03-19
新エルフ星を出立し、目的宙域は亜次元適応人種の故郷。
10日間を予定していた航行は大幅にずれ込み、結局30日目にして漸く到着と相成った。
往路の移動時間が3倍にも膨れ上がった原因は明らかだ。
帝国周辺各国の現行技術では手が出ないほどの深度の亜次元を航行中、ふと試験運転のつもりでセンサー類を稼働させてみると予想以上に様々なものが引っかかった。
亜次元で見つけたのは亜次元のさほど深くない辺りで、しかも亜次元潜航機構関係の技術が未発達だったころに事故に遭ったと思しき宇宙船の残骸が殆どだ。
広大な宇宙に対して宇宙的には小さな物をそれほど沢山見つけてしまったのは、センサー類の感知範囲が桁を数え間違えたのかと何回か指をさして数えてしまうほど広かったからだ。
センサー類に反応したものを拾い集めるうちに、何度か目的宙域を通り越したぐらいあっちこっちへ寄り道してしまった。≪金剛城≫の航路を確認したら、酔っぱらった迷子 (成人) の方が合理的な思考の元行動していると感じたほどだった。
「長い旅だったな」
食堂隅のリラクゼーションスペースでクッションに背中を預け足を延ばしてラグに座り込んだまま、アンニュイな雰囲気を醸し出そうと努力しつつ呟いてみた。
次の御飯は貝類でも焼いてもらおう。壺焼きって言うんだったか。生育食材は慣れるまで見た目で受け付けないものも多かったな。今じゃそんなもの懐かしい感覚だ。なんだったらグロイ見た目ほどおいしい説に一票投じるのもやぶさかでない。
「ええ。その……少々、趣味に没頭しすぎた可能性は否定できません」
俺の右太腿の上に頭を固定されて、さわさわと髪を撫でられている先輩さんが恥ずかしそうに視線を逸らしてもごもご言う。
ホントいつ触ってもぬめっていうかするっていうかのこの手触りは素晴らしい。
「色々な……本当に色々な発見もあったのだし、ちょっとくらい予定をオーバーしたくらい誰も気にしないわ。人を待たせていたわけでもないのだもの」
俺の左太腿の上に頭を固定されて、やっぱり髪を撫でられているふわふわヘアーさんが少しばかり視線を泳がせながら先輩さんをフォローする。
正直なところを言えば、俺を含めて関係者の誰一人として気にしてないので罪悪感を抱く必要はない。予定も厳密なものではなく、大体こんな感じでくらいのふわっとしたものでしかない。
遥か古代の先史文明が遺した小さな人工惑星を見つけたりしてしまった割りには、寄り道に使った時間は少なかったと思う。
深深度亜次元探索旅行が終わったらあの人工惑星を調査したいとの要望が多く寄せられているので、むしろみんなよく我慢したと褒めるべきではなかろうか。
「スッキリすれば細かいことなんて気にならなくなると思います!」
奉仕過激派系の子は平常運転。さすがはその道においてムチムチ美人さんの後任と目されているだけはある。
「いえ、スキンシップは現状で十分間に合ってますので」
クッションに背中を預けて足を延ばしてラグにべたっと座る俺と、その左脚に頭を乗せてごろごろする先輩さんと、反対の右脚に頭を乗せて俺のお腹をじーっと見つめるふわふわヘアーさん。
あからさまにイチャイチャする3人を見て考え込む奉仕過激派系の子。
「では背中は私が占領するということで」
宣言するなりいそいそと俺の後ろに回り、そっとクッションを除けてぐいぐいくっついてきなさった。
うーん。食堂内のイチャイチャ度数がまた急激に上昇した。
ちょっと食休みしたらコントロールルームで深深度亜次元探索前の事前チェックでもしようと思ってたんだけどなー。でも折角いい雰囲気の3人を引っ剥がしてやるほどのことでもないしなー。仕方ないよなー。
実際のところ優秀なクルーさん達が多重チェックを繰り返した後なので、今更俺がチェックしても抜けが見つかることはないと確信している。
なのでこのまったり空間を堪能する方が大事。
「道中見つけたものでイチオシはなんですか?」
美人さん2人の髪を撫でたり後ろから可愛い子に頭を撫でられたりしつつ、とりとめもない雑談をしている流れで大した意味もなく聞いてみた。
「それはもう今まで知られていなかった先史文明の人工惑星ですよ。しかも完全に保全された休眠状態で、すぐにでも稼働させられるなんて、もう、もう! 調査が楽しみです」
山羊由来人種の先輩さんがもーもーいうほど興奮している。
こんなにハイテンションな先輩さんはとても珍しい。しっかり愛でておこう。
「あれは当然すごいけれど、私としては宇宙開拓黎明期の保存食がかなり良い状態で残ってたことかしらね。保存技術が拙いころの物だったのに、数千年経ってもあんなにキレイなのは亜次元の神秘よねぇ」
肉の解析が上手くいけば≪金剛城≫のプラントで再現を頑張るわとの決意表明をするふわふわヘアーさん。
肉を強調しているのがふわふわヘアーさんらしさ。昔の人はどんなものを食べていたのか、それを再現した料理を食べた自分がどんな反応をするのかは俺も楽しみにしている。
「ご主人様はやっぱり良い匂いがします」
話が通じているのか分かりにくい奉仕過激派系の子はこれが平常運転なのが恐ろしい。
亜次元でサルベージされた物にはあまり興味がないという意味合いと思われる。
だらだら会話して適度にポジションチェンジを挟み、ゆるゆると過ごす一日となった。