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01-09

 漸く自力で建造した目出度い1隻目の大型工廠艦が完成したのは≪海老介(えびすけ)≫を拾得して1年が経ったくらいの頃だった。

 たった1年で自前の工廠建造してそこで船1隻完成させるとか常軌を逸している。

 トゥルーギフトってとんでもないとしみじみ思う。


 なおI.M.S.I.も宙賊もこの宙域に近づいてくることすらなかった。

 この宙域はセンサー類が激しく撹乱されているのが理由だ。

 半年くらいあれこれ建造しているのを眺めている内に、ちょっとした思い付きでスクラップを集めて1隻くらい作れないかと遊んでいたら完璧に修復したI.M.S.I.系のセンサー類が狂った数値しか計測できなくてその原因を調べて気付いた。


 ≪海老介(えびすけ)≫のセンサー類はそもそも性能が高いし、取得したデータを処理する段階でもかなり高度な技術が使われているし、各種コンテナ式プラントで作ったモジュールも同等の性能なので程よい比較対象が身近になく現行技術との差を理解していなかった。

 所詮はトラクターの≪千亀(ちき)≫とは比べ物にならないのは分かっているので比較しようとすら思っていない。


 1隻目の大型工廠艦が完成した1時間後に2隻目の大型工廠艦が完成。

 必要分のパーツを用意しておいて一気に組み立てると感動の余韻に浸る時間が少なかった。


 シミュレート通りなら1隻ずつ完成まで作るより1工程ずつまとめてやる方が最終的な作業時間は短く済むってことで先にパーツ作っちゃったんだけど情緒が足りなかったかもしれない。


 大型工廠艦の組み立てに完成した大型工廠艦も使っててその分作業時間が短縮されてるのが原因か。

 つまりこれからはどんどん早く仕上がっていくのか。科学はすごいな。


 大型工廠艦がある程度組み上がったらいよいよ【生産研究型防衛拠点テストゥーディニダエ】の建造が始まる。


 マイナープラネットを利用した工廠では基本的に【生産研究型防衛拠点テストゥーディニダエ】の大型パーツを作り続け、比較的小型のパーツや組み立ては大型工廠艦が担う。

 一部の大型工廠艦は中型採掘船の建造をして凄まじい速度で消費されていく資源を調達させる必要もある。


 ≪海老介(えびすけ)≫のシミュレーターでやった通りなら一度資源が空になりかけるくらいで持ち直す。

 上手く予定通りいくかハラハラしつつ楽しみだ。上手くいかなくても作業が一時中断されるだけでなにも問題ない。


 営利目的とか誰かとの共同プロジェクトとかではなく思い付きと勢いで始めた秘密基地建造計画なので損益を勘案する必要がない。

 運送業をやめたせいで人付き合いも皆無だし。

 この一年くらいでまともに会話したのはムチムチ美人さんにお土産渡す時くらいな気がする。

 深宇宙の探索に出た際に孤独のストレスに耐えられるかを心配せず済みそうだ。


 【生産研究型防衛拠点テストゥーディニダエ】の建造は思っていたよりも早く感じられた。

 進捗予定そのままで作業は進んでいるんだから、多分視覚的に巨大なものができ上がっていくのが早いと感じる理由だろう。


 今でも一応の拠点にしているハビタットほどではなくとも一般的な宇宙船とは比べ物にならない大きな人工物を自分で作っているというのは、数字の上では把握していてもちょっと実感がわかないのもあるかもしれない。


 そもそも万単位の人種(ヒトしゅ)が永住できる巨大かつ高性能な建造物を個人所有して俺はいったい何をしたいのか。

 深宇宙の探索が当面の目的とは言ってもこんなものを深宇宙へ持ち込んで何をするのか。


 ……その時になって考えればいいか。

 もてあましたら資源に分解するなりして帝国の市場に流してしまえば良い。

 巨大建造物が組みあがっていく過程を眺めてるのは楽しいからそれで十分ともいえる。


 【生産研究型防衛拠点テストゥーディニダエ】の建造に着手して半年ほど経ったころ、初めて秘密基地の建造をしている周辺宙域へ敵性侵入者が現れた。


 そう、宇宙怪獣だ。


 I.M.S.I.でも宙賊でもなく宇宙怪獣がやって来た。

 しかも現行技術による艦船だと最新鋭機で固めた精鋭艦隊でも控えめに言って大損害を被る危険性の宇宙怪獣が滅多に見られない大規模な群れを構成していた。


 宇宙怪獣の詳しい定義は忘れたけど生身で恒星間航行を可能にする肉体と人種(ヒトしゅ)との相互コミュニケーションが成り立たない精神構造もしくは知性が大雑把な基準だったはずだ。


 俺の秘密基地になる【生産研究型防衛拠点テストゥーディニダエ】を建造している宙域に向かってきていたよく分からない超巨大生物の群れもその二つの条件を満たしていたので宇宙怪獣だ。


 そいつらはどこかの惑星の衛星かと言いたくなる巨体に現行技術の最新艦船よりも丈夫で高性能な甲殻を纏い50体ほどで群れたある種の理不尽だった。


 でも、そう。≪海老介(えびすけ)≫の前には子ウサギと変わらない脅威だったね。


 ≪海老介(えびすけ)≫は帝国宙軍の精鋭艦隊でも苦戦を免れない宇宙怪獣の群れを、≪海老介(えびすけ)≫の所有者として登録されている俺も今更ビビるくらい軽く一掃した。


 ≪海老介(えびすけ)≫を一度降りて思い付きで用意していた居住用コンテナに数日避難するくらい≪海老介(えびすけ)≫が怖くなったりもした。

 居住用コンテナに引きこもって数日後にはそんなんそれこそ今更かと吹っ切れて≪海老介(えびすけ)≫に戻ったものの、その数日間は生きた心地がしなかった。


 ひょっとしたらムチムチ美人さんや一時期俺の護衛をしてくれたレディアマゾネスなSPさん達やぶっちゃけ顔を思い出せない眼鏡の人も同じような恐怖を抱いていたりするのかもしれない。


 ムチムチ美人さんにその人達と分けてもらうのに(くだん)の宇宙怪獣の肉をお土産として確保してある。美味しかったのできっとまた喜んでくれるだろう。

 残りの肉の一部は冷凍で保管して残りの肉は分解後資源として保管し、希少物質満載の甲殻ももちろん資源として保管してある。


 結果だけ言えばお肉が手土産持ってきただけの出来事だった。

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