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03-10

 ムチムチ美人さんを抱えて鑑賞していたホロムービーのエンディングが終了。

 じわーっと室内が明るくなっていき、それに合わせて奉仕過激派系の子がささっとピンク色の飲み物が入ったカップを俺とムチムチ美人さんに手渡してくれる。

 ピリッとしたあと()みるように苦味が喉を落ちていくのが心地好い。なんて名前の飲み物かいつも思い出せないのが玉に瑕。


「んー。値段相応って内容でしたね」


「損した気分にはなってないので十分では?」


「その妥協した感じが損してる気分になるんですよ」


 ムチムチ美人さんと感想を言い合っていたら、奉仕過激派系の子がさり気なく仕草で丁度いい位置に指先くらいの大きさの丸い水色が盛られたお皿を置いてくれた。ふわっと触感なそれを口へ運ぶと、しゅわっと口の中がさっぱりした。ちょっと面白い。


 俺が満足してるのが分かったのか、なにかを噛み締める様子で目をつぶって拳を握っているのが見えた。あれこれお世話されるのは流石に慣れた。当人が満足ならこれで良いかなと今は納得している。ムチムチ美人さんの抱き心地はいつもと変わらず抜群に好いし。


「こうしてだらーっとするの、なんだか久しぶりな気がします」


 はふっと息を吐いたムチムチ美人さんがぼやーっと呟いた。

 久しぶりと言うほどだろうか。この人はなんだかんだ忙しくしてるのが好きなので、いつもだらーっとする俺と比べれば確かに久しぶりと感じるのかもしれない。


「皆さんの扱う複製身体の数も増えたので、完全に1対1で独占できる機会は減りつつあるんですよー」


 ナチュラルに奉仕過激派系の子が数に含まれていないものの、おすまし顔な当人はなんとなく満足げなのでそれでオッケーみたいだ。


「そう言われるとそうですねー」


 俺の方の都合を考慮して俺の複製身体か本体の内1体は完全にフリーになるよう配慮してくれていることもあり、俺の恋人とかお嫁さん的なパートナーになってくれた女性陣に対して俺が少ないのは明らかだ。

 複製身体含めると、≪金剛城(こんごうじょう)≫に居るのは今何人だったか。


 チラっと奉仕過激派系の子に視線をやる。

 万事心得ましたと言わんばかりの満面の笑みで頷き、服を脱ごうとしはじめたので慌てて止めた。まだ以心伝心とはいかなかった。


 今度は抱え込んで抱きしめているムチムチ美人さんの顔を覗き込む。

 もう仕方ないなーと言わんばかりの微笑みで頷き、服を脱ごうとしはじめたので慌てて止めた。以心伝心どうこうっていうより変なバイアスかかってそう。


「今ってみんな合わせて何人でしたっけ?」


人種(ヒトしゅ)のクルーが20人で、複製身体を含めると64人ですねー」


「増えましたねー」


「ですねー」


 やはり言語は使い勝手のいいコミュニケーションツール。意思の疎通において齟齬は大きいらしいが、使い勝手は良いんじゃないかなと思う。


 コミュニケーションの手段はさておき、複製身体も増えたなーと思ってふと気づいた。

 複製身体が増えることによる余剰な思考リソースは個人差があり、俺は少ないがムチムチ美人さんは多い方だ。元々の脳のスペックだけでなくそういうところでも単位時間当たりの思考量に差が生じれば、俺が久しぶりと感じなくてもムチムチ美人さん始め他の人には久しぶりに感じられてしまうかもしれない。


「……実はもうちょっと増えられたりしません?」


 つまり俺の恋人とかお嫁さん的な彼女達が、もう少しそれぞれと一緒にいる時間を増やしたいと求めるのは当然の権利であり俺にはその思いに出来る限り応える義務と権利がある。

 端的に言えば俺も彼女達と一緒にいる時間が増えるのは嬉しいばかりなので、応えられるなら応えたい。


「そう言えば最近は適正チェックを全然してないですね」


 同時に操作できる複製身体が9体になったあとは、増えそうな感じが微塵も感じられなくなったので年単位で確認をサボってた。もしかしたら10年以上適正チェックをしていないかもしれない。


「じゃ、確認しに行きましょうか。見るつもりだったホロムービー全部見ちゃいましたし、もしかしたら1体か2体くらいは増やせるかもしれませんし」


「いえすまーむ」


 場所を移してさくっと診断してみれば、同時操作できる複製身体が5体ほど増えていると発覚。ムチムチ美人さんにちょっと呆れられた。

 こまめに確認しておけば複製身体が徐々に増えて、現状の皆のささやかな不満も無かったかもしれないとなると叱られても仕方なし。呆れられる方がちょっと心が痛い。


 そのお詫びってわけでもないが、5人の俺に囲まれてるムチムチ美人さんがちょっと満足げなのでなんとなくそのまま暫く甘やかしてみる。

 大して時間もかからず、直接的な行為はなしにでろんでろんに蕩けて他人様にお見せできない状態になってしまわれた。御姫様扱いはなにかのツボにはまった様子。


 貴女もどうでしょうかと奉仕過激派系の子にチラっと視線をやる。

 かなり葛藤したあと、こくりと小さくうなずいた。

 こちらもまた甘やかしに甘やかしてみると、お世話される側は慣れていないのかいやんいやんとくねくねしながら嬉しそうだった。新しい扉を開けたようでなによりです。


 ムチムチ美人さんと奉仕過激派系の子を抱えてシアタールームに戻ったものの、2人とも顔を隠してうずくまり羞恥に悶えてしまった。

 俺だけ6人も居てもしょうがないので≪金剛城(こんごうじょう)≫の中へと複製身体5体を放った。放ったというか、全部俺の意識で操作しているので暇を持て余してふらふら散歩を始めた。


 シアタールームに残ってなんとなく2人の頭を撫でていたら、ふと疑問が1つと閃きが1つ脳裏を駆け抜けた。


 まずは疑問を解消すべく複製身体に関する資料をホロウィンドウで日理宛調べていたら、やっぱり複製身体14体を操作できる適性というのはすごい感じ。

 脳の余剰処理能力も基の俺8人分くらいになっているし、然もありなん。

 そんな余分な処理能力を活かせるわけでもないのが俺らしい。……特にすることないし余らせてて害があるわけでもないし別に良いか。


 次にさっき閃いたこと。普段使いは複製身体のみにして、本体はどっか全然なところで保管というか大事にしておけばなんか安全そうじゃないだろうか。

 これも資料をあれこれ調べていたら、よく分からないが健康によろしくないようだ。


 いつの間にか無機質美人のホログラムが現れて、エルフさん四姉妹の育てている植木鉢にARを被せつつ、魂は本体に根を張り幹を成し、複製身体は枝に当たる部分がどうこう教えてくれた。正直良く分からなかったのでそういうものだと認識しておこう。

 全部ホロウィンドウ内で済ませれば植木鉢を借りてくる必要なかったんじゃないかなとは思った。

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