない。視線でお先にどうぞと苦労人ぽい三女エルフさんに勧める。


「シールドが亜次元関係技術というのは知ってますか?」


 ついっと目を逸らした苦労人ぽい三女エルフさんが、然も俺の視線には気づいてないと言わんばかりに白手袋擦り合わせる拳の鋭い子の振った話に乗っかる。


「聞いた覚えはありますが、詳しくは……」


「ざっくりと大雑把に言うと、宇宙船のシールドっていうのはこう、亜次元の膜をかぶってる感じなんだよ」


 背負っていたしなやかスレンダーさんを引っ張り上げて、着ぐるみを被る感じに実演する。やってから思ったが、逆にわかりにくいか。


「帝国周辺の技術レベルだと、普段過ごしている次元と亜次元との通信手段はなかったと思われるのですが」


 よくそんなこと覚えてるなー。俺はこの辺の技術とか全く興味が無くて、抱いて当然の疑問を訊ねたりしない所為で指導してくれたムチムチ美人さんに質問はないのかと反対に質問されたなぁ。


「その膜に穴を開けて銃口とかセンサー類を露出させてるんだよ。その辺りに砲撃を上手く当てられると一発で撃沈できる」


「わざわざ弱点を作るぐらいなら、亜次元の膜など作らず亜次元に潜航すればよいのでは?」


 すごく不思議そうな白手袋擦り合わせる拳の鋭い子。

 俺はへーそういうものなんだーと流したから、ムチムチ美人さんに本当に話を聞いてるのかと半ば叱られたのを思い出す。


「亜次元って風化が激しいらしいよ」


 実のところこの辺りから俺の認識は曖昧になるので勘弁してほしい。


「最近、いろいろなものを亜次元でサルベージ? したんですよね……?」


 ああ、俺の説明が微妙な所為で混乱させてしまっている。


「より正確には、生物を内包した物体の劣化が激しくて――」


 あーあー俺にはもうワカラナーイ。苦労人ぽい三女エルフさんが詳しく説明し始めてるけど俺にはワカラナーイ。

 口頭で説明を受けるている白手袋擦り合わせる拳の鋭い子も、案の定どんどん不思議そうな顔になっていっている。俺が横で資料なんかをホロウィンドウで表示できればマシなんだろう。俺が理解できてないことを教える補助など俺にはできない。


「端的に言えば、生物が乗ってる宇宙船はシールド張ってなくちゃ亜次元でも危ないんだよ」


 教える側と教わる側の雰囲気の乖離が激しくなってきたので強引に割り込む。

 これだけ分かっていれば良いってムチムチ美人さんに言われた。匙を投げられたともいう。


「なるほど」


 理解できないのでもういいとは言うに言えず困惑顔だった白手袋擦り合わせる拳の鋭い子が、安堵したような顔で頷いている。


「う……ごめんなさい……」


 苦労人ぽい三女エルフさんはやり方が悪かったとちょっと凹み気味なので、一緒に図解とかの資料をホロウィンドウで見せれば良いんだよと慰めておく。視覚情報の有無で人種(ヒトしゅ)の認識は様変わりするってクルーの誰かが言ってた。


 その後、苦労人ぽい三女エルフさんがホロウィンドウであれこれ見せながら再挑戦すると、白手袋擦り合わせる拳の鋭い子は概要をあっさり理解した様子だった。俺はやっぱり無理だった。

 というか、魂がどうとかの解説も混ざっていたので俺が知ってるのとちょっと違ったと思う。


 そういえば俺がムチムチ美人さんにシールド関係について教わったのは帝国領内で巡洋艦を動かすための資格試験の時だったので、苦労人ぽい三女エルフさんが教えてくれた内容は≪金剛城(こんごうじょう)≫のデータベース由来の知識なんだろう。

 もしかしたら、帝国のスクールで教わった知識も≪金剛城(こんごうじょう)≫のデータベースから学び直すと違う結果になるのかもしれない。

 いや、もしかしたらもなにも、技術的には≪金剛城(こんごうじょう)≫の方が先を行っているのだから何も不思議じゃないわ。


 一時期クルー皆の持ち回りであれこれ教わったときは結構楽しかったし、あんな感じで誰かに頼もうかな。

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