03-09
俺の身長と同じくらいの大きさのブイ用に小型化したシールド発生器でも十分な安全を確保できると分かったので、高重力恒星系あらため異常高重力恒星系を囲む複数のポイントからブイをどばっと放流。後で全部回収できるようになっていて使いまわせるそうなので資源に優しい。
現状の≪金剛城≫は消滅前の異次元で資源を集めているので資源は持て余しているとは言えど、だからと言って無駄遣いする理由もない。技術や運用実績は積み上げてナンボって誰かも言ってた。
ブイを示す光点が恒星系のあっちへ行ったりこっちへ行ったり同じところでグルグル回ったり、見ていて飽きないホログラムをぼうっと眺める。
重力の方向をまず調べるため放流したブイは重力に沿って移動するはずなのに、なぜ輪を描いているのか。重力って円を描く形に発生するものだったのか。
ジグザグと鋭角に曲がる軌跡や、マイナープラネットに真っすぐ向かって行って衝突直前に急なカーブを切ってまた別のマイナープラネットに向かう軌跡もある。
【特殊宙域探索母艦カリュブディス・ジェイ】の≪蟹江≫はぐるっと大雑把に一周できたらしいけど、ちょっとデンジャー過ぎませんかね。
「想像以上ですね」
さっきまでやってた作業に区切りがついたのか、リーダーさんが俺の側にやってきて同じホログラムを見ながらしみじみ呟く。
「びっくりだよね。研究室でもなければ見かけないだろうって合金がその辺飛んでたのは常識が変わるよ」
指先くらいの大きさの金属球を眺めながらツルスベさんがうっとりしてる。
リーダーさんが俺の側に来る前に部屋を見渡した時は居なかったはずなのに何時の間に来たのかっていうか、もう外で拾った物の安全確認を済ませてここまで持ってきたのか。
「探検するのは良いけど変なもの拾ったりしないでよー?」
わざわざ言わなくても危険物を≪金剛城≫に招き入れたりはしないだろうけど、何か良く分からないものを何か良く分からないまま持ち込む事故は起こりそうなので一応釘をさしておく。
「え?」
「え?」
今反応したの結構な人数がいなかった?
横でびくっとしたツルスベさんは分かる。≪金剛城≫に持ち込むどころかもう自分の手で持ってるし。
でも何人が今そんなこと言われても見たいな声出したんでしょうかねぇ。
「もうなにか拾ったの……?」
「だって落ちてたし、落ちてたら拾うよね?」
ツルスベさんが視線を逸らしながら超理論を展開なさる。
他の面々はツルスベさんに俺の相手を押し付けてそれぞれの作業に集中してるフリをしている。あからさまにチラチラこっちを見るので、落ちてる物をとりあえず拾う人がとても多いとよく分かる。
別に良いんだけどね。盗んだとかじゃないんだし。
でも当然のこととして、安全確認にはきっちり注意を払っていることを明言して頂きたいと思うのですよ。いつだったか、≪金剛城≫へ運び込もうとしたコンテナを触手が内側から突き破る事故なんかもありましたのでね。事故っていうか事件だよねアレ。
「検疫とかはしっかりやってるんだよね?」
「それは大丈夫。……だよね?」
ツルスベさんがなぜかリーダーさんにパス。不安になるんですけど。
「はい。大丈夫ですよ。外で検疫や解析専用のコンテナに放り込んだら数日かけて安全性を確かめて、その後≪金剛城≫へ搬入したのち更に精密検査を行います。その検査結果を数グループで多重チェックし、漸く欲しい人の手元に届けてオーケーという手順です」
なんか皆忙しそうにずっとホロウィンドウを眺めていると思ったらそういうことか。ちょっと拾い過ぎじゃないですかね。
「おっと。そろそろ≪蟹江≫に乗って恒星系のクルージングができるようですよ」
安全面への配慮はしっかりしていると主張を済ませたためか、リーダーさんが強引に話を逸らしにかかった。うーん……ま、いっか。
そんな訳で、もう既に拾っちゃった色々のチェックだけ済ませて皆で≪蟹江≫に乗り込んで異常高重力宙域へと繰り出すことになった。
もう拾うなって言ってるのにあれもこれもとかき集めようとしてた幾人かは、ペナルティとして首から『私は我慢できない子です』と書いた板をぶら下げて数日過ごしてもらう。楽しみを先延ばしにされて焦らされた人達が怒るのも分かるし、そのくらいの罰は仕方ない。
「ふおぉ……」
クルージング中は皆で生活サイクルを揃えようと揃って御飯を食べていたら、リーダーさんが控えめに奇声をあげた。これは別にリーダーさんに限ったことではないのでだれも何も言わない。
船外の重力は確実に遮断されているはずなのに、なんとなくいつもと違う何かを皆感じてそわそわしている。異常高重力宙域突入後数日経ってもまだまだ慣れそうにない。起床後のバイタルチェックで異常が出ていないのは不思議なくらいになんか落ち着かない。
そんな感じで、ムチムチ美人さんや奉仕過激派系の子すらセンシティブな話題を繰り出さない10日間だった。
異常高重力恒星系でのピクニックではあれやこれや予定していたことは全然消化できないまま終わったが、他所ではできない体験だったのは間違いないので終わってみれば不満の残らないレクリエーションとなった。
恒星系内ではほぼクルージングしただけの調査終了後に、純粋超重金属の天体核を再現した重力関係の新しい技術が構築された。結果、似たような異常重力環境を再現したレースコースが用意された。
俺とエルフ四姉妹マイナス1人の合計4人はそのコースでまともに船を飛ばすことができず、見た目は玉突き事故のおしくらまんじゅうモドキで遊んだ。
楽しかったから良いんだよ。